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プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
成田あゆみ先生のコラム 『実務翻訳のあれこれ』 1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。5~9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。
第27回:アラサーのあなたへ
先日、インターネットクラスのスクーリングで、日帰りで名古屋に行ってまいりました。妙齢の女子に囲まれ幸せな気分(笑)。皆さん、地方で真剣に翻訳者を目指している方ばかりで、とても刺激的なひとときでした。
帰りの新幹線の中、そう言えば自分が翻訳者になろうと思い立ったのも20代後半、いわゆるアラサーの頃だったのを思い出しました。
あの頃は今よりずっと時間があったはずなのに、今よりもずっと切羽詰まっていたような気がします。
生活全般の要領も非常に悪かったし、訳すのも遅かったからかもしれません。それ以上に人生の先行きが不安だったのが大きかったと思います。
先が見えないのは実は今も同じなのですが…
それでも、当時に戻りたいかと聞かれたら、今よりシワやシミが少ないこと以外は(笑)、今のほうがいいと断言できます。
今回はそんな、悩み多き(?!)アラサーの年頃にあって翻訳者への転身を目指す人に向け、書いてみたいと思います。
☆ ☆ ☆
いきなりで恐縮ですが、アラサーは何だかんだ言って無理がきく年代です。
体力もありますし、徹夜もできます。自由になる時間も、他の年代よりも多いと思います。
翻訳者になろうとするなら、アラサー期に背伸びをして仕事の場数を経験するのはとても重要だと思います。「そこまでやる?!」と言わせるくらいでちょうどいいでしょう。
ダメ出しに落ち込んではいけません。私も厳しいダメ出しをいっぱい受けてきたので経験から分かります。
本当に箸にも棒にもかからないと思ったら、人はフィードバックを与える手間も惜しいと思うものです。「ダメ出しは愛のムチ」と私に語ってくれた翻訳会社の人がいましたが、その通りだと思います。痛いですけど……
これがアラフォーになると、ダメ出ししてくれる人は格段に減ります。(いくら年功序列が崩れたと言っても、年長者にダメ出しするのはまだまだ難しいです。)
そうなる前に、たくさんダメ出しを受けて、実力をつけておく必要があります。
アラサー期はいっぱい修羅場をくぐり、「あの人なら踏ん張ってくれる」という信頼を確立する時期だと思います。
前に何かの本で、「職業人というのは、自分のために一肌脱いでくれる人をどれだけ持てるかが大事」と読み、なるほどと思いました。言い換えれば、自分のために無理を聞いてくれる人がどれだけいるかということです。
そのためには、まず自分が無理を聞かないといけません。
私はこれを「信用貯金」と呼んでいます。
アラサーは、信用貯金を増やす時期だと思います。
☆ ☆ ☆
アラサーは、社内翻訳者として稼働開始するのに最適な年代です。
3~4年程度は社内翻訳者として、意識を高く持って修業を積むと、力がつきます。
(翻訳未経験者がいきなりフリーランスという道は基本的にありません。)
最初の仕事を得るのが難しいという声もよく聞きます。
私も派遣時代、なかなか次の仕事が決まらないことが何度かありました。
宙ぶらりんな状態は、かなりつらいです。
今の時代、翻訳者に新卒でなる人はほとんどいません。基本的には転身(転職または配置転換)してなるものです。
となればアラサーたるもの、とにかく翻訳業に近づけそうな場所にもぐり込むことです。
ここで臆病になり「いや今の私の実力では…」と言っていると永遠に近づけないので、思い切って自分を売り込んでいくことが重要です。
そこで背伸びをすれば実力がつきます。
さらに、可能なら期待以上の仕事ができれば、少しずつ、本当に少しずつですが、自分のしたい仕事にシフトしていくものだと思います。
