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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第6回:Recognize customer's needs.

この仕事をしていて最も難しいと感じることのひとつが、顧客目線に立って自分自身を客観的に評価することです。顧客は通訳スクールの講師のように改善点を指摘してくれるわけではありません。また、具体的に要望を伝えてくれるとも限りません。ではどうしたら良いでしょうか? 今回は顧客のニーズについて少しお話ししたいと思います。

◆クライアントからの評価が高い通訳者とは

以前セミナーで「仕事を獲得するには」というテーマで講演をするにあたり、いくつかの通訳エージェントの担当者に「クライアントから評価が高い通訳者」について質問をしてみたことがあります。その際、「実力や経験に加えて、コミュニケーション能力が高い人」という答えが異口同音に返ってきました。この場合のコミュニケーション能力とは「自分の置かれているポジションがどのように期待されているかを客観的に把握でき、能動的にまた柔軟にその場その場の状況に対応することができる能力」だったと記憶しています。また「顧客の希望する分野の経験やスキルが100%合致していなくても、業務に入ってからのキャッチアップが早い、もしくはその意欲のある人」もやはり顧客から高い評価を得ているとのことでした。

◆顧客のニーズに応える

まだ駆け出しの通訳者だった頃、ある建築関連のプロジェクトの採用面接を受けました。面接の最後に、思い切って前任の通訳者が辞めた理由を質問してみました。というのもプロジェクト半ばでの通訳者交代というのが、どうにも腑に落ちなかったからです。曖昧な答えでしたが、採用となり、次の週から施主である2人の米国人に付いて簡易通訳機器を使った同時通訳を担当することになりました。 電気、ガス、配線、その他の設備など日本側の各事業会社からの進捗報告は、初めて耳にする専門用語満載で猛烈なスピードです。プロジェクト終了までの半年間は、「一言も漏らさずに英語に訳出して欲しい」とのリクエストに応えるべく必死でした。ようやく専門用語やスピードに慣れた頃プロジェクトも無事終了。打ち上げのパーティーで初めて聞かされた前任の通訳者との交代の理由は意外なものでした。曰く「内容を勝手に要約してしまう」。ニーズが明確に伝わっていなかったがための交代だったとしたら、実に残念なことです。

◆いかにキャッチアップしていくか

上述の仕事では当初建築用語辞典を購入して勉強したのですが、どうも米国人の施主の反応が鈍く会議で使われている用語とは微妙に違いがあるように感じていました。またプロジェクト前半での作業に話題が及ぶと、通訳者一人が取り残されてしまいます。おそらく議事録が作成されているはずと思い、施主に恐る恐るリクエストしたところ、過去の議事録に加え、前回の議事録を毎回会議の前日には入手できるようになりました。議事録は日英対訳で、簡潔でありながら内容に過不足がなく、無駄な言葉が全て削ぎ落とされていました。その議事録のおかげで建築用語の確認に加え、訳語の語数を減らすことができ、大いに助かりました。結果として極端な早口にならずに落ち着いて訳出することができ、パフォーマンスの向上にもつながったように思います。

最後に誤解の無いように一言。良いパフォーマンスを可能とする環境を確保することは重要ですが、現場の状況によっては難しい場合もあります。質問すれば何でも教えてもらえるわけではありませんし、手当たり次第に資料を要求する前に自分で調べられることもあるはずです。与えられた環境の中でベストを尽くす。能動的に柔軟にその場その場の状況に対応する能力をぜひ身につけたいものです。

Recognize customers’ needs and do what suits the interests of customers.

それではまた次回お会いしましょう!

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