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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

加藤早和子先生

加藤早和子先生のコラム 『いつもPresent Progressive』 南山大学卒業。特許文書翻訳、調査会社勤務を経て、アイ・エス・エス・インスティテュート同時通訳科で訓練。
現在はフリーランスの会議通訳者として、医学・獣医学、薬学、バイオテクノロジー、自動車、情報通信、環境、知財、財務、デザインなど幅広い分野で活躍中。

第10回:辞書と単語帳

こんにちは。

諸処の事情でコラムのアップが遅れてしまいましたが、もう通訳業界では繁忙期の秋のシーズンの最中になりました。通訳者の皆さんもエージェンシーも、さらにはクライアントサイドの方々もお忙しくされていることと思います。

通訳者のお仕事七つ道具の一つはもちろん辞書。

以前は昔ながらの紙本の辞書の時代でしたが、それからミニディスクやSDメモリを使った辞書が発売され、専門用語の辞書も結構充実した時期がありました。その後カシオやセイコー製の電子辞書が使われる様になり、さらにデジタル化が進んで、今は電子辞書とタブレットが併用されています。
皆さんご存知の辞書の変遷です。

私の場合ですが、最近は主にiPad miniに辞書アプリをインストールして持ち歩いています。電子辞書も処分しないでバックアップに置いてあります。
広辞苑などはもとより英語の辞書もスマホやタブレット用にアプリ化した製品が多く出ていますので、使えそうなものは購入して使用しています。専門用語の辞書アプリも結構ありますので、とても助かっています。あれこれ買い集めると結構な投資になってしまいますが、必要経費と思っていろいろ試しています。
英和辞書だけでも、リーダーズ、英和大辞典、ランダムハウス、などいろいろありますが、それぞれに少し異なる日本語訳が出ていたりするので、個別に参考にすることもあります。辞書に載っている訳語を使うことで安心感と確実な訳出を得られます。英辞郎もとても役立たせていただいていますが、語感や正統な訳語を調べたいときは必ず正規の辞書に出典を求めます。
和英辞典は比較的限られている様に思いますが、和英大辞典、それから時々斎藤和英大辞典が勉強になります。古めかしい言葉や、日本的な表現に関しては、長い間のベストセラー辞書は参考になります。日本語特有の言い回しや、文化に根ざした語彙は、結局のところぴったり対応する訳語があるわけではないので(その逆も真ですが)、多少説明を加えクリエイティブな表現を試みることもあると思います。そんな時に、ベストセラー辞書はとても参考になります。

シソーラスもずいぶん使えるものです。Roget’s Thesaurusは紙本の時代から翻訳をする際によく利用しました。意味のグラデーションの中で言葉が整理されているので、ニュアンスを求めたいときに参考になります。日本語のシソーラスも出版されているので、適語がすぐに思いつかない時に便利です。
そのように、複数の辞書を行ったり来たりしながら適切な表現を選んでいきます。

専門用語の辞典も種々出版されています。アプリもありますが、まだまだ普通の紙本辞書の形態のものもあります。分野別の専門用語の辞書は、医学学会が整備しているようなオンラインで使用できるものもありますが、紙の辞書も良質なものが出ています。

個人的な感想ですが、アプリの使い勝手はメーカーによってまちまちに感じます。
英和辞書が日本語から逆引きできる、成句が探しやすい、前方・後方一致検索ができるなど、便利な機能も助かります。和英で検索するときは、漢字で入力しなくても音だけで引ける方が使いやすいです。漢字を正しく入力しないと検索が進まないものは結構フラストレーションがあります。

購入アプリの辞書ですと、初回購入以降のアップデートやメンテナンスが課題になってくると思います。ユーザーとしては半永久的に使いたいでしょうし、OSのアップデートに追いついてアプリもアップデートしていかないと使えないし、それにはコストもかかるでしょうし、ジレンマがあると思います。
サブスクリプション形式は解決策の一つでしょう。毎月の使用料が発生しますが、使用頻度が高ければわるくない選択肢だと思います。
筆者は最近、研究社のオンライン辞書であるKODを使っています。どんなものか試したいと思ったのですが、研究社の複数の辞書が串刺し検索ができるのでとても使いやすいです。オンラインなので、インターネットやスマホでの接続が必要ですが、検索すると辞書ごとの候補一覧が一挙に表示されて、全体を見た上で引きたい辞書で検索語を選べるのが便利です。
こんな感じで、他社の辞書も取り込んで串刺し検索できる選択肢とか、文字の大きさの自由度とか、もっともっとカスタマイズできる仕様になると嬉しいですし、インターフェイスももっと使いやすくできるのではと思います。この場を借りて、辞書の出版社の方々にお願いしたいところです。もっとも、使い勝手に細かい要求をするのはおそらく通訳者ユーザーだけかもしれません・・・。全体を考えれば少数のユーザー群に過ぎないので、なかなか開発投資の対象にならないのかもしれません。

一方の単語帳ですが、これは通訳者それぞれが工夫して作成するもの。エクセルやワードで作成する人も手書き派もいますし、パソコンで完全にデジタル化している人もいますし、様々ですが、要は本番の時に役立てられれば形態はなんでもいいでしょう。
私の場合はワードを使った作成と手書きの併用です。
凝り性な性格が災いして、整理された美しい単語帳を作って準備万端だと思っても(単なる自己満足なのですが)、当然現場でさらに新しい語彙や知識の書き込みが加わってくるので、業務終了後はごちゃごちゃと細かい字の手書きメモが加わりマーカーのハイライトでカラフルになった単語リストになってしまいます。
書き込みすぎて、後でどこに何をメモしたのか探すのに苦労することもしばしばありますが、結局完璧な単語帳などあり得ないので、こんなものなのでしょう。
アルファベット順に並べるか、カテゴリーで大雑把に分けて書いておくか、それぞれの好みと業務で使いやすい形にしてまとめれば良いでしょう。
他の通訳者さんもいろいろと工夫しているようですが、特に正解はなく本当に多様だと思います。
メモをしながら、そこで学んだ語彙などが体系的にまとめられて、将来類似分野のお仕事で再利用できればと思ったりするのですが、業務内容は毎回新しいことが多いので古い単語帳を思った通りに再使用できることは少ないというのが実感です。専門知識が蓄積されれば、シンプルなもので十分になりますが、結局単語帳に頼るよりも、理解と経験が効いてくることが多いようにも思います。

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