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峰尾香里先生のコラム 『Winding roadの果てに - ある通訳者のひとりごと』 フリーランス会議通訳者。アイ・エス・エス・インスティテュート東京校英語通訳科講師。
University of Massachusetts Lowell MBA
旅行会社、厚労省の外郭団体での勤務を経て、英語通訳者として稼動開始。金融、IT、製薬の3分野で社内通翻訳者として勤務後、現在は経営戦略、国際会計基準、財務関連を中心に様々な分野で通訳者として活躍中。

第20回:「数式・記号に強い通訳者になろう!」

梅雨明けとともに猛暑突入。涼しい水辺に心惹かれます。最近はフィットネスやランニングに加えて、プールでの水泳(海水では使えないそうです。)にも対応可能な防水性能をもったイヤホン&ヘッドホンのデバイスが発売されたとのこと。音楽を聞きながら水泳ができるとは、技術の進化にはただただ驚くばかりです。「水泳を楽しみながら英語が聞けたら、エクササイズと勉強の一石二鳥じゃない!」と思ってしまうのは職業病でしょうか。

10年ほど前、あるボランティア通訳研修にパネリストとして参加する機会に恵まれました。参加者との意見交換で「プロプロではない通訳者はどんな点で違うのか?」との質問が出てきたとき、当時ふと浮かんだのが「記号と数式」でした。通訳学校の受講生時代に同時通訳付きの投資セミナーを聴講したのですが、猛スピードで語られる数式を資料なしで難なく訳している姿にプロの実力をみせつけられたからです。

例えば、次のような数式が読みあげられたとき、スムーズに英語に変換できるでしょうか?

1/2 {a〔b+(c-d)〕}

( ) はparentheses、〔 〕はbrackets、{ }はbracesですが、片側の時は単数のparenthesis open/initialまたはparenthesis close/final (open, initial, close, finalは省略可能。)となります。

ですから”one half times initial brace a bracket b plus parenthesis c minus d final parenthesis, bracket, brace“と訳さないと、括弧の中には何が入るのかどこで括弧が閉じるのか聴衆は混乱してしまうかもしれません。

目で確認できる資料やスクリーンがあればまだ余裕が持てるのですが、常に通訳環境が整っているとは限りません。聴衆は手元に資料があり、通訳者だけに届いていないということもあります。しかし一方でこういった環境であっても、正確に訳出できるかできないかで通訳者への信頼度やその日の全ての通訳の評価が大きく左右されてしまうこともあります。

その投資セミナーの日は「こんな神業は私には到底できるはずはない。」とうなだれて帰ってきました。しかしその後は通訳学校でマクロ・ミクロ経済学のテキストを使ってグラフや数式の訳出訓練をしたり、設計・建築工事の通訳を経験したりする中で徐々に数字や数式、記号の苦手意識が薄れてきました。またエネルギーや環境関連の仕事を通じて、元素記号や化学記号を覚える必要性も痛感しました。仕事の直前に一夜漬けで覚えるだけでは、やはり当日は心もとないものです。8月は夏季休暇やお盆で閑散期となります。話題のイヤホンを持参して、プールに泳ぎにいくのも良いかなと思っています。毎日少しずつ時間を見つけて、細く長く取り組んでいきたい課題です。

今月もお読みいただきありがとうございました。
それではまた次回9月にお会いしましょう!

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