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プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
第5回:翻訳力アップのためのポイント その2
今回も引き続き、翻訳力アップのためのポイントについて、いくつかご紹介できればと思います。
・「イメージ力(良い意味での妄想力)・発想力を豊かに」
まず大事なのは、色々な角度から言葉に興味を抱くこと。翻訳を学んでいた頃は特に、言葉にある意味「執着」していたと言ってもいいかもしれません(笑)。本などを「読む」ことは昔から大好きでしたが、自分なりの解釈や咀嚼の域を超えることはありませんでしたし、また、ジャンルを問わず、しかも前回述べたような「印象に残らない文章」となるよう読みやすく「アウトプット」する、という作業には全く慣れていませんでした。自在にアウトプットができるよう、とにかく頭の中であれこれイメージを膨らませ、発想を柔軟に!と肝に銘じて、学校の課題や、日常生活で目にする文章などからさまざまな表現体系を吸収しようとあがいていた気がします(笑)。
原文を論理的に分析し、正確に読み取った後は、原文に足りない要素を補ったり、不必要な情報をそぎ落したりして訳出する必要性が出て来ます。そこで自分なりに感じたのは、当たり前のことなのですが、日本語と英語はやはり全く違う言語であるということです。そのことを踏まえた上での「足し算・引き算」は翻訳に欠かせないと言えます。ですから、双方の言語の、特に文型や構造の特徴や違いはもちろん、言い回しのパターンなども常に意識して、こういうケースではこのような切り口で訳すと上手く行く、といった体系分けの研究をしていた時期がありました。さまざまなケースへの対応の瞬発力を鍛えることと同様に大切なのが、背景を考慮した具体的なイメージをとらえること。例えば、ある状況を人に伝えようとする場合、その状況を正しく理解し、詳細な情報を得ている必要があります。また実際に説明する際には、その状況のさまざまなイメージを頭に描いているはずです。翻訳も同じで、原文が伝えようとしている内容を的確に把握し、その構成要素や背景情報、そして全体像を頭にしっかりインプットし、必要に応じて視覚的に、具体的にイメージをとらえて分かりやすくポイントをおさえた文章を構成します。そのイメージの膨らませ方が重要で、私はいつも良い意味での「妄想力」を養うように!とお伝えしています。妄想も方向性さえしっかりしていれば(笑)素晴らしいパワーを発揮すると思います。物事にしても状況にしても、生き生きとした描写を行うためには原文の世界にどっぷり浸かってその正確な内容や筆者の主眼点などに精通しなくてはなりません。語のレベルで意味が分からないものは十分に下調べをして情報を集めておき、文レベルで意味が取りづらい場合、こうした情報をもとにして前後の文との関連、そして文章全体のロジックを考えながら「妄想」し、これはこういうことかな?もしかしたらこういう意味かな?と推理を続け、最終的に答えを導き出して行きます。受講生の方には常々お話していますが、ジャンルを問わず、特に苦手な分野の文など、さまざまな文体に触れて表現の幅を広げ、自らの柔軟な発想力、豊かなイメージ力を養うことが重要だと言えます。
・「調査力」
英語の原文にある語や句、文などの意味が把握できず、また検索してみても日本語での説明や定義が得られない、という事態は良く起こります。その場合にはやはり、問題となっている語、句、文を元々の言語である英語で説明しているサイトなどを探して読み込むとヒントが得られることがあります。また、「meaning」など、その説明が得られそうなキーワードを加えて検索すると内容が分かりやすいこともあります。英語の固有名詞で新語・流行語、ある特定の地域で用いられる語などには、日本人に理解しづらいものが多く存在します。この場合にはやはり英語で検索し、その周辺の情報からそれこそイメージをとらえることでインスピレーションを得られることがよくあります。
日本語での検索では、場合によっては訳語の選択肢がこれでもか、と出て来てしまう事もあります。とにかく大事なのは、「感じが良くて気に入ったから」「表現がウマく、決定打として良さそうだから」など、自分の考えを入れ込んで表現を選ぶのではなく、あくまで原文の訴えているニュアンスを忠実に打ち出す、ということです。とにかく「あ、この表現いいな、好きだな、使いたいな」と思ってしまうとその表現を無理矢理にでも取り入れたくなってしまいがちなんですよね(笑)。でもこれでは正確な翻訳からそれてしまいます。原文のジャンル、文体などを念頭に最適な訳語を選択する、この積み重ねが大事なんです。それでも絞り切れないという場合には、コロケーション(語と語の慣用的つながり方)が文脈に一番合うものを選択し(例えばヒット数等を判断材料として)、自然な文に仕上げるのもコツです。問題となる語の周辺にある語や情報を検索してみるのも手ですし、固有名詞ならカタカナでベタ読みしたものを打ち込んで検索したり、イメージとして頭に浮かぶ関連素材を検索してみると手掛かりが得られることもあります。「~とは」「~の定義・意味」といった言葉を加えて検索してみるのも一つの手だと思います。
次回は、自ら試してみた勉強法について、いくつかご紹介できればと思います。