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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

辻 直美先生のコラム 『通訳サバイバル日記』 ロータリー財団奨学生として、ペンシルバニア州立大学大学院にてスピーチコミュニケーションの修士号取得。帰国後、外資系金融機関等の社内通訳を務めながら、アイ・エス・エス・インスティテュート東京校に学び、フリーの通訳に。通訳実績は多岐にわたり、経済、金融、不動産、航空、特許分野以外にも内閣官房長官プレスコンファレンス等を担当。2006年よりアイ・エス・エス・インスティテュート東京校、横浜校にて基礎科のクラスを数年間担当し、現在は東京校にてプロ通訳養成科3と同時通訳科の特別授業を担当。

第1回:まさか自分が通訳に?

皆様、初めまして。今回半年間コラムを担当させて頂くことになりました会議通訳者の辻 直美(つじ なおみ)です。以前、アイ・エス・エス・インスティテュート東京校や横浜校にて基礎科等のクラスを毎週担当していましたが、今は特別授業という形で、同通科等で年に数回の特別授業を担当しています。基礎科の時に教えていた生徒さんと、一番上の同通科クラスで数年ぶりに再会し、腕を上げている姿を拝見するのは感無量です。通訳業務を通して、お客様にご満足頂いたり、感謝されたりという経験もこの仕事をする無上の喜びではありますが、スクールの講師経験を通して人材を育てるという事は、全く違う種類の喜びがあります。何年後になるかわかりませんが、自分が伝えた何かが生徒さんの活躍する実践の場で役に立つ、見えないところで生徒さんのPerformanceに活かされ、将来のお仕事の実益につながる授業ができれば良いと願っています。

今回は一回目のコラムという事で、簡単な自己紹介をさせて頂きます。大学ではたまたま合格した英文科へ進学したのですが、学生時代の友人には今、私が会議通訳になったことを信じてもらえないほどに語学力がなかった事を、ここでは恥を忍んでお伝えしておきます。さすがに英文科だけあって周りの同級生は英検準一級や、一級に合格している人も多くいる中で、私はなんと英検二級に二回も落ちるほど基礎的な英語力がありませんでした。成人するまで海外に行った経験もなければ、もちろん簡単な英会話もできない。当時英会話のクラスを教えて頂いていたアメリカ人講師にばったり街中でお会いして、“How are you, Miss Tsuji?”と言われ、私はとっさの事で”I am fine. Thank you.”の中学英語も返すことができず、その場でフリーズしてしまった苦い経験があります。丁度、このまま英文科を卒業してまともな仕事につけるのだろうかと危惧していたところだったので、これをきっかけに真剣に「何とかしなければ・・・・。」と危機感を抱いたことを記憶しています。

そして一念発起して、大学二年の春休みにサンフランシスコで一か月半のホームステイをしたのですが、もちろん当時はホストファミリーとの会話もままならない状況です。ただ、たまたま訪れたUCバークレー校の英語のクラスで、片言ながらも他国の留学生と交流する機会があり、英語さえ話せるようになれば世界は何倍にも広がり、ほとんどの国の人達とコミュニケーションがとれるようになるという、その時に味わった感動が忘れられず、必ずまた留学しようと決心しました。留学を決意した当時は、TOEFLも要求された基準を大幅に下回り、当然交換留学の試験などはことごとく落ちてしまい、資金、学力面の問題、親の反対など、当時を振り返るとかなり無謀な試みだったと思います。

それからの二年間、全てを英語漬けの生活に切り替えました。そして留学資金を貯めるためにアルバイトを何重にも掛け持ちしました。大学に通う暇もほとんどなかったほどだと記憶しています。この二年間で、TOEFLのスコアを(当時のスコアリングシステムで)200点近く上げ、一年分の留学資金を貯めました。二年間の大学院留学を目指していたため、これではまだ資金的に足りないと悩んでいたところ、幸運なことにロータリー財団の奨学金を補欠繰り上げで頂く事ができました。それからの留学体験がその後のキャリア、人生に大きな意味をもたらした事は言うまでもありませんが、どんなに不可能に思える事でも絶対に乗り越えるという強い意志さえあれば、願いは必ず叶うということを身をもって体験できた事が私の人生にとって一番の収穫でした。

留学前の二年間に短期決戦的に集中学習した内容を少しご紹介します。

・まずはTOEFLの点数を上げる事を第一優先とし、リスニング、リーディング等の問題集を片っ端から何度も復練習する事。TOEFLやTOEICのような試験は、回数をこなすことで、パターンが見えてきますので、確実にスコアアップにつながります。

・NHKのラジオ英会話、ビジネス英語、TVの英会話などを毎日継続する事により、スピーキング、いわゆるアウトプットの部分を強化しました。

・とにかく英語に耳慣れするために、TVで英語の番組をつけっぱなしにしていました。特に効果的だったのは、自分の興味ある海外ドラマシリーズを最初は字幕なしで、あまり理解できない状態でも流し、二回目に字幕もしくは日本語音声で聞いて内容を理解した上で、三回目に再度英語のみで聞き、表現や言葉の使い方をマスターするという事を繰り返しました。興味のある番組、映画などを繰り返し聞くことによって、苦痛に感じることなく効果的に勉強できたと思います。

以上を短期間に集中的に行うことで、相乗効果が生まれて半年ぐらいでかなりの違いを実感する事ができました。語学に関していえば、継続することはとても大事ですが、長い期間かけてだらだら続けるよりも、短期集中の方が何倍も効率的だというのが、自分の経験を通しての感想です。

次回からは、通訳学校時代を振り返って通訳者になるまでの過程で苦労したこと、社内通訳とフリーランスの違いなどについても触れていきたいと思います。それでは、皆様半年間どうぞ宜しくお願い致します!

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