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プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
第12回:今年最後の独り言 ─ 改めて考えてみる翻訳にまつわるあれこれ
このコラムを書いているのは11月最終週・・・あと少しで12月に突入、今年もあっという間に終わりだ!ついこの前お正月じゃなかったっけ?などと訳の分からない焦りの気持ちに襲われつつ(笑)今年最後のコラムとなる今回は、最近の翻訳の世界を取り巻く状況などについて取り上げてみたいと思います。
最近では、翻訳の際に、言葉は悪いかもしれませんが、いわば〝当たり前のように対処できる“ようになった(また当然そうした対処が求められる)「英語原文の間違い」や「日本語原文の意味の取りづらさ」。翻訳を実際にお仕事として始める前にも、学校の課題でこういった原文に触れる機会は多かったのですが、これには、必ずしも英語のネイティブにより英語原文が作成されている訳ではないといった理由や、日本語特有の省略がある、または暗黙の了解が期待された情報不足の日本語原文になっていること等の理由が絡んでいるケースがほとんどです。特に英語原文について言えば、学校の課題で初めて触れ、衝撃を受けたのが、フランス人やインド人の書いた英語。その他、母国語の文法やシステムに引きずられ、その影響を受けて書かれた英語もあります。授業では、フランス人の英語は、例えば分詞構文「, …ing ~」の形でどんどん情報を足していく等の特徴がある、といったお話を聞き、驚いたと同時に、このような背景が明らかになれば訳す際のヒントとなると思ったのも事実です。その意味では以前アメリカで学んだ比較言語研究の授業を思い出します。その理論の中には、英文作成も発音も、やはり第二外国語の習得となるため母国語の影響を受けることが前提で、英語教育の面では生徒のそういったいわゆるクセが分析出来ればその修正も早く、効果的な教育を施せるというものがありました。また、以前に「英語の発音や英文構成の仕方がタイ語に引きずられ、英語力の向上が〝fossilized”(=直訳すると「化石化」)している」とされるタイ人女性の発音や作文パターンなどをもとに研究レポートを作成した覚えがあります。英語「翻訳」の勉強を始めるまでは、まさかこのようなアプローチが訳出に役立つ可能性があるなどと思ってもみなかったのですが、とても興味深く感じたものでした。アイ・エス・エスでも以前、インド英語の分析の方法について掘り下げるクラス等があった気がしますが、こうした授業や勉強法も今後ますます効果を発揮するのではないでしょうか。
また、少し前、翻訳の世界では少々有名となった事件!?として、ある英文書籍について和訳の大部分を機械翻訳に掛けたものの、十分な修正を加えず意味不明な訳出が目立ち、読者の指摘を受けて出版が中止されたという話を耳にしたことがあります。確かに機械翻訳やそれに準じるツールは便利ですし、是非上手に活用したいものですが、私は、個人的にはやはり人間が介する翻訳というものは消えないのではないかと思います。原文を訳す際には、原文作者の意向、実際書いた内容、さらにその訳出を求めているクライアントの意向等を考慮し、原文に間違いや分かりにくい箇所があったら全体に照らして適宜修正するなど、さまざまな作業が必要です。やはり「翻訳者」は、前回申し上げた通り「黒子」ではありますが、翻訳というプロセスの中で重要な役割を果たす、見えない「仕事人」であると思うことと、また自らがそうでありたいと願っています。
2013年、全12回、本コラムにお付き合いいただきまして誠に有難うございました。今年のコラムは終了しますが、僭越ながら来年も引き続き本コラムを担当させていただく事となりましたので、また来年ここでお会いしましょう!
皆さんもこの一年を振り返って、また新たな気持ちで来る年を迎え、ますます前向きに翻訳(通訳)ロードを極めて行きましょう!少し早いですが、皆さま良いお年を…!