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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第17回:通訳のノートテーキングのコツ

春は始まりの季節。通訳学校も4月の中旬から新学期がスタートしています。ここ数年教えている短期の集中コースでは、初日に自己紹介を兼ねて受講動機を聞くようにしています。最近特に多いのが「通訳のノートテーキングのコツを知りたい。」という受講理由です。英語ができるというだけで、他の部署の社内会議の通訳を頼まれることも多いとのこと。「単語を書きとることに必死になって、いざ訳そうとメモを見ても何も思い出せないんです。」と切羽詰ったようす。…その気持ちは痛いほどわかる! 残念ながら即効薬は無いけれど、解決の道筋はいくつかあります。

まず本当にノートテーキングだけが問題なのか?原因を自己診断します。

1.そもそも会議の内容や用語がほとんど理解できなかった。
2.理解できてはいたが、いざ訳しだしたら記憶がとんでしまった。
3.英語(日本語)の表現力が足りないため言葉に詰まってしまった。

明らかに1が原因の場合は、ノートテーキング以前の問題です。また3が原因であれば、目的言語の表現力を向上させることが最優先でしょう。しかし2が問題だとしたらやはりメモ取りの工夫が必要かもしれません。
実際にレッスンをしながらノートを確認すると、メモをとらずとも記憶できそうな主語(何が)や目的語(何を)を書きとめる一方で、肝心の動詞(どうする/どうした)をとらないケースが実に多いのです。またスピーチの展開の鍵となるalthough, consequently, neverthelessといったリンクワード(接続語)を落としてしまい、話の方向性が把握できていないのです。固有名詞や数字と並び、接続語句は重要です。通訳の論理展開があいまいだと、聴衆は迷子になってしまいます。

記号やシンボルも活用すべきですが、「経済成長 (economic growth)」だったらeg と書くよりもe↑とした方が想起しやすい場合もあるでしょう。また二重否定などまぎらわしい表現も注意が必要です。あらかじめyesなのかnoなのか、agreeなのかdisagreeなのか、文頭にや×をつけておけば、長いノートをとり終えて、いざ訳出する段階になっても安心してスタートできます。
また単なる「increased(上昇した)」ならば、上向きの矢印↑で充分ですが、briefly(一時的に)あるいはacross the board(全面的に)がつく場合は、下線を引く、丸で囲むなどなにかしらのマークを決めておくとメモ取りも訳出も素早くなります。
さらに構造がわかるようなノートをとることが肝心です。関係代名詞のある長い英語のセンテンスならば、先行詞の後の関係節の要点をかっこ(  )にいれておけば、日本語への訳出もぐっと楽になります。また文章の構造がわかっていれば、箇条書きでメモを取り、内容を変えずに文章を短く切って訳出することも可能です。

記号については“通訳ノート&記号”と検索するといくつか参考になるものが見つかるでしょう。ただしノートはあくまでも記憶を助ける補助的なものです。「今日は内容がしっかり理解できたから通訳がうまくいった。」という日はあっても、「今日はノートテーキングが良くできたから、通訳がうまくいった。」ということはないのです。つまり「ノートテーキングのテクニックさえマスターすれば、どんなに長い文章も正確に訳すことができるようになる。」という認識は正しいとは言えないでしょう。

2. の「いざ訳しだしたら記憶がとんでしまった。」という場合も、実は1の「そもそも話の内容が理解できない。」と3の「表現力が足りないため言葉に詰まってしまう。」に関連した心理的な要因が影響を与えていることが往々にしてあります。

次回は1と3が原因の場合の具体的なトレーニング(解決)方法についてお話ししたいと思います。

それでは楽しいゴールデンウィークをお過ごしください!

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