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『欧州通訳の旅、心得ノート』 一緒に通訳の新しい旅に出ませんか? 寺田千歳

第2回

よく歩き、ちょっとお洒落でお腹が空くのが欧州通訳?

みなさま、こんにちは。寺田です。
今回の旅から、欧州でのビジネス通訳で抑えておくべきビジネスマナーの特徴についてまとめていきます。今回は出張準備について。まずは持ち物から。  出張先の国や都市の情報:英語圏以外の場合、旅行ガイドブックと旅の基本フレーズ集があると、なにかと便利です。現地語ができると得することもあります。

  

スーツケース:それぞれ海外旅行で愛用されているものでいいと思いますが、ただ、欧州では主要な駅のエスカレーターやエレベーターが壊れていることも稀ではなく、大きいもの1つより小さいもの2つにするなど、 いざ自分で荷物を持って階段を上れる重さになるよう意識しておいたほうが無難かもしれません。ただ、欧州では、困った時には、必ず周りの誰かが助けてくれます。

 

服装:欧州では寒暖差が大きく、真夏の昼間30度でも日が暮れると15度まで下がる日もあります。ドイツ語の慣用句に「間違った天気はありません、 服装が間違っているのです。」というものがありますが、いくつかのバリエーションがあれば安心です。 ドイツ語で「たまねぎの原則」といわれますが、重ね着を活用します。寒暖に合わせて、カーディガン、スカーフ、ジャケット、 コートを脱ぎ着して体温調節します。西洋男性には暑がりの方が多く、彼らに快適な温度では日本人には寒いと感じる場面もしばしば。 また、髪と瞳が黒い日本人は概してモノトーンのコーディネートが似合い、私も当初はモノトーンを好んでいましたが、 欧州ではモノトーンは保守的な金融界ぐらいでしかみられず、ビジネスでも一般的に中間色が好まれているようです。 おしゃれに興味がある方は是非、グレージュやブラウン、紺などお好みの渋い中間色でシックにコーディネートすれば、よりヨーロッパの風景に馴染むでしょう。

  

会食の時間と常備食:パターンとしては、会議17時終了後一旦ホテルに戻った後、再び集まり、20時より2時間半から3時間の会食になります。 ドイツ・フランスなど大陸では夕食は20時開始が基本。まず、仕事後一旦帰宅、シャワーを浴びてリフレッシュし、ドレスダウンして出てきます。 2次会は稀ですが、会食後に宿泊先のバーで一杯、の流れもあります。私は翌朝から会議が予定されている場合は、睡眠時間を確保する為、 事情を説明した上で参加しない場合もありました。別パターンとしては、会議終了が17時以降の場合は、全員でレストランへ直行し、 19時頃から会食するケースもあります。スペインではレストランのディナー開店が22時と日本人にとっては非常に遅い時間帯で、 それまで何も食べないと空腹のため胃を痛めかねません。このように食事が遅くなる場合を想定して、私は腹持ちの良いビスケット、 オレンジジュース、常温保存の牛乳パック、りんごなどを荷物に常備していました。さて、ディナー時の通訳の服装ですが、日本からの参加者がドレスダウンせず、 スーツのままで行く場合、同じようにそのままの服装でいいでしょう。ビジネスカジュアルですが、欧州の女性はビジネスの場ではパンツスタイルが多いため、 ディナー席ではイメージを変えて、シンプルでシックな色合いのワンピースも好まれるようです。欧州の夏は日照時間が極端に長く、22時半頃まで明るいため、 ディナーも屋外席が好まれ、体が冷えることがあります。よって、私は夏でも夜はパンツスタイルのまま、 トップスだけディナー用に変えたり、首にスカーフを巻いて防寒しながら華やかさを出すなど、ディナーの席に合うよう工夫しました。

  

靴:靴職人の国、イタリアを擁するヨーロッパの人々は靴をよく見ています。靴のマナーとしては、高価なものは必要ありませんが、基本革靴で、 ソールも含めてきれいに手入れされていること。欧州のホテルには無料で誰でも使える革靴のお手入れマシンが設置されています。 また、欧州出張の靴はデザインだけでなく、機能面も確認したいです。欧州も都市部では普段からよく歩きます。 移動中に中世の面影が残る旧市街地や公園など歩くこともあるため、歩きやすい靴がお奨めです。真冬の出張で、滑り止めソール・ 完全防水仕様のショートブーツがあれば安心です。アルプス以北の国では、真冬は氷点下18度の日もあります。 南ドイツで小雨が降る冬の夜、私はディナーへ向かっていました。気温が急に氷点下となり、路面が一瞬にして凍り、 突然目の前がツルツルのスケートリンクになりました。車道へ落ちないよう、ガードレール、標識、窓の格子につかまりながら、 命からがら目的地にたどり着いたことを覚えています。天候に適した靴を履いていなかったこと、運悪く溶雪剤が撒かれる前の路面を歩いてしまったことが原因でした。

