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山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。

第10回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例②

前回に引き続き、今回も、授業その他を通して「なるほど」、「使える!」と感じ、書き溜めていた表現例の中からいくつかをご紹介したいと思います。

include(他動詞)…「含む」という意味を持つこの動詞。ただ漠然と「何かが何かを含む」といったとらえ方をするのみで、特に深く掘り下げて考えてみたことはありませんでしたが、翻訳の学習を進めるにつれ、さまざまなジャンルの文章や場面に登場してくるため、その「訳し方」に興味を持った語の一つでした。じっくり調べてみると、「全体の中の構成要素・一部分として何かを含む」といった意味を持つこの語。そこで浮かんできた疑問。それは、「例えばcontainなど、同じ『含む』といった意味を持つ語との違いは?」というものでした。この点についてまた調べてみると、containが持つニュアンスは「何らかの形で周りを囲まれた容器・範囲などの中で何かを含む。その中身については全体を指す事も一部を指す事もある」というもの。ただ単に「何かを持っている・備えている」という一般的な意味ではhaveで「含む」という意味を出す事も多々ありますし、また、一つ一つの要素から全体が成り立つ、という意味合いに注目した「含む、含まれる」はcompriseやbe composed ofなどで表すことも一般的ですし、「何かをたくさん含んでいる状態」は例えばbe full ofなどで、また「帯びている」といったニュアンスの「含む」はcharged withなど(例:voice charged with anger [怒りを帯びた声])を用いた表現も可能です。このように、同じような意味の言葉について、その用法や使い分けなどを色々と吟味していくことでそれらを自分の頭の中でリンクさせ、表現の幅を広げることが少しずつ出来るようになってきた気がします。

ちなみに、includeの日本語への訳出の仕方についてですが、
①要素として何かを含む
Some … include ~.「…としては・の中には、~がある」
The functions of ABC include … 「ABCの機能には…がある」
②行為について、訳し直しが必要
The restrictions shall also include the prohibition of… 「本規制では…についても禁止する」
③ある範疇内に属するものの列挙
This chapter includes the following ~. 「本章は、次の~で構成されています・から成ります」
The symptoms of ○○○ include A, B, and C. 「○○○の症状として、A、B、およびCが挙げられる」
簡潔にではありますが、以上のような形に分類できるかと思います。
その他、システムなら「内蔵/搭載」、何らかの文書等であれば「記載する・される」、機械・機器には「付属する・セットで付いている」、その他対象となるものによっては「添付」、「同封」などなど…色々なパターンでの訳出が考えられます。

self-...(連結形)…「自分で」「自己~」「自主~」「自然に」などといった意味を持つ、複合語形成要素。self-responsibility「自己責任」、self-admiration「自己賛美→自画自賛」といった訳出は一般的ですが、このself-と、それに続く名詞の意味・性質によって、前後の文脈からその組み合わせ方を吟味し、品詞を超えたなめらかな訳出が求められる場合があります。例えば、self-conscious。「意識して」を意味するconsciousが続くこの語は、直訳すれば「自己を意識する」となりますが、転じて「自意識過剰」と訳されることがあります。ただし、文脈によっては意味的にこの日本語が当てはまらないケースもあり、「人目を気にする」と訳した方が無難な場合もあるため、前後の状況判断が重要となります。(ちなみに -consciousには「~の意識が高い」「~性の高い」などといった訳が適切な場合もあるため、組み合わせによって判断が必要です)。また、self-approvingについては、直訳すると「自己を認める」となりますが、文脈上、自慢げだったり、あまり良くない意味合いで用いられている場合には「独りよがりの」などと訳すとしっくりくるケースもあります。

各語を形成する要素、その組み合わせや語と語の関連付け、そして前後の文脈等々によってさまざまに変化する表情や色というものを実感し、ますます表現磨きに精進せねばと今なお肝に銘じている毎日。言葉というものは徐々に変化するものでもあり、総合的に柔軟な発想やとらえ方というものが必要だと言えるかもしれませんね。

最終回:翻訳愛

第23回: 類語の使い分け、コロケーションへの意識

第22回:的確な訳語の選択力をつける

第21回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その2

第20回:文法事項ごとに体系化した訳出感覚を磨く、翻訳文法の考え方 その1

第19回:生きた表現 -「新語」にからめて

第18回:「舟を編む」- 言葉へのこだわり

第17回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈 その2.

第16回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈

第15回:翻訳不可能論!?

第14回:これまで翻訳クラスを担当させていただいて ─ 授業風景のお話を交え

第13回:ご挨拶 & 翻訳者の日常とは?

第12回:今年最後の独り言 ─ 改めて考えてみる翻訳にまつわるあれこれ

第11回:翻訳は「裏方」に徹する仕事 ─ その極意と楽しさ

第10回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例②

第9回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例①

第8回:文法の大切さ ― 文法を笑う者は文法に泣く…!?

第7回:「意訳」と「誤訳」

第6回:日々のちょっとした積み重ね ─ 学習法のヒント

第5回:翻訳力アップのためのポイント その2

第4回:翻訳力アップのためのポイント その1

第3回:何故翻訳者に? ─ 私の思う、翻訳者に必要な要素

第2回:「生きた英語」に触れる生活で発見したこと。そしてISSで「翻訳」英語に出会って。

第1回:ご挨拶。

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