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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

成田あゆみ先生のコラム 『実務翻訳のあれこれ』 1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。5~9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。

第28回:「頑張れ」を英語で訳すと?

「頑張れ」を英語で訳すと?

このページを開いて下さった皆様、ご無事でお過ごしですか。
今回は書き出すことが本当に難しかったです(いつも難しいのですが)。
茫然とテレビやネットの震災情報に見入っていたら、言葉が出てこなくなってしまいました。
翻訳者なりに今できることをと思って、このテーマを選びました。


Q:『頑張れ』って英語に訳せないって本当ですか?

A:震災後、たてつづけに「『頑張れ』って英語で何と言うの?」または「『頑張れ』は英語に訳せないって本当?」と聞かれましたが、本当です。
「頑張れ」は「よろしくお願いします」に並ぶ、日本語ではごく一般的にもかかわらず、英語に最も訳しづらい表現のひとつです。

辞書を引くと出ている訳語は、悲しいほど、今の状況とピントがずれています。

「頑張れ」Do one’s best!/Try hard!/Stick to it!
「頑張り」tenacity(固執)/perseverance(我慢)
「頑張る」keep a stiff upper lip(ぐっとふんばる)

どれも定番の訳語ですが、震災後のいま、こんな言葉を使う気持ちには到底なれません。

また辞書には、「受験生や選手などを励ますときの「頑張れ」は、英語ではTake it easy! やGood luck!といった表現をする」ともあります。
確かにその通りですが、今の状況で言える言葉ではありません。

そこで海外のサイトに目を向けてみると、例えば震災翌日のThe Independent紙の一面に掲載された「がんばれ、日本。がんばれ、東北。」は、横にDon't give up, Japan. Don't give up, Tohoku
と英訳があります。イギリスの新聞の1面を日本語の文字が飾るという趣向も手伝って、ぐっとくる訳です。

また、 海外のアニメファンによる募金活動のサイトで「がんばれ」の訳として、
We will continue to cheer for you! Hang in there, Tohoku!
とありました。
萌えキャラの絵とセットで生きる、これもぐっとくる訳です。

そこで「頑張れ」の直訳からいったん離れ、「地震にあった人を気遣い励ます表現」を拾ってみました↓。

・Our thoughts [and prayers] are with you.
・Our hearts go out to the people of Japan.
・ Stay safe & stay strong!
・ Hang in there!
・ Thinking of you.
これらはメールなどで使えそうです。

報道関係の文章から拾ってみると、

・Its people will cope.
・Japanese people demonstrate resilience
・make efforts to remain upbeat
・It is in adversity that a country shows its mettle

これらは、もう少しフォーマルな文章で使うそうです。

なお、resilienceはthe ability to become strong, happy, or successful again after a difficult situation or event (困難な状況や出来事のあと、強さや幸せ、成功を再び手にする能力)とあります。
「復興力」の訳としてぴったりな気がする、個人的に力づけられる言葉のひとつです。


ところで、今の震災の状況で「頑張れ」と言うこと自体に、違和感を覚える人もいると思います。実は私もそのひとりです。

「頑張れ!」という言葉が最も自然に出てくるのは、教師が生徒を励ます、あるいはランナーを沿道で応援するといった場面だと思います。
あえて細かく説明してみると、「頑張れ!」とは、受験やマラソンのような具体的な努力をしている人に向かって、「今あなたは一人で戦わないといけない、私はそれを見ていることしかできないけれど、離れたところから精一杯の気持ちを送ります」という意味だと思います。
相手との間に一線があることを前提に、「こちら側から向こう側に気持ちを送る」という点に感動のある表現です。

いま、この震災において「頑張って」という言葉がしっくり来ないのは、大変な苦労をしている人たちと自分の間に、心情的に線を引くことができないからだと思います。
「頑張れ」というと高みの見物のような感じになるから、言えないのだと思います。

これが「頑張ろう」になると、こちら側と向こう側という区別が、かなり薄れる感じがします(それでも「これ以上どう頑張ればいいの?」という反応が予想されてやっぱり躊躇してしまうのですが)。
とりあえず、「頑張ろう」を表現する場合、主語はweになると思います。以下、拾ってみた表現です↓。

・We will certainly recover and rebuild our country.
・We will rebuild.
・Let’s get through this difficult time together
・We are pulling together to help each other.
・Hardwork can create magic! (←これはインド英語)

「頑張ろう」より具体的で熱く、同じではないのですが、自分を励ますニュアンスがあります。

これから翻訳業界も、フリーランスの仕事の仕方も、そして日本社会も、前と同じあり方に戻ることは決してないと思います。
翻訳者は明るく前向きな言葉を発信することで、日本のresilienceに貢献していきたいです。

参考URL:
Japanese, Waiting in Line for Hours, Follow Social Order After Quake
(ABCが報じた、震災後の日本人の精神的な芯の強さを論じた記事です)
Japan Philharmonic Orchestra in Hong Kong-2
(音楽の持つ力について。感動的です)
Anime Fans Give Back to Japan
(海外アニメファンによる義援金募集活動のサイト)
Japan Earthquake: The Struggle to Recover
(米The Atlantic誌。分析的な視点も交えて震災を報道しています)
Japanese Reconstruction After the Earthquake
(パキスタン人のブログ。インド英語で日本の復興力を称えています)

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