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プロ通訳者・翻訳者コラム

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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第7回:クライアントからのフィードバック

フリーランスの通訳者にとって何よりもありがたいのは、クライアントからのフィードバックです。お褒めの言葉はもちろん励みになりますし、たとえ苦言であったとしても、今後の課題として発奮材料になります。あるいはちょっとした行き違いでクレームにつながった場合、誤解を解消するチャンスにもなります。

「声が大きすぎる」または「小さすぎる」といったことから、「やさしく語りかけるように」あるいは「聞き手にアピールするように力強く」、「早すぎて内容が伝わらない」「ゆっくり過ぎて眠くなる」など訳出への要望は様々です。クライアントAでは高く評価されたが、クライアントBでは全く逆の評価だったということも十分にあり得るかもしれません。

もちろんフィードバックが無い場合もあります。敢えて言うほどのことでもない、とコメントをしないケースの方が多いかもしれません。しかし顧客のコメントから、通訳者本人が気づかなかった改善点を発見できることもあるでしょう。これで良しとしてしまい、レベルアップの機会を得られずに、期待に応えられぬまま、仕事までをも失ってしまうケースもあるとしたらとても残念です。

しかし一方で常にあらゆるクライアントから繰り返し指名を受けている通訳者も存在しています。もちろん専門知識や高い通訳力が評価されての結果でしょうが、様々な要望がある中でクライアントが求める、ある共通した資質が存在するのも確かなようです。

通訳デビューから数年が経ったころ、知人を通じてある団体から通訳者兼コーディネーターをして欲しいとの依頼があり、何事も経験との思いから、引き受けることに決めました。資料の収集から始まり、担当割、休憩時間の調整、経験の浅い通訳者へのフォローなど、野球でいうplaying manager として目の回る忙しさでした。しかし同時にクライアントの要望を直に聞くことができる貴重な経験となりました。

初日の朝は悪天候の影響でほぼ全路線の遅延というアクシデントがありましたが、10人中6人の通訳者が時間前には会場に到着してくれました。前の晩には交通の混乱が予想されていたので、クライアントからは、私を含め近隣の通訳者2~3名が時間までに入れば、遠方の人達は1時間ほど遅れてもかまわないと連絡を受けていました。またそのことを全員に知らせていたのですが、家族に自家用車で送ってもらったり、前日に会場近くの親せき宅に泊まったり、2時間早めに家を出たりと遠方の通訳者のうち3人が早めに会場入りしてくれていたのです。

また、事前に送った資料にほとんど目を通していない人もいる一方で、役に立つ関連情報を率先して調べて、全員分をプリントアウトして当日持参してくれた人もいました。適切なタイミングで一人の通訳者が状況報告をしてくれたおかげで、私が目の届かないところで起こっていたかもしれないトラブルを、未然に防ぐこともできました。

最終日には担当者から通訳技術についてフィードバックがありましたが、上述のような気配りができていた通訳者ほど高い評価を得ていました。これは決して偶然ではないと思います。もちろん通訳力ありきですが、仕事を通して様々な経験をしながら成長し研鑽を積むことで人間的にも磨かれていくのが通訳者なのだなと実感できた経験でした。

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