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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第18回:通訳のノートテーキングのコツ その2

平成28年から8月11日を「山の日」と定める祝日法改正案が自民、民主両党など与野党の賛成多数で可決しました。(朝日新聞デジタル2014/05/23 19:50)おなじく祝日のない6月も検討されたものの、お盆休みと重なりやすいということで8月に落ち着いたようです。通訳業界も閑散期です。まとまった休みをどう過ごそうか、今から思いを巡らせています。

今回は前回に引き続き、ノートテーキングがうまくいかない原因について考えてみたいと思います。

「そもそも会議の内容や用語がほとんど理解できなかった。」場合、いざ訳そうとしてメモを見ても、おそらく断片的にしか内容を覚えていないはずです。結果、言葉に詰まってしまう。あるいは、かろうじてメモした単語から推測して主観を入れた訳を創作してしまう。これはもはや通訳とは言えません。
通訳学校にはさまざまな人が入学してきますが、時折、初見の理解力が抜群に良い人がいます。多くは通訳の経験はなくても、学生の頃読書家だった、長年翻訳の勉強をしてきた、といったバックグラウンドを持っています。つまり単語力、文法構造の理解や関連知識の点で優れているのです。結果として、リテンション(記憶保持能力)に差が出てくるのではないでしょうか。
一方で、英語のリスニングには自信があるのに「メモを見てもメッセージがさっぱり思い出せない。」といった問題を抱える人もいます。多くの場合「リテンションが弱いからだ。」「メモの取り方が下手なんだ。」と自分自身で結論付けてしまいます。しかしそもそも理解できていない言葉や内容を正確に記憶することができるものでしょうか?メモを見ても何も思い出せないという状況が「自分はリテンションが弱いんだ。」という思い込みを生みます。その誤った思い込みがプレッシャーとなり、落ち着いて聴けば理解できる英語でさえも「また頭が真っ白になってしまうんじゃないだろうか?」という不安から負のスパイラルを生んでしまうのです。
ここで大切なのは、自分のレベルに合った教材を使ってメモを取る練習をすることです。わからない箇所が出てくると途端に気になってしまい、集中できなくなるのであれば、理解できる語句だけで構成された易しい教材を選ぶべきです。文脈に適合する意味がわかり、構文が把握できていれば、要点をつかんだ効果的なノートを取ることができるはずです。音声のスピード、語彙、構文などの点であまりにも今のレベルからかけ離れた教材は、避けた方が賢明です。自信をつけた上で、もう一段階上のレベルの教材にチャレンジしていく。この繰り返しが、初見の即応力アップへとつながります。

しかし、職場で他部署の通訳をするとなると、そうとも言っていられません。過去の議事録があればそれを読み込む。わからない用語があれば会議の参加者に事前に確認する。業界紙や関連書籍を読んで知識を増やす、といった考えられる限りのありとあらゆる方法で理解力を引き上げていく必要があります。

次回は、「3.表現力が足りないために言葉につまってしまう。」といった問題の解決策について、私自身の経験を踏まえて、具体的にお話ししたいと思います。
それではまたお会いしましょう!

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