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プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
第16回:日英翻訳の要となる日本語の正しい解釈
私たちは日本人ですから、勿論日本語が理解できるのが当然なわけですが、「暗黙の了解」の文化とでも申しましょうか、日本語には、あえて明言を避けるような言い回し、また曖昧でどのようにでも解釈できるような表現などが往々にして見られますよね。普段の生活では、相手との関係性にもよるでしょうが、何となく通じれば十分だったり、皆まで言わずとも内容が理解できたり、といったようにさまざまなコミュニケーション形態が考えられますが、特に会話とは異なる、文字となって表された言葉については、それを記した人の意図や癖が反映されていたり、前後関係・文脈の捉えやすさなどにより、その英訳は難しい場合が多い気がします。
つい先日も授業で取り組んだ課題でも出て来たのですが、例えば「対処する」という言葉。和英辞典で引けば、この「対処する」に対応する語や句が幾つか列挙されているはずです。しかしながら、辞書に並んでいるからと言ってそのすべてがどの文脈でも適切であるとは限りません。その日本語が示している本来の意味の理解、そしてそれを忠実に表す英語の表現の選択を行わなくてはなりません。
この「対処する」について、辞書で出てくる表現、または皆さんもすぐに思い浮かぶ表現としては、例えばcope withなどが挙げられると思います。ただ、ここで重要なのは、「対処する」対象は何なのか、ということです。前向きに対処するのか、それとも問題解決のようにネガティブなものに相対するのか・・・このcope withは本来、ネガティブな意味を伴っています。問題やタスク、良くない状況などがその目的語となり、その「対処」を図ったり、またそうした良くない状況が改善されるまで我慢する、といった意味があります。
ですから、
We cannot cope with such a difficult situation.
などとは言えても、
We must cope with the environmental problems.
といった文は不自然であると言えます。
なぜなら下の例では、「そうした環境問題に、何とか我慢しなくてはならない」といった意味が含まれてしまい、環境問題に積極的に対処していく、といった姿勢が出ない事となってしまうのです。こうした前向きな姿勢を示すためには、cope withではなく、deal withを用いるのも良いでしょうし、あるいは日本語の「対処する」に総合的な「前向き」解釈を施して「方策を取る」、「~に努める」といった言い方に変えるなどの対策が必要となります。
例:
We are working on…
We are taking action to V…
また、発想を転換して、cope with / deal withなどの句動詞をビシっと当てるというよりも、例えばWe have a lot of challenges.(対処すべき課題がたくさんある)といった形で表す事も可能です。責任者的な扱いを強調するならbe in charge ofなど、具体的に問題を「解決する」という意味での対処なら普通にsolve (the problems)、その他目的語によってhandle/take care of/controlなどが最適な場合もあるかと思います。
とにかく日本語原文の意図をしっかり把握して、その都度、この「対処する」の例であれば後に続く目的語との関係、その前後の意味する内容をくみ取ってフレキシブルに英語で表現していくことが大切だと言えます。これがなかなか、各文脈での判断が難しいケースが多いのですが・・・(苦笑)次回も具体的な例を用いながらそのコツのようなものをお伝えできたらと思います。
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