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Tips/コラム

プロの視点


『欧州通訳の旅、心得ノート』 一緒に通訳の新しい旅に出ませんか? 寺田千歳

第6回

五感で体験する芸術空間―欧州での会食(前編)―

こんにちは、寺田千歳です。コロナ禍で欧州も同じく長らく会食ができない状況が続いています。世界中でまた会食ができる日が来ることを祈りつつ、今回と次回は欧州での会食時における通訳の心構えをお話しさせて頂きます。

  

私が通訳として参加したビジネス会食の数は多く、ドイツでは会社員としてかなり趣向が凝らされた社内会食(アーティストによる演劇やライブコンサート付き)や、フリー通訳者としては、欧州各地でビジネス会食に200回以上参加しています。日本の経営幹部が欧州の子会社を一度にいくつも訪問されるような場合は、1週間連続して毎日各都市で会食に参加することもありました。また、ドイツの友人や家族が会食好きだったこともあり、カジュアルなお店から格式あるお店まで、さまざまな場所で定期的に会食に参加することで自然に現地のマナーを体得していきました。

 

では、会食の目的からみていきましょう。日本と同じく「もてなす」ことで、セッティング(場所・雰囲気・演出)・食事・会話・メンバーの要素を巧みに組み合わせ、お互いにとってクオリティの高い時間にすることです。通訳者は目立たずともこの要素すべてに関わってきますので、大切な役割を担います。そこで、場所を欧州と仮定し、欧州人との会食で気をつけたいことを、おもてなしの場に「相応しい」服装・振る舞い・会話(声や話し方・話題)・お店でのマナー・食事マナーに分けてみていきます。会議では、クライアントによって話されるテーマが大きく異なりますが、会食の場面においては、欧州の海外ビジネスに関わる方たちには思いのほか共通点が多いと感じています。よって、業界に限らず、女性通訳者として参加するビジネス会食の基本マナーとして、ある程度参考になればうれしいです。

 

今回は、ディナー会食の場所・服装・振る舞いマナー(テーブルにつくまで)についてお話します。

 

まずは、場所です。食事をする場所には驚くほどいろんなところが考えられます。ある意味、食事とは、五感で体験する3次元芸術といった感じで、忘れられない思い出となった会食が多々あります。日本と大きく異なるのは、日本では大小貸し切りの個室で「水入らずの空間」を大切にしますが、欧州では、他のゲストもお店の雰囲気の一部として欠かせない存在です。よって、自分もそのお店に相応しいゲストとしてマナーを知っておくことがより大切になります。また、「メニューの内容」と同じくらいか、国によってはそれ以上にお店の場所、雰囲気、サービスをとても重視する傾向があります。

  

大切な日本のお客様をもてなすため、ホスト側もさまざまな趣向を凝らします。ほんの一例ですが、ドイツ語圏だと、カジュアルに会話とビールを楽しむときはビアガーデン、地元料理でもてなしたいときはドイツ・スイス・オーストリアなど地元料理の専門店、地元にこだわらず洗練された雰囲気・食事・ワインメニューでもてなすときは洒落たイタリアン・フレンチ、企業が所有するお屋敷のような建屋内にあるexclusiveなお店、美しい街並みを背景にそぞろ歩きを楽しんだ先にある旧市街地のレストランもあれば、自然豊かな郊外のワイナリーにある旧居城レストラン、急こう配の山道の先にある夜景がきれいな山頂のレストラン、夜の暗い湖のゲスト専用のボートでしかいけない神秘的な島にあるプライベートなお店など、まさに一度しか行けない場所ばかりで、毎回ワクワクしたものです。天候が許す限り、お互いリラックスできる自然が見える場所や屋外が好まれる傾向が強く、郊外の海辺・森・湖畔・河畔にある屋外席や、屋内だと、フレンチ窓やテラスがついた開放的な場所で会食することが多いです。

  

