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プロ通訳者・翻訳者コラム
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山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
第14回:これまで翻訳クラスを担当させていただいて ─ 授業風景のお話を交え
先日、ふとした瞬間に、自分がアイ・エス・エス・インスティテュート翻訳者養成コースの授業を担当させていただくようになって、今年で早くも7年目だということに気付きました。振り返ればあっという間だったような気もするのですが、改めて長い間お世話になっているんだなあ、そしてその過程でさまざまなことを学ばせていただいたなあ・・・などと感慨にひたりつつ、今後も、バックグラウンドも個性も違う受講生の皆さんに英語をもっと好きになってもらい、それぞれベストな学習の進め方をご提案できるようますます努力を重ねて行かなければと気持ちを新たにしました。
受講生の方々からもよくお聞きするのですが、私も翻訳の学習を始めた際、それまで自分が訳した日本語・英語を他の人にお見せしたり、添削してもらったりする機会などなかったため、最初は何だか気恥ずかしい思いをした記憶があります。ただ、他の受講生の方の素晴らしい訳出や、自分に無い表現などもすすんで取り入れるチャンスですし、自分の苦手なポイントや思考回路・癖が分かりやすくなって、だんだんと「これは貴重な経験だ!」と思うようになりました。そして自分の表現や訳出に容赦なくダメ出しして常に改良を加える癖を付ける上では、何より「第三者的な批判の目」を自ら養うことだと実感。こうしたことを踏まえ、授業では私からコメントをお伝えするだけでなく、受講生の皆さん同士にも積極的に良い点・悪い点含め感想を述べ合ってもらい、さまざまな角度から自分の訳を見つめられる機会を設けるようにしています。自分の中で凝り固まっている言葉づかい、何となく使っていて本当は一般的ではない言い回しなど、より多く指摘されて問題点を把握し、改善していくことが、自分の表現の幅を広げる手助けとなるからです。このようないわば訳の見せ合い・意見の出し合いは、最初は遠慮があったり、苦手だと感じたりする人もいるかもしれませんが、これは翻訳でも通訳でも、自らの殻を破り、ステップアップを図る「学習」という本質を鑑みて、とても大切な過程の一つだと思います。
では、苦手なポイントをどう把握し、克服したらいいのか?これは良くお受けする質問ですが、これについてはそれぞれ個人が持つ文法力・表現力がまずベースとなるため、一概には言えず、個々にアドバイスするしかありません。ただ、つまずきやすいポイントが指摘され、その原因が少しでも理解できれば、何が苦手なのか、何にもっと注意力を集中させるべきか、といったことが明確になり、正しい構造分析が出来ない傾向があるならまず文法を一つずつ見直し、そして意味のズレや不自然な言い回しが多いなら、訳出をあてる前にその文脈・背景をしっかりとらえ、あらゆる選択肢を検討したり、お手本となる文や訳を模倣するといった「処方箋」を得ることができます。何もかも最初から完璧に出来るなら、学習の場など必要ありません。ただ、何かを学びたいと思うならば、それが通学スタイルであろうとネット受講スタイルであろうと、積極的に発言・対話を行い、問題を浮き彫りにすること、これが最初の一歩となると思います。間違いを恐れず、ただし特定された誤りは繰り返さず、新しい情報・知識をどんどん取り入れて行く・・・この作業を、適度な緊張感を持ちつつ、自分のペースで気負わずに継続して行くこと。クラスの中をはじめ、いかなる学習の場においても、常に向上心・目的意識を持ってモチベーションを保ち続けることが大事です。そのために活用できるものは全て活用し、自分にふさわしいスタイルを確立することが大切だと思います。普段から授業では、皆さん一人一人が難しいと感じた点、疑問点、ポイントとなる部分についてどういう思考プロセスを経て訳出したか、その他さまざまな意見をお聞きしています。通学の受講生の方々には積極的に発言していただき、ネットの方にはご必要に応じてメール等でお問い合わせ頂く・・・いずれにせよ、私にとっても、受講生の皆さんにとっても、コミュニケーションによって得る「気付き」は大きいと思います。自らの「現在地」を確認し、目的地を目指していく上でも、是非周囲からのアドバイス、そして自分で自分を客観的に見つめる眼を養っていただきたいと思います。
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