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プロ通訳者・翻訳者コラム

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成田あゆみ先生のコラム 『実務翻訳のあれこれ』 1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。5~9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。

第18回:修羅場について(子が熱を出した編)

翻訳者にはいろんな修羅場があります。
今回は、恥ずかしさを顧みず、最近起こった「子が熱を出した」という修羅場について書いてみたいと思います。

☆ ☆ ☆

深夜、さあ寝ようかという時、子(小2男子)をさわってみると熱い…
体温計を差し込んでみると案の定、8度近くあります。
一気にテンション上昇。もはや布団などかぶっている場合ではありません。
今後3~4日の予定を全部考え直さないといけないのです。

明日は、正午に小さな翻訳の締切があります。
本来なら、明日の午前中にのんびり訳して納品予定だったものです。

でも、明日の午前中は子を病院に連れて行くので、仕事はできません。
今から4時間半寝て、4時45分に起き、5時から作業開始して全力で訳せば、7時までには仕上がるだろう…と計画を立てます。
(ちなみに、私は夕食後は翻訳脳が働かないので、徹夜という考えははなからありません)


明後日は、スクールで授業があります。
初回ですし、休講にはできません。

病児保育室にお願いするか、最悪の場合は車で1時間半かかる実家に連れて行くか…できれば一日で回復してほしい、あさってのことは明日考えようという結論に至ります。
起きてすぐ仕事できるよう、机の上を準備万端に整えてから、子に冷えピタを貼って、とりあえず自分も寝ます。


4時半、起床。
子がまだ熱いのを確認し、緑茶を濃い目にいれ、4時45分から翻訳開始。
馬車馬のようにガンガン訳していきます。
子供が熱を出しているのだから「かわいそう」と思うべきなのでしょうが、泣く子も黙る締切の前では、「かわいそう」より「やつが起きてくる前にこの締切をなんとかしないと」という思いが先に立ちます。


朝7時、翻訳完了。
火事場のナントカで、今日のハードルは無事にクリアしました。
いつもそういうテンションで仕事できればいいのですが…

午前中は子を小児科に連れて行き、「ただの風邪」という診断をもらい、明日の病児保育室の予約票をもらって帰ります。
帰宅後、子が寝ている間に一度見直してから、翻訳を納品。
これくらいなら、まだ余裕があります。


翌日。発熱2日目。
今日も7度台の熱があるので、予定通り、病児保育室に子供を託すことにします。

この日も4時起き。
6時まで授業のための添削を行い、6時からは病児保育室用のお弁当作り。
普段やり慣れないのでえらく時間がかかります(笑)。


8時半、病児保育室へ。
ここがなかったら今日は大変なことになっていたことでしょう。
病児保育室は働く母ちゃんの最後の砦です。

朝9時、子供と病児保育室用の荷物を下ろし、仕事の体(?!)になる。
2日で8時間半しか寝ていないし、すでに半日分の仕事が終わっているので、眠いです。
駅前のコーヒーショップに寄り、ダブルショットのエスプレッソを流し込んでから電車に。
ここの店員さんには顔を覚えられていて「今日も濃いの行きますか~」と言われます。

授業は初回らしい熱気のもと、無事終了。
育児や介護や仕事のかたわら朝11時に麹町まで来るのは、時に並々ならぬ努力を要します。
受講生にとっても、講師にとっても、それは同じこと。
「子供を(親を)置いてきて大変なのよ~」などと口に出して言う人はいませんが、そうした思いが確実に渦巻いており、授業への集中力につながっている気がします。

15回、課題を提出し、授業に出席すること自体がひとつの試練です。
半年間の講座を完走できれば、仕事の修羅場を超えるタフさも、きっと身についていることでしょう。


授業後、夕食の買い物をしてから、病児保育室にお迎え。
子もすっかり元気で、園内でサッカーなどして待っています。
夕暮れの帰り道、親子でたいやきを食べてから帰ります。忙中閑ありの楽しいひととき。
明日はきっと学校に行けることでしょう。
たまった宿題などをせかして終わらせ、どたばたと就寝。


