Tips/コラム
USEFUL INFO
プロ通訳者・翻訳者コラム
気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。
成田あゆみ先生のコラム 『実務翻訳のあれこれ』 1970年東京生まれ。英日翻訳者、英語講師。5~9歳までブルガリア在住。一橋大大学院中退後、アイ・エス・エス通訳研修センター(現アイ・エス・エス・インスティテュート)翻訳コース本科、社内翻訳者を経て、現在はフリーランス翻訳者。英日実務翻訳、特に研修マニュアル、PR関係、契約書、論文、プレスリリース等を主な分野とする。また、アイ・エス・エス・インスティテュートおよび大学受験予備校で講師を務める。
第30回:フリーランス翻訳者、PTA役員になる
ついになってしまいました!! 「一度はこれを経験しないと、一人前の親とは言えない」(文芸評論家・秋山駿氏)と言われる、PTAの役員に……
子の通う小学校は1クラス20人しかいないため、6年間で1回は役員をやらなければならないことはわかっていました。今年はそれまで続けてきた仕事が一段落したこともあり、委員を引き受けるなら今しかないなと思い、1学期限定の「夏祭り委員」に立候補しました。はい、確かに委員までは立候補したのです。でもそこで、欠席裁判によって夏祭り委員長に選出されてしまうのは想定外でした(ちなみに欠席裁判はスクールの授業中に行われました)。
夏祭り当日は7月の3連休です。これから準備と締切が重なると生活が修羅場になる恐れがあります。うまくいけば当コラムのネタになる(?!)と考えている自分が怖いです。
以下、今回は私ごとで失礼いたします。
☆ ☆ ☆
PTAとは、具体的に何がどう大変なのでしょうか。「とりあえず忙しいに違いない」と思って逃げ回ってきましたが、具体的なことはよくわかっていませんでした。
夏祭り委員長になってみて1ヶ月、まず言えるのは、会議が多いことです。週2回平日午前中は会議、加えて土曜にも会議が入ることがあります。救いは、意味のない会議は基本的にないことです。フリーランスは、無意味な会議が本当に耐えられないのです(これについては後述)。
委員長は会議の準備や議事録作り、保護者や教員、他の委員会や地域との連絡などの仕事もあります。ふたをあけてみたら仕事はたくさんありました。
ところで、……ここから先は小学校関係者が読んでいたら苦笑しそうなのですが、素の私は舌禍の人、非常に辛辣かつ毒舌です(笑)。大本営発表には常に裏があると考え、どんな発言にも字面以上の真意を探るくせがあります。
そんな私も普段はつつがなく社会生活を送っているのですが、保護者会などの場でぽろっと素のトークが出てしまうと、ものすごく意味不明な人に見えるらしく、びっくりされてしまいます。保育園でこの失敗をして苦労しました。ですので……この際だから書いてしまいますが……子が小学校に上がってからは、毒舌で失敗しないにはしゃべらないのが一番と、保護者会等では正体不明の暗い人を演じてきました。「成田さんはなぜか家から出たがらない」ということになっています。
でも、さすがにその路線では夏祭り委員長は無理でした。暗い人のままでは仕事が片付きません。
そこで引きこもり風でいることをやめて、ここで披露しているのと同じ、翻訳者/講師モードで行くことにしました。そうすると、自分で言うのもなんですが、仕事がどんどん片付くのです(笑)。WordもExcelも使えますし、締切に向けて逆算して予定を組んでいくという進行管理も知ってますし、資料を読みこなす能力もあります(自慢げに言ってますが、この年まで仕事をしていれば普通のことです)。毒舌発言もそれなりに抑えるようにして、なんとかうまくやっているつもりです。
ひとつ心配なのは、夏祭り終了後は「引きこもりの成田さん」に戻れないことです……。
☆ ☆ ☆
私にとってこうした忙しさは、それほど苦痛ではありません。
それよりも、だらだら続く意味のない会議、あるいは「毎年そうやっているから」というだけの理由で誰にとっても楽しくない行事を準備するとしたら、その方がはるかに苦痛です。
フリーランス生活の中でますますそうなったのか、それとも元々そうだったのか定かではありませんが、私は頭ごなしにルールを押しつけてくるような場、誰もが目立たないように顔色を伺っているような場、ついでに退屈な巨大ショッピングモール(?!)が、むずむずしてくるくらい苦手です。一言で言えば「同調圧力」*1のかかる場所が耐えられないのです。
別にすごく個性的でとんがった人間というわけではないのですが、とにかく自分を押し殺さなければならない場が苦痛でした(そんな私にとってフリーランスとは、自由に仕事の出来る素敵な立場などではなくて、集団にどうしても合わせられない可哀想な人が、それでも社会とつながるためにたどり着いた、ぎりぎりの手段なのです)。
それほどまでに同調圧力が苦手なだけに、夏祭り委員長に決まってしまったと聞いたとき、一番心配したのはこのあたりのことでした。「みんなが押し黙っているような会議の進行なんて私にできるのだろうか、突拍子もないことを口走ってしまうのでは・・・」とまで一時は考えました。
でも、結論だけ言うと大丈夫でした。私も少し大人になりましたし、それ以上に、震災を経て、「これからは同調はいけない」と、お母さんたちがそれぞれに思っているのを感じます。
これ以外にも、おばさんと非・おばさんの違いは膝をくっつけて座っていられる筋肉があるかどうか(自戒も込めて)、節電・低予算に賭ける主婦パワーの炸裂について、日本語における絵文字の微妙なニュアンスについて(絵文字1年生です)、公文書を完全に書式通りに書く難しさについて(PTAから家庭に配布する手紙は公文書らしいです)、主婦のIT格差について(Androidは私だけ)、などいろいろありますが、またの機会に譲ります。修羅場をネタにしないで済むことを祈りつつ……
*1 『非属の才能』(山田玲司、光文社新書、2007)。学校に同調できない中高生に向けて、「非属」すなわちフリーランスの覚悟を説く本です。「才能というものは、”どこにも属せない感覚”のなかにこそある」という本文1ページ目にいきなりやられました。10代や20代で読んでいたら、集団に同調できない自分でも許されるんだと感じて、泣きながら読んだと思います。
第34回:Stay hungry, stay foolishの訳は「ハングリーであれ、愚かであれ」なのか?
第32回:8/25開催「仕事につながるキャリアパスセミナー~受講生からプロへの道~」より
第23回:海野さんの辞書V5発売!!+セミナー「新たに求められる翻訳者のスキル」(後編)
第22回:セミナー「新たに求められる翻訳者のスキル」(前編)
第19回:翻訳Hacks!~初めて仕事で翻訳することになった人へ~
第16回:英日併記されたデータから、原文のみを一括消去する方法
第15回:翻訳者的・筋トレの方法(新聞の読み方、辞書の読み方)
第12回:『ワンランク上の通訳テクニック』連動企画(笑):Q&A特集
仕事を探す
最新のお仕事情報