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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第5回:実は大切なこと

ゴールデンウイーク、みなさまいかがお過ごしでしょうか? 景況感の回復もあって今年のゴールデンウイークは国内旅行者数が過去最高となる見通しとのこと。海外旅行も円安の影響はあるものの旅行消費は引き続き堅調のようです。新卒で入った旅行業界は当初大学の専攻とは畑違いの分野だと思っていました。しかし実際は旅行需要を左右する為替変動や国内景気は経済学に大いに通じるところがあり、また学問として学んだ知識は実社会での日々の経験を通じてはじめて身についていくものだと実感しました。

さて今回も前回に引き続き、悲喜こもごもの通訳デビューとなった商談通訳についてお話ししたいと思います。

◆2つ目の商談は…
1つ目の商談を無事に終えてほっとしたのも束の間、すぐさま要請が入り2つ目の商談の席につきました。今回の外国側は州政府で日本側は海外投資のコンサルタントのお客様。外資優遇政策や投資誘致政策について調べてはいたものの、どのような質問が出るのか全く予想がつきませんでした。日本側の参加企業のリストの入手は当日で、事前準備の段階では「州政府の訪問企業はおそらく製造業で、話題はせいぜい税制や労働力コストあるいは原材料の輸入制限あたりだろう」と楽観的に考えていたのです。

◆実は大切なこと
簡単な自己紹介を終えると、すぐさまModes of Foreign Investment(海外投資の様式)の話題に移り、licensing, joint venture, wholly owned subsidiary, alliance, management contractといった言葉が飛び交い、単語をとるだけで精いっぱいという状況に陥ってしまいました。それ以降もNPVやIRRといった投資評価技法について、debt finance, equity financeといった資金調達手段に話題は及び、一つ一つの用語を訳すことは何とかできたものの、話の流れに理解がついていかないまま、あっという間に予定の時間となってしまいました。外国側の英語に独特のアクセントがあったため、英語の聞き取りでコンサルタントのお客様のサポートができましたが、終盤の専門的な話では当事者同士が直接英語でやりとりする場面も出てきたりと終了時には敗北感に打ちのめされていました。

◆木を見て森を見ず
事前準備では専門用語中心に調べましたが、単語レベルで言葉を知っているだけでは全く太刀打ちできないということを痛感しました。ジョイント・ベンチャーか完全子会社かの選択であれば、移転価格の問題、現金配当の必要性、情報公開、またそもそも100%の外国所有が認められているのかといった話題が出る可能性がありますが、こういった展開は、当時は全く想像できませんでした。「木を見て森を見ず」とはよく言ったもので、まさに細部に気を取られて全体を見失っていたのです。

◆新たな課題に取り組む
このほろ苦い通訳デビューを経て、通訳学校での「勉強のための勉強はやめましょう!」との講師からの指摘がはじめて腑に落ちました。かつて学問として学んだ知識が、実社会での経験を通じてより深く身についていったように、ただただ机にかじりついて闇雲に勉強しているだけでは実践では役立たないことを思い知らされたからです。

それまでは通訳学校の授業前の勉強といえば復習中心でしたが、初見教材の背景情報を調べることにも以後力を入れるようになりました。また検索はしたものの今一つ内容が理解できない場合は、その業界で実際に働いている友人を探して解説をお願いすることもありました。資料が出ない仕事の場合は事前準備の段階でいかに短時間で効率よく必要な情報にたどり着けるかが勝負ですが、この時の授業の予習の経験が、その後の仕事に大いに役立ったことは間違いありません。

それではまた次回お会いしましょう!

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