また、行先の確認不十分で、その土地ならではのお店を期待していたらその反対だったこともあります。パリ出張中、パリの高級フレンチで静かにいただくコース料理を想像して日本人側はドレスアップしてこられたのですが、行ってみるとフランスのグルメで有名なアルザス料理店でソーセージ系メニューが多い居酒屋風の長テーブルに座るカジュアルなお店だったこともありました。日本ではドイツといえばビアガーデンのイメージが強いですが、実はビアガーデンの文化がある地方は限られており、フランス国境にほど近いドイツ西部の歴史ある温泉療養地でドイツ・ワイン街道に位置することで有名なバーデン・バーデンでは、会食はフレンチやワイン専門店をイメージしていましたが、そのイメージと対照的なカジュアルな南ドイツのビール&白ソーセージ料理店が選ばれたことがあり、日本人側はドイツ出張の期待通りおいしいビールが飲めるとホスト側の配慮に喜んでいました。日欧の会食では、宗教的な理由で食べられない食材もほとんどなく、ほぼ初めての食材にも抵抗がないため、食事内容で何か問題になることはありませんでした。次の服装などの理由で、行先を細かく確認することも大事ですが、一方で、場合によっては、日本人側にはある程度のサプライズは、より深い思い出になるのかもしれません。

  

服装は、ディナー会食の場合、欧州側のホストに行先を確認してそれに合わせます。
カジュアルなお店の場合は、ビジネスカジュアルなど、周りがリラックスできる服装で、かっちりすぎない方がスマートです。より高級感があるお城や高級ホテル内の格式のあるお店の場合は、濃いめのカラーで少しドレッシーさ・華やかさがあればいいでしょう。ドレッシーさ・華やかさは、大きなアクセサリーよりも服の色や素材で出した方が自然です。欧州で白い車はほとんど見かけないように、白やパステルは昼間の会議ではよいですが、夜のディナーには合いません。明るい色を取り入れる場合は、光沢感のある素材のトップスを濃いめのジャケットの下に着るなどメインではない方が良いでしょう。通訳はあくまで脇役に徹するという意味で、メークやアクセサリーは上品でシンプルなものにしますが、欧州のお店の灯りは概してキャンドルライトのような黄色味がかった間接照明中心で、室内全体を暗めにしてリラックス効果を出しています。暗くても手元は見えるようにテーブルにキャンドルが灯されます。最悪そのような暗さでも映えることを想定して、髪型から足先までトータルでその日の会食に相応しいか、また、3~5時間の会食を快適にすごせるかどうかもチェックして選んでみてください。

  

振る舞いのマナー:
欧州のお店で食事をするゲストには、ある一定の行動ルールがみられます。このルールの基本は、現地に根付くレディファーストの習慣とお店に期待するサービスの文化であり、知っておくとスマートに振る舞えるだけでなく、食事がより楽しくなること間違いなしです。日本育ちの私はこの習慣に慣れるまでしばらく練習と時間が必要でした。ドイツ語圏にはマナーの教本もありますが、必ずしもその通りではない場合もあると言われていましたし、チップの習慣なども各国間で若干違いがあることから、私は教本からではなく実践を重ねて身に着けました。特に、プライベートの会食で友人たちの行動を真似したり、尋ねてみたり、こっそり直してもらっていました。また、マナーは、その状況で一番理にかなったやり方のはずですので、無理に不自然なことをすることではないとも言われます。ただ、「何が自然なのか」は日本・欧州で共通なこともあれば、そうでないこともありますし、そこにいる人たちがどう思うかにもよります。よって、どちらが正しいかの判断はそれほど簡単ではないかもしれません。例えば、欧州でも日本人クライアントと通訳(私)だけで会食する場合は、私は相手に合わせ、特に欧州ルールにこだわらないようにします。一方で欧州に慣れている日本人の方で、欧州ではレディファーストを徹底される方もいます。現地のルールを意識しつつ、ルールを知らない相手に恥をかかせることがないよう気を配りながらフォローをすることが大切です。

