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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第19回:通訳のノートテーキングのコツ その3

5月からスタートした「通訳のノートテーキングのコツ」3回シリーズも最終回となりました。
今回は英語(日本語)の表現力を向上させるための方法を、私自身の経験も織り交ぜながらお話ししたいと思います。

当コラムの読者の大半は日本語が母国語であると推察しますが、こんな経験はありませんか?「日本語の発言内容はすべて理解できた。メモを見れば内容も完璧に再現できる。あれっ?英語でどう表現すれば良いのだろう??どうしよう!言葉が出てこない!!」
そのうち記憶していたはずの内容もすべて飛んでしまう。まさに血の気が引く瞬間です。

ここで考えられる原因は
1. 個々の英単語は思いつくがセンテンスとして構成できない。
2. 日本語独特の表現や諺をどう英訳したら良いかわからない。
3. 数字を瞬時に英語に変換できない 等々。
実は私も上記のようなケース、通訳学校時代に経験しています。
1.については、耳や口だけでなく、まとまった量の英文を読む、あるいは書くといった目や手を使った学習方法で構文を組み立てる力が徐々についていきました。3.の数字の変換については、口に出して反復練習することで訳出がスピードアップしてきたように思います。
2.のについては、当初「英語ことわざ辞典」といった類のものを購入してみました。しかし1冊分の慣用表現を暗記したところで、世の中にある全てのことわざをカバーすることは不可能です。途中からは意味を正しく理解できていれば何とか訳出できるはず、と腹をくくりました。
例えば、「待てば海路の日和あり。」といった諺であれば、全体の意味さえ知っていればLet’s wait and see for good luck. など何かしらの表現が出てくるはずです。意味がわからなければ、一つ一つの単語に囚われてしまい「海路」「日和」の英語がとっさに思い浮かばず、パニックになってしまうかもしれません。
また日英の辞書を引いてはみるものの、なかなかしっくりくる英語が出てこないと常々思っていました。ある日自作の英語表現集を作成しようと思い立ち、気の利いた表現を耳にした際は書き留めるようにしました。中でも気に入っている言葉はWe can be at the table or on the table. (食うか食われるか。)です。辞書を引いても出てこない生の表現が増えていくにしたがって、次はどんな場面でこの英語を使おうかとワクワクしたものです。

また謙遜の意味で使う言葉は英語圏の文化には馴染まないこともあり、敢えて訳さない方が自然な英語になる場合もあります。しかし一方で、一語一句落とさずに訳してほしいという要望が出ることもあります。難しいのは、同じ言葉であっても状況によってニュアンスが微妙に違うことです。A ⇒ Bといった画一的な言葉の置き換えではなく、文脈に沿った適切な訳が出るように意識して表現を増やしていく必要があります。同時通訳付きの講演を聴講したり、通訳学校で講師やクラスメートの豊かな表現から学んだりと学習のチャンスはさまざまあります。
もちろん英日の場合も的確な日本語が瞬時に出るように、語彙、知識、表現力を磨く努力は欠かせません。日本語も英語も表現力が向上しアウトプットに自信がつけば、訳出に使うエネルギーも小さくなります。その分より多くのエネルギーを記憶保持に使うことができます。また一般常識や専門知識の蓄積によって、メモをとらずとも記憶できる分量も徐々に増えていきます。メモの量も減り、結果として最も重要な「聴いて内容を理解する。」作業にエネルギーを集中できます。

5月掲載の第1回冒頭の繰り返しになりますが、即効薬はありません。ノートテーキングを単独の技術としてとらえるのではなく、聴解力、理解力、記憶保持能力、表現力(アウトプット)これらすべての能力とセットであると考えるべきでしょう。他の能力が不十分なままノートテーキングの技術だけを上げようとすることがいかに無意味であるかをご理解いただけたなら今回のシリーズを書いた甲斐があります。

それではまた次回お会いしましょう!

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