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山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。

第3回:何故翻訳者に? ─ 私の思う、翻訳者に必要な要素

帰国後、アメリカで学んだことで英語への興味がますます深まった事、そして翻訳というものに少なからず興味を抱いており、今度はその方面で学習を継続出来たら、と考えていた際にISSの存在を知った事がきっかけとなり、同校に通い始めました。

英語にしろ日本語にしろ、原文を読んでいる分には理解ができるのですが、それぞれ日本語または英語でアウトプットしようとすると、これが思うように行かず、最初は幼稚な表現、硬くぎこちない表現からの脱却を図ることがどうしても出来ませんでした。講師になって受講生の方々と接するようになってからよく耳にするのも同じ事、「英語では理解できるんですけど…」、「直訳っぽくなってしまって、どのように訳し直していいのか分からない」等々。「意訳を試みた」と伺って訳出を拝見してみても、これが「意訳」ではなく「誤訳」となってしまっているケースも多々あります。(この辺りのお話についてはまたの機会に出来ればと思います。)

とにかく、英語なら英語の原文を必要なルールに従って正しく分析・理解が出来るのは大前提、あとは翻訳の「商品」として成立する日本語表現を生み出すため、さまざまな角度から工夫を加える作業が必要となります。学校で翻訳というものを学ぶ機会を得て、色々なパターンでその過程を見て行くにつれ、各文章の性質やフォーマリティなどによって少しずつ訳し方のコツが分かるようになり、先生の訳例を拝見しては「なるほどな~、こんな風に全体の構成自体を変えても本来の意味は変わらず、しかもとっても自然で素晴らしい訳だなあ」などと感動し、もっともっと自分の表現を増やしたいと感じました。そしてますますこの世界にはまってしまい(笑)ふと気付けば翻訳というお仕事に携わることが出来るようになっていた、というのが正直な所です。翻訳者となる道のりは、その人を取り巻く環境その他さまざまな要因が絡み合い、一概に「どれ位の期間、何をすれば良い」とは言えませんが、私は個人的に、翻訳者に適した資質・必要な要素(通訳者にも共通する部分があると思いますが)というものがいくつか存在すると思っています。

・打たれ強い人。赤ペンで自分の訳出に添削(ダメ出し)が入れば入る程喜びを感じる人(笑)
→これって意外に大切です(笑)真っ赤になって戻って来た自分の訳出を見てガッカリせず、むしろ「こんなに改善点があるのか!今の段階で分かって良かった」と前向きにとらえる人は伸びると思っています。

・良い意味でプライドが無い人
→上の項目と関連しますが、他人のアドバイスを進んで受け入れたり、他人の良い表現を研究して取り入れ、自分のものにする事が出来る人。さまざまな事を吸収するべき、いわば大切な「仕込み・熟成」の期間であるにもかかわらず、プライドが邪魔してしまうと、素直に意見を受け入れられずに自らの成長を妨げてしまうと思うのです。翻訳というものを、学校等で学習という形で、または何らかの業務の形でじっくり掘り下げる期間中は、是非プライドを捨てて貪欲になって欲しいと思います。

・謙虚な努力家
→そして何と言っても重要なのが「努力」です!学校に通っていても、ただ授業を受けてとりあえず課題をこなしているだけでは能力アップは望めません。文法事項、日本語表現、その他苦手な方面や強化すべきポイントは人それぞれ。学校や職場などアドバイスを得られる環境で、逐一課題や仕事を振り返り、自分の弱点を洗い出して克服し、同じミスは繰り返さない姿勢を心掛け、とにかく自分なりにノートやメモを使ってまとめることが大切だと思います。(この辺りのお話もまたの機会に出来ればと思っています。)

・何事も人のせいにしない、改善力・向上心のある人
→一度引き受けた案件は、その後たとえひどい高熱に襲われても、とにかく締め切り迄に責任を持ってやり遂げなければなりません。何事も外的要因のせいにせず、またお仕事で翻訳をこなしていると時々フィードバックを頂けたりするのですが、その際にはしっかりと次に生かし、さらに素晴らしい訳出が出来るよう向上心を持って何事も改善につなげていく姿勢が大事だと思います。

・好奇心旺盛で柔軟性のある人
→常に色々な事に興味を抱き、アンテナを張りめぐらせている人。自分にとってなじみのない分野、全く新しいジャンルの情報等にも柔軟に対応できる力は強みになると思います。

・ギリギリまで良い意味で悩み、潔く決定する、そしてその為の判断力を養っている人
→どんなに迷っても悩んでも、自らが最終的に冷静で正しい判断を下さなければなりません。その為に文法力、日本語力・英語力、調査力をバランス良く駆使して決定を行えるよう、学習・業務からコツ・経験を得る必要があります。

簡単にまとめてみるとこんな所でしょうか…あくまで個人的見解ではありますが(笑)。
学校で色々な発見が出来た貴重な経験から、そして実際に翻訳というお仕事に携わってみて、また翻訳を学ぶ受講生の方々に接して行くうちに、このような要素が一つでも多くあると、よりスムーズに夢の実現に近づくという気がしています。少し意識してみていただけると幸いです!

最終回:翻訳愛

第23回: 類語の使い分け、コロケーションへの意識

第22回:的確な訳語の選択力をつける

第21回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その2

第20回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その1

第19回:生きた表現 -「新語」にからめて

第18回:「舟を編む」- 言葉へのこだわり

第17回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈 その2.

第16回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈

第15回:翻訳不可能論!?

第14回:これまで翻訳クラスを担当させていただいて ─ 授業風景のお話を交え

第13回:ご挨拶 & 翻訳者の日常とは?

第12回:今年最後の独り言 ─ 改めて考えてみる翻訳にまつわるあれこれ

第11回:翻訳は「裏方」に徹する仕事 ─ その極意と楽しさ

第10回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例②

第9回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例①

第8回:文法の大切さ ― 文法を笑う者は文法に泣く…!?

第7回:「意訳」と「誤訳」

第6回:日々のちょっとした積み重ね ─ 学習法のヒント

第5回:翻訳力アップのためのポイント その2

第4回:翻訳力アップのためのポイント その1

第3回:何故翻訳者に? ─ 私の思う、翻訳者に必要な要素

第2回:「生きた英語」に触れる生活で発見したこと。そしてISSで「翻訳」英語に出会って。

第1回:ご挨拶。

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