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Tips/コラム

プロの視点


『欧州通訳の旅、心得ノート』 一緒に通訳の新しい旅に出ませんか? 寺田千歳

第四回

侮れないスモールトーク in 欧州

みなさま、こんにちは。寺田です。
今回は欧州人との接し方の基本、挨拶についてお話いたします。ここではコロナ禍の例外対応ではなく、あえてふつうの挨拶を説明します。 通訳者は会議では確かに脇役です。しかし、挨拶を大切にする欧州では、会議の前後に関係者に挨拶をします。 ドイツで、クライアントから急ぎの用件を頼まれ、挨拶なしに単刀直入に質問をした時には、「あなたはどなたでしょうか?まずはグーテンターク(挨拶)からですね!」とたしなめられました。 挨拶の順序は、ご存知のとおり、こんにちは!>握手をしながら名乗る>名刺交換>スモールトークです。 日本との違いは、握手の強さやスモールトークに対する考え方やその内容ではないでしょうか。では、詳しくみていきたいと思います。

  

欧州(ドイツ語圏)の挨拶は力強い握手かハグで始まります。ビジネスでは握手から入り、個人的に親しくなりファーストネームで呼び合うようになるとハグへ発展します。 男女は関係ありません。相手にぐっと近寄り、軽く微笑みながら相手をしっかり見つめ、手が痛くなるほどしっかり握ります。 遠慮して上品にふわっと握る、ではだめなようです。相手もこちらの手を痛くなるほど握ってきます。 続いて、名刺を交換し、「お元気でしたか。いつ着かれたのですか。フライトはいかがでしたか。」など、定番のトークが始まります。
このスモールトークが、なかなかの曲者です。簡単にみえて、海外では意外なことを聞かれたり言われたりすることもあり、とっさの返しかた、訳の仕方がはっきりと分らなくて戸惑うこともあり、とても気を使います。 それは、短くても、話者自身の教養・価値観・美的感覚など個人的な部分がはっきりと現れるやりとりだからです。 テーマが決まっていて共通の話題と知識に限定されたやりとりが中心の商談や会議とは違い、スモールトークでは話者が個人的に関心のあることが中心になるため、通訳者の一般教養が試されます。 ちなみに、ドイツの有力紙はある記事の中で会議通訳者を「専門だけでなく、広く浅く知識・教養を要する最後のジェネラリスト」と表現していました。 欧州のスモールトークを無事切り抜けるためのポイントをテーマ別(教養・美的感覚・文化の共通項)にみていきます。意識しておくと、会話の通訳や、自身のスモールトークでいつか役立つかもしれません。

 

教養に欠かせない歴史の知識
欧州のビジネスパーソンは理系文系関係なく「自分の国や地方の歴史」をよく知っており、話題にします。 これはスイスやベネルクス3国など小国でよりその傾向が強いと感じます。それは彼らの歴史について一般に広く知られていないからのようです。 日本でも欧州の小国の歴史についてあまり知られていないため、スモールトークで現地の方から直接お話を聞ける機会があれば、聞いてみてください。 彼らも興味を持ってくれる人がいるとうれしくなるものです。
ドイツやフランスなど大国の歴史については日本でも社会や歴史の教科書で学んだ部分もありますが、欧米では「歴史は勝者が書いたもの」といわれるように、 歴史にはいろいろな見方があり、その解釈も進化を続けているため、彼らと対等に話すことはなかなか難しいです。よほど詳しくない限り、 あくまで彼らの話を聞いているほうが無難でしょう。なぜなら、彼らは日本人のもつ教科書の歴史観に違和感を感じる可能性もあるからです。 例えば、日本人が初めてドイツ人に会うと、親しみを込めてほぼ必ず次のように言います。「日本は近代医学をドイツから学びました。先の戦争では同盟国でしたね、 だからドイツにとても親しみを感じています!」と。私もその1人でした。ところが、相手はよほどの親日家で日本の文化に詳しい人でもない限り困惑します。 もちろん考えは人それぞれですが、今日の多くのドイツ人は戦後の学校教育で自国の戦争責任について学んできているため、 「戦争で我々がしたことは間違っていた、その戦争で同盟国だったことも含めてポジティブな過去ではない」と考え、その話はあまりして欲しくないと感じるようです。 こういう時は、戦争の部分はさらっと訳してしまい、「それに、もっと前から日本と欧州(ドイツ)の交流が始まっているのです。」と、一言付け加え、 ドイツで近代医学を学んだ森鴎外や北里柴三郎、欧米を視察した岩倉使節団など、日本がドイツをはじめ欧米を手本に近代化を進めた明治時代の話が中心になるようフォローすると、 話題が明るくなり、日本人が持つ欧州(ドイツ)に対する親しみを理解してもらえるかもしれません。一方、私は20年前からずっと、 初対面のドイツ人から「日本と近隣諸国の仲が良くないのはなぜですか?」という質問をされてきました。 みなさんはどう答えますか?欧州人が好きな「なぜ日本は。。?」という質問。私自身、欧州移住前には当たり前で気づかなかった謎が日本にはたくさんあることに気づきました。 日ごろから自問自答して何かにつけて大まかな情報でいいので調べておくと便利です。

