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『Hocus Corpus』 コトバとの出会いで綴る通訳者の世界 和田泰治

第2回

"COVID-19"

通訳者の和田泰冶です。
“Hocus Corpus”第2回は、昨年から世界を覆いつくしている新型コロナウイルスに関して出会った言葉を考察してゆきたいと思います。 昨年から今年にかけて、直接携わった少ない通訳の機会の中で、ほとんど全てと言っても過言ではなく、新型コロナウイルスがトピックの中心にありました。 官公庁関係の記者会見やメディアの取材は言うに及ばず、ITであっても、企業の決算発表であっても、アメリカの政治を語るセッションであっても、 哲学者が人の生き方を語る講演会であってさえ、コロナが常に話の主役の座に居座っていました。

  

WHOがCOVID-19という正式な名称を発表したのは昨年の2月11日でした。 今思い起こされるのは、政府高官の記者会見で、記者の「フェイクはまだなのか?」「フェイクになったらどうするのか?」 という質問を聴いた時に「フェイク」を恥ずかしながら知らなかったことです。1月初旬のことでした。 これはPHEIC (Public Health Emergency of International Concern) のことで、WHOが発出する 「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」の宣言です。中国の春節直前の状況で、入国制限など水際対策 (border control/border restriction) を取らないのかという趣旨の質問だったと思います。

 

実際に発出されたのは1月30日で、その後、日本はダイヤモンドプリンセス号が全国民的な耳目を集め、 市中感染 (community infection spread) の拡大懸念を経て第一回目の緊急事態宣言 (State of Emergency) を発出するに至りました。 この頃から、stay home (stay at home)、social distancing、lockdownなど、 日本よりも先に感染が拡大していた欧米から輸入された言葉がそのままカタカナで日本語としても多用されるようになりました。 ”lockdown”については、 徹底的に封鎖する”hard lockdown”と当初イギリスが試みた”light lockdown”がありますが、 日本の場合は強制力がなく、国民に協力要請する前提ですので、自分の判断で、voluntaryという言葉を入れることにしています。

  

海外のメディアでは「自粛疲れ」に近いイメージをcabin feverという言葉で表現している記者もいました。 「医療崩壊」も日本では頻出の言葉ですが、CNNなどを聴くと、overwhelm (overwhelming, be overwhelmed)が最も良く使われているので、 通訳をする際にはこれに倣っています。hospital crunchという言い方も時々耳にします。 clusterという概念もすっかり日本では定着しましたが、 感染の中心であるepicenterhot spotが、 traceして潰しても、 潰しても次から次へと発生する様をwhack a moleと表現しているメディアが多いので、この表現も通訳の際には拝借させて頂いています。

  

秋の感染再急増に際しては、インフルエンザとコロナのダブル感染の懸念が広がりました。 これはtwindemicとかdouble whammyなどが訳出例としては良さそうです。

  

「Go Toキャンペーン」に頭を悩ませた通訳者も多かったのではないかと思います。 キャンペーン名の固有名詞なのでそのままでもよいのかも知れませんが、英語的には少しおかしなところがありますので、 The dining and tourism promotion policy titled “Go To Campaign”と言ってみたり、 イギリスの “Eat out Help out” campaignを引き合いに出したりして通訳しています。

  

コロナ関係の話で必ず出てくる言葉のひとつが「三密」ですが、これも何かあるだろうと調べてみると、 海外のメディアで使われていた一例がThree Csというもので、 ”Crowds”,“Confined spaces”, “Close contact settings”でした。 これも通訳の際にそのまま借用させて頂いています。 因みに対策のThree Wsというのもありまして、 ”Wearing your mask”, “Watch your distance”, “Wash your hands”です。

  

ワクチンが最近では最大の関心事でしょう。
集団免疫 (herd immunity)を実現し、コロナ禍を克服するためには不可欠なものですが、 ワクチン関連の表現では、”Vaccines don’t equal vaccinations”というCNNで聴いたフレーズをよく通訳で使っています。 「単にワクチンが開発されれば良いというものではない。医療スタッフの確保や接種の優先順位付け、冷蔵施設やロジスティックスも含めて実際に接種されなければ意味がない」ということを端的に表現できるフレーズです。

  

今回は、コロナ禍で出会ったコトバ、学んだコトバの一部をまとめてみました。限られた通訳の機会の中でもいろいろなことが学べるものだとあらためて思います。

  

それでは皆さん。ごきげんよう。

  

和田泰治 英日通訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 東京校英語通訳コース講師。明治大学文学部卒業後、旅行会社、 マーケティングリサーチ会社、広告会社での勤務を経て1995年よりプロ通訳者として稼働開始。 スポーツメーカー、通信システムインテグレーター、保険会社などで社内通訳者として勤務後、現在はフリーランスの通訳者として活躍中。

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