・・・ですが、ここからが事態暗転。
夜中、寝ている子をさわってみたら、またもや熱いのです。
この熱さでは、明日の登校はどう考えても無理です。

頭のなかを、明日の予定がぐるぐると回り出します。
病児保育室の予約票はありませんが、朝一番で連絡しよう。
明日の授業の準備は、4時半に起きればできる。
お弁当のおかずが問題かも…冷蔵庫を覗いて、ありあわせで何とかすることに決定。
あさってには小さな締切、週明けには本コラムの締切が(笑)。
ファイルを開いて、翻訳のほうは明日少し調べ物をしておけば大丈夫と見当をつけます。

唯一、病児保育室の予約票がない場合、9時まで待って医師の診察を受けなければならない点が引っかかります。
指示通り、9時から診察を受けていたら、授業開始に間に合いません。
夫に頼むことも考えますが、もしかしたらあさっても同じ展開になるかもしれないので、その時に頼むことにして、今はとりあえず寝ることにします。

4時半起床、授業の準備。
4時間半睡眠も3日目となると、早朝しか頭はまともに働きません。貴重な時間です。

8時、病児保育室に電話すると、悪い予感が的中。
「予約票がない方は、9時に診察を受けてからお預かりします」と言われてしまう。

「そんな…昨日もお願いしたんですけど…
どうしても8時からお願いできないとなると、子供を連れて仕事に行くしかないんですけど」
あと15分で家を出ないと授業開始に間に合いません。動揺して自然と声もうわずってしまいます。
「でもそういう契約になっておりますので。1時間くらい休めないんですか」
う~む…1時間「くらい」休むことは不可能なのですが…

すでに通勤電車で都心に向かっている夫を呼び戻そうかと一瞬考えますが、今から戻ってきてもらってもどのみち間に合わないだろうと考え、この線は消します。

電話を力なく切って、一生懸命考えます。
孤立無援。四面楚歌。いえいえそんなことは言ってはいけません。ただ病児保育室に入れないだけなのですから…
そして冷えピタを貼って寝ている子のところに行き、静かに伝えます。
母ちゃんすでに泣いてます(笑)

「ごめんね、今日は病児保育室に行けないことになっちゃった。
でも、ママはどうしてもお仕事に行かないといけない。
だから、ママと一緒にママの学校に来るか、
ママは3時に帰ってくるから、それまでおうちで一人で寝ているか、
頑張って学校に行くか、どれがいい?」

我ながら鬼母としか言いようのない選択です。
しかし、子はほっぺたを赤くしながら「ママと一緒に行く」と言って起き上がります。
本当にけなげなやつです。


4月なのに冷たい雨が降る中、子の着替えや本やおもちゃで重くなったカバンを肩から下げ、子の手を引くようにしながら、小学校とは反対方向の駅に向かいます。
平日朝9時台の上りホームには、私服姿の小学生など他にいません。
幸いにも熱は下がりつつあるようで、子は機嫌よく始発電車に乗ってくれました。

出講先の方々はいやな顔ひとつせず講師室に子をいさせてくれ、お陰で子供のことを頭から追い出して、つつがなく授業を終えることができました。
甘えてはいけないと思いつつ、朝の一件があっただけに、寛大さが本当に心にしみます。

授業後、なぜかすっかり回復し「今日おれは頑張ったから帰りにビックカメラに行きたい」などと言う子を叱り飛ばしながら、帰路につきます。
帰りの電車の中で折り重なって爆睡する母子。
しかし妙に寒い。気温のせいだけではないような…

翌日、子は元気に登校。
私は5時半に起き、小さな締切を一本仕上げます。悪寒がします。
「子供の風邪が大人にうつると増幅する」という法則通りです(笑)。
そして当コラムの締切には間に合うのか・・・!!

☆ ☆ ☆

以上、最近の修羅場を恥ずかしげもなくさらしてしまいました。
ここから私は、何の教訓も導き出すつもりはありません。
ただ「今回も締切を落とさなくてよかった」というだけです。

こんな毎日ですので「仕事と育児を両立」などという華麗なことをしている意識はまったくありません。
来る仕事は断らないというポリシーのみを掲げ、いろんな人に少しずつ迷惑をかけながら、ここまでぎりぎりの生活を送ってきたというのが実感です。
たぶんこれからも、いろんな人に少しずつ迷惑をかけながら過ごしていくのでしょう。
周囲の人たちには頭が上がりません。
ただ言えるのは、そうした方々への恩返しとして、目の前に困っている人がいたら、力を貸して差し上げたいということだけです。

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