 

以下のルールは、通訳者が女性の場合を想定しています。
まず、お店へ到着します。お店の方が外にいてドアを開けてくれない場合、男性がドアを開けます。女性通訳者の場合、ドアを開ける役割ではないため、自分が先頭にならないよう気をつけておきます。中に入ったら、席に案内される前に、クローク(上着をかける場所)へ案内される場合が多いです。そこでコート・マント・マフラーなど、食事中に着用しない羽織ものを脱ぎます。その際、女性の場合は、お店の方がクロークにいる場合は、その方に、あるいは同行した欧州の男性に脱ぐのを手伝ってもらい、そのままクロークへ持っていってもらいます。冬の場合は、コートと一緒にマフラーも渡すと、コートの袖に押し込んで落ちないようにしてくれます。私は初め男性に手伝ってもらうことが苦手でした。ドイツ留学中、図書館のクロークでバイトをしている男子学生にコートの着脱を手伝ってもらうことが恥ずかしくて、クロークがセルフサービス式の気楽な図書館を好んでいた記憶があります。今となっては、日本にクロークがなかったり、お店で男性が率先してコートの着脱を手伝ってくれないことがかえって物足りなく感じます。ドイツ語に「人間は習慣から成る動物である」という表現があるように、単なる習慣の違いだと思います。コートの着脱に関連して、冬の欧州では、車に乗り込む際、車内は暖房で十分暖かくなるため、コートやマント、鞄など、かさばる羽織や荷物は、予めトランクに収納してしまいます。車内や足元はすっきりするのが欧州のマナーです。もちろん、コートの着脱やトランクへものを入れるときには、運転手か乗客の男性が手伝ってくれます。

 

さて、無事クロークにコートを預け終わったら、テーブルに案内してもらいます。テーブルの席順については、欧州の会食では、ふつう男女交互に座るルールがありますが、ビジネス会食の場合、ゲストをもてなすためや、お互い会話がしやすいようにするためなど、他の要素で決めることもあるようです。例えば、着席が始まる前に、ホストがゲストに「景色がよい窓側はいかがですか。」椅子の種類が違う場合には「どちらの椅子がお好みでしょうか。」と確認されることもありますので、席が決まる前のタイミングで、日欧の両方に「通訳はどこに座りましょうか。」と通訳にとってベストな席を考えてもらいましょう。しっかり通訳する場合は、会食の主人公の隣の場合が通訳しやすいです。また、「会食中は自分で直接英語で話して人間関係を作りたい。通訳は必要な時だけで大丈夫です。」という場合は、邪魔にならないよう端の方に座る場合もあります。私の経験では、大きな丸テーブルより長方形のテーブルの方が通訳しやすいと思いました。また、壁向きより店内が見渡せる側に座ると、サービスしてくれるウエイターさんと目や手の合図でコミュニケーションが取りやすく、次のメニューを運んできているなど会食の流れの先が読みやすく、お勧めです。かくしてノイズが大きい会食時の通訳では聞き取りが大変な場合もあります。通訳の席は通訳の役回りとパフォーマンスに大きく関係してくるため、なるべく通訳しやすい席を自分なりに考えて事前に確保しておくことが大事だと思います。

 

今回はここまでです。次回は会食マナーの続きをお話しいたします。

 

寺田千歳 1972年大阪生まれ。日英独通訳者・翻訳者。ドイツチュービンゲン大学留学(国際政治経済学)、米国Goucher College大(政治学・ドイツ語)卒業後、社内通訳の傍ら通訳スクールで学び、 その後、フランスEDHEC経営大学院にてMBA取得。通訳歴20年内13年ドイツを拠点に欧州11カ国でフリーランス通訳として大手自動車・製薬メーカーのR&D、IRやM&A、 日系総研の政策動向に関する専門家インタビュー等を対応。現在は日本にてフリーランス通訳者。

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