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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第3回:突然めぐってきたチャンス

仕事の合間に立ち寄ったカフェで窓越しにふと見上げると、ハナミズキのつぼみがほころび始めていました。春の訪れが待ち遠しく感じます。
さて今回は前回に引き続き通訳学校での授業、そして突然訪れた通訳デビューについてお話ししたいと思います。

◆ひたすら単語、単語の毎日
クラスメートに恵まれて、「進級して上のクラスでもこのメンバーと一緒に勉強したい!」とのモチベーションは高まっていたのですが、家庭や仕事の事情で勉強を断念する人も出てきて進級するたびにクラスの顔ぶれも徐々に様変わりしていきました。一方で教材も、より実践的な内容になっていきました。当時と今とではもちろん教材にも違いはあると思いますが、「アルミニウム産業」、「鉄鋼業」、「ガラス産業」、「金型産業」、はては「漁業」など各産業がテーマとして取り上げられていました。この時期は、来る日も来る日もひたすら単語を暗記していたように記憶しています。I beam ( I形鋼)、wide-flange shape ( H 形鋼) など、「果たしてこの単語を使う日がくるのだろうか?」と大いに疑問を抱きつつも「いや、きっと役に立つはず!」と自分で自分に言い聞かせながら、ある時は移動の電車の中で、またある時は道を歩きながら、行き交う人に怪訝な顔をされながらもぶつぶつと一心不乱に単語を呟いていました

◆突然の通訳デビュー
その後もボランティア通訳の機会に恵まれて、懇親会での来賓のスピーチや大使館への表敬訪問を何度か経験してはいましたが、まだまだ仕事としての通訳デビューは先のことだなとのんびりと構えていました。そんなある日、すでにプロ通訳として活躍していたクラスメートから「商談会での通訳を一緒にやってみない?」との思いがけない誘いが。聞けばある新興国の出先機関から直接依頼を受け、他にも数人のクラスメートに声をかけたとのこと。有償での通訳にはまだ迷いはありましたが、良くも悪くも授業でのパフォーマンスをお互い知り尽くしている仲、思い切って引き受ける決心をしました。

◆事前準備に格闘
それからというもの、商談会に参加予定の企業情報、業界情報、特に専門用語について各自分担しながら事前準備に取り組みました。工業団地の誘致事業、貴金属、食品、家具、金融サービスなど分野は多岐にわたっていました。業種は20種類程あったかと思います。主催者の意向で事前に担当が決まっておらず、当日までの2週間は全ての業種の専門用語を必死に叩き込む毎日でした。授業との両立は大変でしたが、この通訳デビューは、その後の勉強を継続していく上での新たなモチベーションになったことは間違いありません。確かに単語を覚えるという作業は単純作業で、決して楽しいものとはいえないかもしれませんが、この時期「覚えなくてはならないもの」から「覚えるべきもの」と大きく意識が変わっていったように思います。
また通訳学校の授業では、先生から「勉強のための勉強はやめましょう」との指摘が度々ありました。この言葉の意味も当初は正直ピンとこなかったのですが、このお仕事を経験してはじめて、合点がいったような気がしました。

次回は、商談会での悲喜こもごもの通訳経験についてお話ししたいと思います。

お読みいただきありがとうございました。

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