私はこれを「わらしべ長者理論」と呼んでいます。最初はわら(=自分の理想とはかけ離れている小さな仕事)でも、期待以上の仕事をしていると、少しずつ大きな仕事につながっていくということです。
完璧に条件が合うということはむしろ少ないと思うので、翻訳の勉強になるという点を最優先して、その他の点は多少は我慢するということも、時には必要だろうと思います。
☆ ☆ ☆
そしてこれは厳しい話・・・翻訳者になれない場合、いつ見切りをつけるかです。
何年か頑張ってみて、もし翻訳という仕事に向いていないことに気づいたのであれば、早く他の道を探すべきだと思います。
何も翻訳だけが仕事ではないのですし、向かないことをいつまでも続けてつらい思いをするよりも、自分の力に合った仕事に早く就いて、そこで居場所を見つけたほうがハッピーだと思います。
ただし、見切りは自分でつけないといけません。
☆ ☆ ☆
そして何よりアラサーとは、結婚や出産があって生活が大きく変化し(または近い将来に結婚や出産があるかもしれないと思って一歩を踏み出せず)、自分の今後の予定が見えないのがつらい時期だと思います。
名古屋でも妙齢の女子とそういう話をすると、出るわ出るわ(笑)。
やはりアラサーの悩みの核心は、そういった”女の宿題”と仕事人生との折り合いをどうつけるかにあるようです。
これは本当に本当に難しい問題です。
アラフォーの私も、そうした種類の悩みから完全解脱したわけではありません。
ただ、アラサーだった頃の自分に言えることがあるとしたら、
・”女の宿題”にまつわる問題は一生続くので、それらを全部クリアしてから他のことをしようと思うと、他のことはできない
・仕事しながらの育児生活は楽ではないが、仕事があるから救われる場面も多々ある
・家庭の事情で仕事が苦しくなったら、そのときこそ信用貯金の使い時である
ということでしょうか。
以下、お目汚しの話で恐縮ですが・・・
先日、子(小2男子)の学校の担任から「連絡帳、見ていただけましたでしょうか」と電話がかかってきました。
いや、実は3日ほど見ていなかったのです。だって連日睡眠時間を削る修羅場が続いていて、育児方面では形ばかりのごはんと宿題の漢字を見るのが精一杯だったのです。
でもそんな言い訳は通用しないので、ずぼらですみませんとひたすら謝りながら、かなり落ち込みました(ちなみに連絡帳には「図工の袋を持たせて下さい」と書いてありました。)
「段取りが悪いから修羅場になるんだ、ならいっそ…」と廃業の二文字が一瞬頭をよぎったほどです。
そこまで落ち込んでも、立ち直るきっかけはやっぱり仕事なのですから、皮肉なものです。
結局その修羅場も、締切通りにぴたっと訳が完成したり、同じお客さんから追加の依頼が来たりすると、もう羽が生えたような気分(笑)
「いや~訳すって本当に楽しいな~。子の忘れ物で怒られたくらいで、この仕事やめるわけにはいかないでしょう!!」と立ち直れるから不思議です(担任の先生ごめんなさい)。
仕事があるがゆえの悩みもあるのですが、明らかに仕事に救われている部分もあります。
(落ち込んだ母ちゃんを見て子も反省したようなので、ひとまず結果オーライとします。)
もう一つは、信用貯金のことです。
10年間、来る仕事を一切拒まなかった私は、信用貯金もそれなりに貯めました。
そうして最近は、信用貯金を取り崩すこともあります。
落ち込んでいた数日中、抱えていた仕事がどうしても進められなかった(そこまで落ち込むのは珍しいことです)ので、ことの次第を少し話して、締切を延ばしてもらいました。後の工程が大変になるはずなのにそこは飲み込んでくれて、しかも「うちも同じ」と言ってくれたMさん…お気遣い、心にしみました。
信用貯金を使う、つまり人間関係の信頼をベースに融通しあうのは幸せなことです。
こういう思いをするために、人は仕事をするのかもしれないと思うほどです。
信用貯金を取り崩せる老後のためにも(?!)、アラサーのうちは頑張って信用貯金を貯めることを、強くお勧めします。
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