  

美的感覚の違い
欧州では、(もちろん、日本にもいらっしゃいますが)洋画から飛び出してきたような美男美女が目の前に登場することも稀ではありません。 通訳の場も例外ではなく、2メートルを超える長身の紳士、故ダイアナ妃を思わせる美女、夏にタンクトップで会議室に現れる露出度の高い社長秘書の方など、それはさまざまです。 私も慣れないうちは、インパクトのある異性に挨拶するとき、握手はできても目を合わせられなかったり、「本当に背がお高いのですね!」とうっかりfauxpasがありました。 「あら、痩せましたね。」を含めて、人の外見について触れてはいけないのはもちろんのこと、長身の方はそれを気にしていたり、日本で憧れる高い鼻も欧州では「高い」とはいわず「大きい」といって、彼らの理想は日本人のそれとは異なるようです。 また、日照時間が少ない北ヨーロッパにすむ人たちの間では、必ずしも色白=美人の発想ではなく、逆に日焼けした褐色の肌への憧れが定着しています。 ドイツ語に「私はチーズのように白い」という色白で不健康な人をイメージさせる表現があり、ドイツのお悩み相談サイトでは、「どうしたら健康的で魅力的な褐色の肌になれますか?」なる相談も多く見られます。 欧州では顔のそばかすは魅力的と考えられ、そばかすが目立つ大物女優もたくさんいます。 北ヨーロッパでは、冬は数週間から数ヶ月曇りが続くこともあるため、お日様が顔を出す季節(夏)にできる限り太陽の光を浴びようと、 家にいる時も朝から日が沈むまでバルコニーやテラスなど屋外で読書や食事をして過ごします。平日は仕事のあと家で太陽の光を浴びれるよう、夕方西日がさすバルコニーやテラスのある西向きの家が人気です。 乾燥した欧州の夏は実に爽やかで、外で過ごしても日本のように蚊に悩まされることがありません。会社でも、パティオ(中庭)やテラスでミーティングや食事ができるところもあります。 日焼けをして休暇から戻ってきた人には、「顔の血色がとってもよくなりましたね。いいですね!」と褒めることが多いです。日本女性が夏に手の日焼け予防として白手袋をして外出することは欧州では理解されません。 このように、美的感覚が異なると、日本での褒め言葉が欧州では逆に解釈されるリスクが伴うこともありますので、注意が必要です。
そこで、スモールトークの時に話題に困ったら、ネクタイやスカーフなどの色やデザインを話題にしてもいいでしょう。 私は欧州では喉を冷えから守る目的で仕事の際に身につけていたスカーフについて聞かれることがよくありました。 その場合、例えば次のように続けます。「これはスペインのもので、大胆な色使いが気に入りました。 あちらでは良質のコットン製品をたくさん見ました。」「そうですね、私もスペインにはよく行きます。 昨年は家族とバスク地方へ行きました。」「バスク、いいですね。また後ほど機会があればお話をお伺いしたいです。」と、ひと言話しておくと、会議で通訳をする前の緊張もほぐれ、 その後のランチブレイクやディナーで話題が途切れてしまったとき、「よろしければバスク地方のことを少しお伺いできますか。日本ではあまり知られていないのです。」と通訳者がフォローすることもできます。

  

共通項はサッカー
他にもスモールトークで活躍する話題としては、やはりスポーツでしょう。ただ、欧州では日本やアメリカで人気のプロ野球やプロバスケは見たことがなく、ラグビーはフランスや英国など一部の国に限定されます。 欧州共通のスポーツはやはりサッカーでしょう。ドイツをはじめ欧州のプロリーグで活躍している人気日本人選手も多く、欧州のサッカー事情を少しでも知っていると、共通の話題として盛り上がります。 私は香川選手が最初にドイツのプロリーグ(ブンデスリーガ)のボルシア・ドルトムントで大活躍していた時期に偶然同じ街に住んでいましたので、仕事のスモールトークでも地元チームや香川選手の話をすると喜ばれました。 余談ですが、私は当時ドルトムントのあるビジネス会合でこのチームのCEOとスモールトークをする機会があり、「香川選手の通訳はもういらっしゃいますか?」とたずねましたら、 彼は困ったような顔をして、「(前略)サッカー選手の通訳は更衣室に一緒に入れないと仕事になりませんから、女性のあなたは難しそうですね…」と言われ、納得したことを覚えています。 みなさんもぜひ欧州の人とお会いしたらスモールトークに挑戦してみてください。

 

今回はここまでです。次回は欧州で名前を呼ぶときのポイントについてお話いたします。

 

寺田千歳 1972年大阪生まれ。日英独通訳者・翻訳者。ドイツチュービンゲン大学留学(国際政治経済学)、米国Goucher College大(政治学・ドイツ語)卒業後、社内通訳の傍ら通訳スクールで学び、 その後、フランスEDHEC経営大学院にてMBA取得。通訳歴20年内13年ドイツを拠点に欧州11カ国でフリーランス通訳として大手自動車・製薬メーカーのR&D、IRやM&A、 日系総研の政策動向に関する専門家インタビュー等を対応。現在は日本にてフリーランス通訳者。

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