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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

加藤早和子先生

加藤早和子先生のコラム 『いつもPresent Progressive』 南山大学卒業。特許文書翻訳、調査会社勤務を経て、アイ・エス・エス・インスティテュート同時通訳科で訓練。
現在はフリーランスの会議通訳者として、医学・獣医学、薬学、バイオテクノロジー、自動車、情報通信、環境、知財、財務、デザインなど幅広い分野で活躍中。

第7回:とある一日

こんにちは。

紫陽花の季節になったと思ったら、もう夏至も過ぎてしまい、一年が過ぎるのが本当に早く感じられます。年齢とともに、月日が早く過ぎてしまうように感じるのは、馬齢を重ねるにつれ周囲に目新しいものが少なく感じられてきて、目の前で起こることについて感動が薄れてきたから、の様です。子供は、周りで起こることすべてが新鮮で心を動かされるので、一日が長く感じられるそうです。

私も、個人的に振り返って、まったく、異論はありません。
本当にそうです・・。

同年代でも一日の時間が長~いのでは、と思わせる人もいます。
それぞれの人生の速度の緩急が皆ちょっとずつ違うのでしょう。各々自分のペースで、学習期、成長期、安定期・・、年齢的にも違った時期にそれぞれ違うテーマがあって良いでしょうし、年齢と関係なく、いつでも新しいことを学ぶことはできます。

通訳業も、いつも新しいことを勉強しながら継続するお仕事なので、年齢や経験に関係なく、それぞれの段階で新しいことを吸収しています。一時期、新しい単語を記憶するのは段々と難しくなるのかな、と不安に思ったこともありましたが、今は全くそのようなことを考えることはありません。単純に一般化できるような規則など無いと思います。「この素敵な人の元気の源は何かな?」と個別、具体的に、観察をするほうが参考になるヒントが得られるように思います。
もしくは、自分に重要ではないことはさっさと忘れてしまっても問題なくすごせるという図々しさが身についただけかもしれませんが・・。

今回は、典型的な通訳者の一日に触れてみます。
通訳者同士でもどんな業務をしているか互いに話すことはほとんどありませんが、これから通訳者を目指す方々の参考になれば幸いです。
もちろん、通訳者の一つの重要要素は「信用」ですから、どんな業務でも内容を他人に語ることは厳禁なのですが、差し支えない範囲で要素を合成していますので、あしからず。

ある日・・・、
医薬系のクライアントと病院を訪問。専門医にある分野の治療についてのお話を聞く。同行する方々、訪問先の方々、それぞれに人間関係があるようなので、気遣いをしながら、訪問の目的がスムーズに果たせるようにと、自分も協力。最近は、ホームページで訪問先の情報も得られるし、治療情報も豊富に得られるので助かる。

ある日・・・、
今日の業務は、ある財団のシンポジウム。過去に差別の問題をひきおこした疾病や障害者の環境について、専門家や患者が語る会。
事前に専門用語を調べて単語帳を作成。インターネットで昨年の会議の内容なども多少チェックできる。資料が豊富なのはありがたい。スピーチ原稿があるものは通訳原稿を準備。(インターネットが使えるようになってからは、事前準備がはるかに充実してできるようになりました。)
朝、開始前に登壇者と打合せあり、そこでスライド提供していただけた演者とは内容を確認し、患者さんである演者にはどんなメッセージを伝えたいか教えていただく。筋萎縮症のために音声変換装置を使って発言をされる患者さんもおり、どんなことを訴えたいと思っていらっしゃるのか、音声の聞こえ方も含めて念入りに打合せ。わかりやすい言葉で、聴衆の心に響く表現ができたら、と思う。手話も入るとのこと。会議半ばで、政府要人がいらっしゃってスピーチ。隣で、先輩がとてもスムーズに英語出しをされているのに聞きほれる。淀みなく、無駄なく、コンスタントにデリバリーをしてゆくのは簡単ではない。自分もよく噛むしコンスタントなペースでの訳出は課題、と反省。
そのあと、先輩のさらに先輩がいらっしゃって、財団トップの演者の通訳。
超ベテランの先輩のパフォーマンスも聞かせていただくことができ、大いに勉強になる。平易な言葉を使って、品よく、過不足なくコンスタントなデリバリーとは、こういうものなのですね、と感動。

ある日・・・、
今日はIT企業のカンファレンスで、朝早くのブレックファストミーティングから集合し、クライアントの席の隣に座って会話の通訳。その後, 午前中待機。午後から1時間弱のプレゼンテーションの通訳を割り当てられているので、少し前に演者と打ち合わせ。終了後はエージェントからの指示を待って、さらに夕方のアサインメントまで待機。終日、待ち時間の長い業務。依頼された業務を、依頼された通りに、忠実にこなすのがお仕事です。

ある日・・・、
毎年ご依頼いただくバイオテクノロジー業界のセミナー。いつもだいたい同じチームメンバーでお仕事させていただく。スピーカーは大抵早口の英語なので打ち合わせは欠かせない。開始前の1時間ほどの時間で演者にスライド内容を簡単にチェック、ついでに演者の英語のアクセントなども確認。(事前にどんな話し方をされる話者なのかを確認することはとても重要。)専門用語も多い業界です。

ある日・・・、
今日は長年お仕事の依頼を受けている会社の社内会議。クライアントの顔ぶれも、内容も、オフィス周りの状況もだいたいわかっているので安心して業務ができる。長く関わっていると、それぞれの企業の変遷も間近に体験させていただくことになる。どの企業でもそれぞれの社風・特徴があるものだが、長くお付き合いできるということは、自分との相性も良いということ。ありがたいものです。

ある日・・・、
今日は某大学主催の講演会。歴史文献学とITの利用についてのトピックで、時々メディアで拝見する先生も講演をされる。自分も興味がある内容なので準備も楽しいが、凝り性な性格もあって脱線しながら時間のかかる調べ物になってしまう。大半の業務で遭遇する専門用語は科学技術系だが、古典籍を扱う先生の専門用語は全く別世界。知的で精確な英語表現に触れる機会でもあり、とても刺激になるが、同時に自分の未熟も実感。英語のテクストも含めた普段の読書が重要と感じる。

ある日・・・、
前日のキャンセルのため、今日は休日。急に依頼が発生する案件は急に無くなってしまうことも、よくあります。気分を切り替えて、気になっていた展覧会を見に美術館に行くか、家で洗濯をするか、歌舞伎座の幕見に行こうか、たまった用事を片付ける日にするか・・・。

突然予定が変更になることもたまにはあります。ありがたい変更も、そうではないものも、臨機応変に受け入れるのもフリーランスのコツです。

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