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津村建一郎先生

津村建一郎先生のコラム 『Every cloud has a silver lining』 東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。

第6回:老化とは何か?

今回は、老化とはなにか?老化を防ぐにはどうすれば良いのか?について考えてみたいと思います。

老化は、病気ではありませんが、誰にでも訪れてくるものです。人間だけでなく、動物や植物、微生物に至るまで老化は発現し、避け得ないものです。
今回は、この老化について色々と考えてみたいと思います。

1. 老化とは
曰く「種の保存のために、個は滅びねばならない」。
ネズミや昆虫が大量発生し、個体数が異常に増えると、集団で川や海、火などに飛び込んで自殺していくと言われています。これは、同じ種の生物の個体が増えすぎると、みんなが同じ食物を食べるので、エサがなくなり、やがては種自体が滅んでいく・・・のを避けるための生態系の法則です。
この様なことを避けるため、生殖機能(種の繁栄に必須)の衰えた個には「老化(senescence、aging)」が起こるよう遺伝的にプログラムされていると言われています。

● 生存パターンは種を越えて一定?
生物の理論的な寿命は、人間で120年 、ラットやマウスは系統によって多少の差はありますがおおよそ最長で4年程度、ハエも種類によって異なりますがおおよそ最長3ヶ月程度だそうです。
これに関して面白い(?)研究結果があります。
以下の図は、ハエ・線虫・ヒト・マウスの生存年数と生存率の関係を種の個体がほぼ死に絶える最長寿命を基に、時間スケールを標準化してグラフ化した生存曲線です。

100歳以上の日本人の寿命データに基づく権藤恭之博士の推定では男性115歳、女性122歳だそうです。

ご覧の様に、ほぼ同じ曲線にそって生存率、即ち、個体数が低下しているのがお解りでしょう。この結果から強く推測されることは、地球上の生物には種を超越した共通の老化(死)のプログラムが存在しているのではないか、と考えられます。
ヒトでは、30歳をすぎたあたりから、ほぼ8年ごとに死亡率が倍になると言われています。その計算からいくと、80歳の人は40歳の人の約30倍(8年ごとに倍ですから2×2×2×2×2=32倍)も死にやすいことになります。その一方で、90歳を過ぎると死亡率の低下が急に緩くなりますので、90歳を越える様な人は特殊な遺伝子を持っているのかもしれません。長寿家系というものがあるのも、なんとなく頷けます。

● 老化は何時から始まる?
上のグラフで見ますと、壮年期(30代~50代)あたりから急激に死亡が増えてきますが、老化自体は、オギャーと生まれた時から始まっています。
人間の胎児の細胞を使った研究では、実験室レベルで胎児から採取した細胞はおよそ50回の細胞分裂が出来るそうです。50回を過ぎると細胞分裂が止まりますが、その様な細胞を老化細胞(senescent cell)と呼びます。
老化細胞の細胞分裂を始めるある遺伝子をいくら刺激しても細胞分裂が再開することはありません。その一方で、培養環境を整えてあげると、老化細胞といえどもその後も生き続けることが出来ます。

● 老化の原因はなにか?
種を越えた生物に共通する老化のプログラムがあると思われますが、では、実際の現象として老化を誘発する原因は何なのでしょうか?
様々な原因が研究から明らかになっていますが、以下に示すものが代表的な原因と考えられます。
» 生体を錆びさせる「活性酸素」(活性酸素が生体の代謝機能や免疫能、細胞機能を傷害する)
» 細胞分裂能の低下による「細胞の老化」(細胞分裂の頻度が低下するため、年老いた細胞が現役を続けなければならなくなる)
» テロメア問題(遺伝子の両端に付いているテロメアと呼ばれる分子がある程度まで短くなると遺伝子の複製が止まる⇒細胞分裂出来なくなる)
» ミトコンドリア問題(細胞内でエネルギーを作り出すミトコンドリアの数と活動量が加齢と共に低下していく)

