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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

豊田実紗先生

豊田実紗先生のコラム 『一歩ずつ、丁寧に』 青山学院大学大学院法学研究科(フランス法専攻)修士課程修了。法律関連の資格を複数取得した後、それらの知識を活かしつつ語学に関する仕事に就きたいと決意し、翻訳学校にて実務翻訳の講座を受講。その後、在宅チェッカーとして業務を開始。現在は、在宅フリーランスの翻訳者として、おもに法律分野・行政分野の文書を中心に、その他、観光・文化芸術分野などの翻訳に携わっている。

第4回:一心不乱に勉強

今回のコラムでは、私がプロの翻訳者を目指して翻訳の勉強を始めてからの、刺激的な毎日についてお話しいたします。

とある翻訳学校の通信講座の速習コースに申し込みをした私は、何かに取りつかれたように猛勉強を開始しました。自分自身のペースで勉強できる通信講座の速習コースだったので、通常6カ月間ほどで修了予定のコースを約2、3カ月間で修了させ、その後も上級コースまで猛スピードで受講しました。30歳目前だった私としては「人生崖っぷち状態、もはや失敗は許されない状況」だったので、少しでも早く翻訳スキルを身に付けたいと思っていたのです。

しかし、実務翻訳独特のルールをすぐに理解することは難しく、とても苦労しました。まず最初に、「無生物主語」という独特の実務翻訳のルールについて、とても驚きました。たとえば、「あなたはこの雑誌を読めば、様々な情報を知ることができる。」という日本語の原文について、「You can understand various information by reading this magazine.」のように動作の主体(You「あなた」)を主語にすることが真っ先に思い浮かびますが、あえて「This magazine will offer you various information.」のようにThis magazine「この雑誌」という物体(無生物)を主語にして英訳する、というのが無生物主語を用いた独特の手法となります。また、上記の例文のとおり「(知ることが)できる」のように「可能(できること)」を示す場合には、英訳において助動詞canを使用したい気分になりますが、あえて実務翻訳において「可能」や「許可」を示すoffer, permit, enable, provideなどの動詞を用いることで、より簡潔で分かり易い英訳を作成するなど、覚えなくてはいけないことが沢山あって頭がパニック状態でした。

ところが実際に翻訳の勉強を始めてみたところ、想像以上に楽しくて、翻訳の奥深さを知ることができました。単に原文の意味を把握して文章の形にするのではなく、原文に記載されている文言ひとつひとつを省略することなく丁寧に訳出する、つまり原文に忠実に訳していく作業が私としては緻密で繊細な作業に思えて、まさに「ものづくりの職人芸」のごとくとても魅力的に感じたのです。

また、上級コースで日英翻訳(英訳)に特化した講座を受講したことによって、ますます翻訳の楽しさに引き込まれていきました。もともと私は「日本人だから和訳(英日翻訳)はできるかもしれないけど、日英翻訳(英訳)のように英文の訳文を作成するなんて無理無理」と苦手意識を強く持っていたものの、おそらくプロの翻訳者になるには日英翻訳が得意であることが大切だろう、と思っていました。そのため、早い段階から日英翻訳の勉強に着手しておくことが重要だと思った私は、上級コースで真っ先に日英翻訳の訓練のための講座を受講することに決めました。

そして、この講座の担当講師がおっしゃった「英作文は英借文です」というお言葉がとても印象的で、今でも私の脳裏に焼き付いています。「英訳(英作文)とは、いくつかの英文の表現を組み合わせていく作業であり、そのためには、あらかじめ日本語文と英文を対訳の形でたくさん知識として習得しておくことが必要」とのことでした。つまり日頃から、日本語文とそれに対応する英文を数多く読んでおいて、よい英文が見つかったら対訳の形で(英文と日本語文をセットにして)ノートにメモ書きしながら知識として蓄積しておく準備が、あらかじめ必要となるそうです(たとえばReservation is not required.という英文に対して、「予約不要です。」という日本語文をセットにしてメモ書きしておく、というように)。そのように準備しておくことで、いざ日英翻訳する際にあらかじめ頭の中に蓄積されている英文を引っ張り出してくる(つまり英文を借りる、「英借する」)ことによって英訳を作成しやすくなる、とのことでした。

この勉強方法は、日英翻訳を得意分野にするうえでは本当に効果的なやり方だと思います。やはり、もともと英語の表現や用語などの知識が無ければ、いくら翻訳するとしてもよい表現や用語が思い浮かばない状態になってしまいます。そういった状況を防ぐためにも、私自身、今現在も常に翻訳の勘が鈍らないように、必ず毎日たとえ短時間で短文であっても英文(そして対応する日本語文)を読んでみて、よい表現などがあったらメモ書きしておくことを継続しています。やはり「継続は力なり」ですね。

以上のように、悪戦苦闘しながらも、楽しみながら翻訳を勉強する日々を過ごしました。次回のコラムでは、いよいよ本格始動、翻訳会社のトライアルに挑戦!!についてお話しいたします。お楽しみに!!

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