  

アメニティ:日本人の出張者の方が「ヨーロッパのホテルに歯磨き粉と歯ブラシがない」と時々言っていました。欧州のホテルでは前から環境問題に配慮し、 使い捨てのアメニティを最小限にするところが増えてきているようです。私は出張で3-4つ星のホテルに泊まることが多く、 ドライヤー・タオル・石鹸・シャワーキャップ以外はついていないこともあり、中には最初から「必要なアメニティはフロントへお電話下さればお届けします」 という形式もみられました。掛け布団や枕用のメニューを備え、羽毛・ポリエステル・柔らかさなど、ゲストの好みに合わせて交換してくれるところもあり、 快眠できてうれしかったです。月曜日の会議のために日曜日に現地入りする場合、欧州では、お店が閉まっていることが多いでしょう。 必須アイテムは持参した方が無難かもしれません。

 

通訳道具:国内出張と欧州企業の会議室には、ボールペン、B5やA4サイズのメモパッド、お水が用意されています。 ボールペンの色は基本ブルーで線は太めです。黒でサインが必要な場合など、自分で黒を用意します。 A4紙はホテルのフロントでもいただけることがあります。お水ですが、会議の国や都市により産地や種類もそれぞれで、 炭酸水入りと炭酸が微量/炭酸なしのミネラルウオーターに分かれています。「ビールのように喉がシュワシュワする」強い炭酸水を好むドイツ語圏では、 強い炭酸入りのお水しか出されない場合もよくあります。私のように強い炭酸が苦手な方は要注意です。慣れていない人が一度に大量に飲むと、 会議中にゲップを堪えることになりかねません。現地のスーパーで手軽に買えますので、私は炭酸なしのミネラルウォーターを常に持参していました。

 

移動手段:ドイツは地方分権国家のため、企業も当局もあちこちにあり、ドイツ国内でも出張が伴います。 ベルリンーフランクフルト間は片道約550キロ、ベルリンーミュンヘン間は600キロ。ドイツ以外の欧州出張には、ベルリン在住時の移動は主に空路。 一度の出張で2カ国各都市を周遊し2000キロ移動することも稀ではありません。スイス・オーストリア以外、欧州の鉄道は遅延・運休などが頻発します。 よって、往路は基本前日に現地入りして、翌朝の会議に必ず間に合うよう心がけました。空港へ向かう途中のタクシーで渋滞に巻き込まれ、 予定のフライトに乗り遅れそうになったこと、パリの空港に到着後、一部従業員のストで荷物が2時間遅れで出てきたこともありました。 ドイツの出張先で経験した真冬の出来事です。夜の間に未曾有の暴風雨により、各地で木々がなぎ倒され死者も出ました。私は翌朝ケルンから鉄道でベルリンへ帰ろうも、 線路や信号の障害で鉄道ダイヤが大混乱。ケルン中央駅は騒然とした状況で、駅員から正確な情報の発信はなく、 周りの乗客の口コミ情報を頼りにベルリンに行きそうな列車を探し、11時間以上かけて日付が変わった午前1時半ごろベルリン中央駅へ辿り着いた日を思い出します。 想定外の12時間がかりとなった帰路の道中、私の糧は持参の常備ビスケット数枚、水1本とパックジュースだけでした。少ないですが、なんとかしのぎました。

 

大人の国、自己責任の国、欧州における出張は時にして孤独な戦のようなもので頼れるのは自分だけ。 「ストは労働者の権利」の意識が定着している欧州では、空路・陸路のいたるところでストが起こります。 常にこれを意識して、移動方法や宿泊先を計画し、十分な兵糧を忍ばせておくこと、混乱時には自分で情報を入手する努力が戦に負けない秘訣でしょう。

 

今回はここまで。次回もビジネスマナーの続きで、会議室編と会食編について詳しくお話いたします。

 

寺田千歳 1972年大阪生まれ。日英独通訳者・翻訳者。ドイツチュービンゲン大学留学(国際政治経済学)、米国Goucher College大(政治学・ドイツ語)卒業後、社内通訳の傍ら通訳スクールで学び、 その後、フランスEDHEC経営大学院にてMBA取得。通訳歴20年内13年ドイツを拠点に欧州11カ国でフリーランス通訳として大手自動車・製薬メーカーのR&D、IRやM&A、 日系総研の政策動向に関する専門家インタビュー等を対応。現在は日本にてフリーランス通訳者。

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