その他にも様々な要因があるとされていますので、単純な対処法で老化を防ぐことは出来ない・・・と言うのが定説になっています。

2. 活性酸素(radical oxygen)とは
活性酸素の元は、酸素(O2)ですが、宇宙全体で見ますと酸素は稀少分子で、なおかつ、有毒ガスなのです。
以下の図は左が酸素原子、右が酸素分子で、は電子を表しています。電子は2個がくっついていると安定なのですが、酸素ではまだくっついていない二つの赤い電子があって、常にくっつく電子をさがしています。酸素原子同士がくっついても、まだ両端に赤い電子がありますヨね。

つまり、酸素は常にくっつく相手を捜し求めていて、磁石のように隙あらば鉄とかデンプンとかタンパク質などにくっつきます。そしてこの酸素がくっついた状態を「酸化(oxidation)」と呼びます。
人間や動物の赤血球には鉄(Fe)が含まれていますが(これがヘモグロビン:hemoglobin)、この鉄に酸素をくっつけることで、身体に酸素を運んでいるのです。
呼吸により体内に取り込まれた酸素(O)は、その大半が水素(H)と結合して水(H2O)になります。しかし、素直に水にならないものも少量ですが出てきます。
酸素分子が電子をさらに1個に取り込んだものが「スーパーオキサイド(superoxide)」という強力な酸化物質になったり、さらに水素をもうひとつ結合して「過酸化水素(hydrogen peroxide)」(H2O2)という物質(これも酸化物質)になったり、さらには、過酸化水素が2つに割れた「ヒドロオキシラジカル(hydroxyl radical)」(OH)という物質になります。
これらの体内で変質した酸素を総称して「活性酸素(radical oxygen)」と呼びます。

活性酸素は「悪いもの」というイメージが定着していますが、侵入してきた細菌や体内で発生したがん細胞を、血液中の免疫細胞が攻撃するときの重要な武器がこの活性酸素です。また、体内で余った水と結合して排泄してくれるのも、活性酸素です。しかし、活性酸素は強力な酸化物質ですから過剰発生させないようにしなければなりません。「過ぎたるは及ばざるより悪し」なのです。

私達の身体には活性化する因子があれば、必ず、それを抑制する因子もあります。体内には、活性酸素の発生を抑えたり、活性酸素によるダメージを軽減させたりする機能がちゃんと備わっています。
しかし、この機能が効率よく働くためには、健全な体内環境が必要です。そのためには・・・
» 睡眠・食事・運動などをうまく管理して、健康的な身体を維持する
» 抗酸化成分を含む食品を食べる
抗酸化成分としては、ビタミンCやE、βカロテンやリコピン、ポリフェノールなどが知られていますので、バランスの取れた食生活を送る・・・という基本的な生活習慣が必要です。

3. 老化とミトコンドリア
身体を健康に保つには、細胞を健康な状態にすることが肝要です。細胞にエネルギーが十分あれば、細胞の代謝機能や細胞の担当する様々な特殊機能が活発になり、ひいては身体を健康に保つことになります。老いて更に元気!と言うやつです。

細胞の健康を保つ重要な因子は、細胞内でエネルギーを産生しているミトコンドリアです。
しかし、このミトコンドリアも加齢と共に減少し、機能が衰えていきます。その主な原因は、活性酸素によってミトコンドリア内のDNA がダメージを受けるからだと考えられています。
ところが、このミトコンドリアがエネルギーを産生する際に副産物として活性酸素を発生させているのです。そして発生したこの活性酸素がミトコンドリアにダメージを与えていることが解ってきました。まさに、イタチごっこの様相です。

最近の研究によると、ミトコンドリアの働きが低下してくると、エネルギーを生産する際に出る活性酸素の量が増え、逆に、ミトコンドリアの働きが良いと発生する活性酸素が減り、より多くエネルギーを生産することができるのだそうです。
つまり、ミトコンドリアを健全に保つことが出来れば、細胞の働きが維持でき、老化を遅らせることが出来る・・・と考えられます。
この様に、ミトコンドリアと老化は極めて深い関係にあります。

