Tips/コラム
USEFUL INFO
プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
山口朋子先生のコラム 『"翻訳"は一日にしてならず --- 一翻訳者となって思うこと』 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。外資系メーカー勤務を経た後、フレグランス業界へと活動の場を移し、マーケティング他業務に携わる。その後、米国カリフォルニア州立大学大学院にてTESOL(英語教育法) 修士号を取得。日本帰国後、アイ・エス・エス・インスティテュート英語翻訳者養成コースを経て実務翻訳の道へ。現在は、医療・美容業界関連、その他雑誌・ホームページ記事やエッセイなどの分野から、会社規約・契約、研修マニュアル、取扱説明書、財務レポート他各種報告書などのビジネス文書等に至るまで様々な分野の翻訳を手掛けながら、同校の総合翻訳基礎科の講師を務めている。
最終回:翻訳愛
翻訳の仕事を始めたばかりの頃、一つ一つの案件に、それはもう緊張感MAXな状態で臨んでいましたが、徐々にペースがつかめるようになり、自分なりのスタイルが出来上がると、今度は同時に、物凄くストイックに何もかもすべてのことに完璧主義を求め過ぎて体調に悪影響が出てしまうといった時期もありました。そんな時、友人に「何もかも完璧にやらなきゃっていう意気込みは悪くないけど、それが出来なかったからって命が取られるわけじゃないんだからさ!」と言われ、思わずハッとしました。恥ずかしながら、それまでその友人のような考え方をしたことがなかったんです!猪突猛進と言えば聞こえはそれ程悪くないのかもしれませんが、こうじゃなきゃダメだ!と、いう考えにとらわれて、何とまあ疑いもせず突っ走って来たことか。もっと要領よくやって来られたんじゃないか・・・「命が取られるわけじゃない」という言葉に、そして、やみくもに「仕事をするということ」自体が目的となってしまっていて自分の中には無かったその発想に、思わず目からウロコが落ち、妙に納得した時期がありました。
より良いものを作り出す努力を続けること、そのためにも完璧を求めること、これらは勿論大事ですが、時に柔軟な考え方や一歩引いた見方、発想の転換、作業の見直しによる効率的な方法の洗い出し等が必要となることもあります。適度な息抜きも大切ですよね。実際、一つの側面しか目に入らないと、翻訳の作業においても訳出の精度は100%には程遠くなってしまいます。
私がアイ・エス・エスの生徒だった頃、まさに今の私の翻訳者・翻訳学校講師としてのキャリアへと導いて下さることとなり、今なお私が師匠と仰ぐ先生が以前、授業の中で「原文を異なる言語で表現・訳出するプロセスにはさまざまな足し算、引き算、掛け算が求められる」こと、そして「とにかく『愛を持って』筆者の意図や目的をとらえ、読者を意識し、『愛を込めて』原文を細部に至るまで忠実に再現することが大事」であるとおっしゃったことが強く印象に残っています。授業では、表現に関する目からウロコの解説をはじめ全ての内容が興味深く、この『愛を持って』、『愛を込めて』といったセリフについても、訳出作業というものは決して楽なものではないものの、筆者と同化し、読者の気持ちになり、必要な足し算・引き算・掛け算を行い、時に厳しい目で全体を見据えて調整する、そういった総合的な『愛』を持つことが大切、と強調していらしたのを思い出します。私が翻訳者として講師として、師匠や尊敬する翻訳者仲間とお話させていただくようになってからも、翻訳という作業に一番大切な要素は、「やっぱり翻訳ってものへの『愛』だよね!」という結論に達したことがありました。究極的には、報酬を頂かなくても翻訳したいと言っても過言ではない、的なお話にもなった気が(笑)。
翻訳者として、常に心身ともにベストな状態で、楽しみながら、『愛』を持って作業に取り組み、これからもどんどんスキルアップして行きたいなと思います。そのためにも忙し過ぎるのも良くないなと感じる今日この頃(苦笑)来たる年も色々な発見、成長が出来るといいなと心から願うばかりです。
今回で、丸2年担当させて頂いたこのコラムも最終回となりました。最初は「私なんぞが偉そうに何をお伝え出来るというんだ!」と恐縮しまくりで、毎回コラムのテーマや内容を決めるのにもあれこれ悩み、何だか無我夢中で原稿を書かせて頂いているうちにあっという間に2年が経ってしまったという印象ですが、色々な視点から翻訳というもの、そして自分自身を見つめ直す良い機会となりました。皆さんも、翻訳者・通訳者を目指していらっしゃる方、お仕事で英語を使っていらしてますます必要な英語力アップを目指している方などさまざまいらっしゃると思いますが、来年も皆さんそれぞれが追求する目標の達成に向かってさらなる飛躍を遂げることが出来ますように!2年間、本コラムをお読みいただき本当にありがとうございました。またいつか、どこかでお会いしましょう!
仕事を探す
最新のお仕事情報