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相田倫千先生のコラム 『英語をキャリアとして一生続けていく』 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学でジャーナリズムを学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの通訳者・翻訳者として、主に半導体、産業分野のエキスパートとして活躍中。

第3回:通訳の3C

皆さまご機嫌よう。毎日寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
今日は「通訳に必要な3C」についてお話いたしましょう。

私たち通訳の仕事は、クライアント(スピーカー)の話す内容を「過不足なく、中立の立場で、わかりやすく」伝えることなのです。この過不足なくということが、簡単なようで難しいのです。どの程度で「過不足なく」だと言えるのか?これには経験と、その分野に対する専門知識と常識が必要なのです。
つまり、通訳をする際に必要な3Cとは、「Clear」「Concise」「Correct」のことです。
それを一つ一つご説明いたしましょう。

まずは「Clear」→辞書によると、「はっきりとした、くっきりとした」という意味ですね。まずは、自分がデリバリーする英語または日本語が、聞き手にとってはっきりとわかること、文章の区切りや終結がくっきりとわかることが重要です。内容を理解してもらうためには、聞き手であるクライアントが、通訳である自分の言葉を、発音通りの言葉として正しく聞きとってくれて、理解してくれなければいけません。

日本語ですと、きちんとした標準語を話すことを意味します。私は関西の出身で、子供のころから関西弁を話してきました。「ちゃうんとちゃうん?(それは違うのではないでしょうか)」や、「あの人はちゃんとしてはるし~(あの方はきちんとしていらっしゃいます)」というような会話をしてきましたし、関西弁と標準語では、基本的にイントネーションが違い、反対の場合が非常に多いのです。私が「工場」と言ったところ「向上」と聞き間違えたと、駆け出し当時にお仕事をご一緒した大先輩に指摘されました。関西弁は徹底的に直した方が良いと。それからはNHKのアナウンサーの後につけてシャドーイングをしたり、民放の司会者の真似をしてみたりしました。今では、「関西出身とはまったくわからない」と言われます。要するに訛りがとれた日本語でデリバリーが出来ているのでしょう。

誤解しないでくださいね。地方訛りが良い悪いという論議をしているのではないのです。通訳として内容を正確にデリバリーするには、統一した言葉、つまり日本では標準語を使って通訳するのが合理的だということなのです。私個人の見解としては、訛りはその人の育った環境や文化を表すので、その人の誇りを感じますし好感をもっていますし、アイデンティティだと思っています。ですからプライベートでは、例えば関西出身の友人達と集まるときは、関西弁全開で話します。もちろん故郷の友達もみな、人が変わったように子供のころの言葉で盛り上がります。また家庭でも夫は広島弁、私は関西弁を話します。本気で子供を怒ると関西弁になるので、子供達は「お兄ちゃん、お母さんが関西弁モードに切り替わった・・本気で怒ってるよ!!」と言っています。でも息子に言わせると、私の関西弁も怪しいそうです。おばあちゃんの話す(ホンモノの)関西弁とは違うと・・・実家を出てから24年ですからね・・・

それでは英語はどうでしょうか?
同じく「標準の英語」を話すようにしています。アメリカ英語ではなく、イギリス英語でもなく・・・その中間の英語です。いわゆる「辞書の発音記号の英語」ですね。これはとても大切です。

私はある国際的な企業のプロモーションビデオのアフレコで、英語の音声を吹き込んで全世界に流すお仕事もしています。初めてそのアフレコを聞いたとき、非常にショックを受けました。あいまいな発音は聴き取れないし、日本人特有の弱点であるthをもっとはっきり言う方がいいこともわかりましたし、丁寧にきちんと発音することがいかに大切かがわかったのです。たとえ聞こえないような小さな音声になってしまう文章間に隠れてしまう単語でも、はっきりと明瞭に発音すること、これがとっても大切です。日本語と同様に訛りはなるべくなくすことも大切です。聞いている人たちは、アメリカ人やイギリス人とは限らないのですから。アフレコの仕事をするようになってから、聞きやすい英語ですねとお褒めいただくことが多くなりました。やはり「通訳の顔」の言葉は「日常の会話」とは違うのでしょうね。

2つめは「Concise」→簡潔な、簡明なという意味ですね。
その通り、内容を吟味し、簡潔にスピーカーが言っていることを過不足なく伝えることなのです。簡潔かつ簡明な通訳をするためには日々の勉強が大切です。内容を熟知することなく文を短くするのは、訳抜けや誤訳に結びつきます。クライアントの分野をしっかりと調べ、プチ専門家になってこそできるのがこの「簡潔なかつ簡明な」訳なのです。これは「省く」ことや「情報を取捨選択する」こととは違います。

またここで気をつけていただきたいのは、科学技術の通訳の場合は特に内容に熟知していなくてはならないということです。私の科学技術の専門は、光学、半導体、電気電子、自動車ですが、これらについて理論や原理の名前、数字、部品の名称、仕様とどれをとっても全部訳さなければなりません。単位までもです。ナノメータ、ニュートンメータ、ミリジュール・・・ここでは、もれなく内容をとりながらも、簡潔に訳すということが求められます。内容を熟知し、技術的なことがわかっていなければできません。ですから、簡潔な訳をするということは、自分の中の知識を総結集して情報の詰まった内容を手短に、長い時間をかけずに話すということになります。時間的な長さは、逐次通訳の場合ですと、スピーカーが1だとすると1.2ぐらいの長さにまとめると聞きやすいと思います。

最後は「Correct」→正確に、ということです。これはもう基本の基本ですね。スピーカーの言ったことを100パーセント正確に訳すこと、これがプロの通訳の基本です。そこには感情も自分の価値観もありません。正確に相手が言った内容を、ニュートラルな視点できちっと訳すことです。これが意外に難しくまた出来ないのです。中立の視点で、そして相手の視点にも立って訳すことなのです。また数字や時間軸、名称や役職名なども正確に訳す。このためにはやはり下調べがとても大切です。これなくしては、正確な訳はできません。また、専門用語を全ておさえ、ヒアリングの力を高めていくことも必要です。

以上が英語でいう3Cです。日本語では「はっきり、くっきり、すっきり」とでも言いましょうか。

あ、それと体力的に大変な通訳に入るときに必要な「Candy, Chocolate, Calorie Mate」(飴、チョコ、カロリーメイト)の3Cもお忘れなく。

ではこのへんで筆をおきましょう。

次回は、「通訳はミタ!」をお届けします。
通訳は、世の中のビジネスの先端を見るという機会も多いのです。
お話できる範囲内で、通訳として「ミタ」ものをお送りします。

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