ミトコンドリアには独自のDNAがあり、細胞DNAと区別されています。ミトコンドリアは太古の昔は一つの生命体であったものが、単細胞生物に寄生したものが始まりと言われています。その名残で独自のDNAを持っています。

● 代謝の低下は老化のせい?
私達は40歳を過ぎたあたりから、「疲れやすくなった」「気力がなくなった」「太りやすくなった」と感じる様になります。これは、体内の新陳代謝(metabolism)が低下するためと長年考えられており、一種の老化現象と考えられていました。
しかし、医学・科学の発展に伴い、「加齢」が原因というよりも、「ミトコンドリアの減少」が関係していると考えられる様になってきました。
ミトコンドリアの数が少なくなったり、活動が衰えたりしてくると、エネルギーがうまく作れなくなり、エネルギー不足に陥ります。さらに、エネルギーに変換されずに余ってしまった酸素からは活性酸素が発生し、余った栄養素(脂肪やブドウ糖)は中性脂肪として蓄えられて脂質異常の原因となってしまうのです。
その結果、更年期障害に似た症状(太りやすくなったり、体が疲れやすくなったり、めまいや貧血、動悸・息切れ、無気力・集中力の低下、うつ状態、肌荒れなど)が起こってきます。

● ミトコンドリアを増やそう
老化を止めることはできませんが、一方で、ミトコンドリアは年齢に関係なく増やすことができるのだそうです。ミトコンドリアを元気にし、その数を増やすことができれば、体内がエネルギーにあふれ、活性酸素も抑えることができます。結果として、身体や細胞の老化を防ぐことができるのではないでしょうか。
では、ミトコンドリアを増やす方法は何か?と言いますと、昔から言われていたことにつきるのです。
① 定期的な運動
動物実験ですが、カナダ・マックマスター大学のターノポルスキー博士が実施したマウスを使った実験によると、1回45分間の運動を週に3回、5ヶ月間続けたマウスは、運動をしていないマウスよりもミトコンドリアの数が多く、ダメージも少なかったそうです。
また、運動をしていないマウスは、白髪や抜け毛が目立ち、体が衰え、死んでしまう一方で、運動を継続したマウスは、筋肉や脳の質量をほぼ維持し、毛も濃くしっかり生えていたそうです。
人間に当てはめると、週単位で隔日(月水金とか火木土など)に1回1時間程度の適度な運動が良いそうです。50歳を過ぎた人では、毎日よりも隔日の運動の方が運動効果があるとも言われています。

② 背筋を伸ばして姿勢を正しく保つ
現代社会では、会社で1日中パソコンに向かって仕事をしたり、携帯に見入ってしまったりして、不自然な姿勢を長く続けた生活を送っています。
背筋を伸ばした正しい姿勢を保つだけでも、ミトコンドリアを増やすことができます。これはミトコンドリアが特に背筋の筋肉や太ももの筋肉など姿勢を保つために必要な筋肉に多く存在しているため、その部分を使うことで、ミトコンドリアが刺激されるからです。椅子に座っている時に背筋をピンと張るだけでも効果的だそうです。

③ 食事方法や食べ物に気をつける
過食は、エネルギーが過度に消費され、ミトコンドリアを疲弊させます。適度な空腹感を味わうと、逆に、ミトコンドリアが活発に動き出すのだそうです。「腹八分に医者いらず」とはよく言ったものです。
一般的にアンチエイジングに効果的だと言われている以下の様な食事(食物)も注目です。
 ●抗酸化物質を積極的に摂る
 ●良質なたんぱく質を摂る
 ●ミネラルやビタミンを十分に摂る
 ●悪玉コレステロールを増やす飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を控える
 ●血糖値を安定に保つ(食事量を控える)
 ●良質なオイルを適度に摂る
 ●食材はなるべく新鮮で無農薬・オーガニックの食材を選ぶ
 ●タウリンを多く含む食材(例えばイカやタコ、貝類など)を摂る

運動と適度でバランスの取れた食生活が、ミトコンドリアを活性化し、細胞を元気にし、老化を遅らせることができる最善の方法と言えるでしょう。
皆さんも是非、実行してみて下さい。

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