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津村建一郎先生

津村建一郎先生のコラム 『Every cloud has a silver lining』 東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。

第14回:白髪は黒く戻せるか?

     

最近は白いものがめっきり増えてしまい、若かりし頃の黒髪が戻ってくれないか・・・と願う今日この頃です。

40代~50代の(若かりし?)ころは、「白髪はマネージャーのシンボル!」などとうそぶいていましたが、年齢と共に白髪になるのは仕方のないことと諦めていました。この様に、「加齢やストレスが原因で白髪になる」ことは知られていますが、白髪になる詳しいメカニズムはつい最近まで解明されていませんでした。特に、ストレスで何故白髪が増えるのか?については謎に包まれていました。

今回は、この白髪になるメカニズムと黒髪に戻せるのかどうかについて、調べてみました。

1.髪の毛の構造

白髪の話を進めるために、まずは髪の毛の構造についてお話ししましょう。

髪は、頭皮の中にある「毛球(hair bulb)」と言うところで作られています。さらに、毛球の下部に毛乳頭という凹みがあり、その凹みの周辺に髪を作り出している「毛母細胞(hair matrix cell)」と色素を作り出している「メラノサイト(melanocyte)」が層をなしています。(図1)
なお、毛乳頭の凹みの中には毛細血管(capillary vessel)が入り込んでいて、髪の生成や発育に必要な栄養やホルモンを届けています。

髪の色となっている色素は「メラニン色素(melanin pigment)」と呼ばれ、メラノサイトで作られます。メラノサイトは髪を作り出している毛母細胞に隣接していて、毛母細胞が細胞分裂して髪へと変態していく際にメラノサイトから分泌されたメラニン色素を取り込んで、地毛に色がつきます。(図2)

注:日焼けすると肌が黒くなりますが、その原因は肌組織の底にあるメラノサイトが作り出すメラニン色素にあります。紫外線等の刺激を受けると、メラノサイトが活発に活動し始めて、メラニン色素を沢山放出し、周囲の肌細胞がそれを取り込むことで、肌が黒く(茶色く)なります。この活動は、肌を紫外線から守る大事な反応です。

髪の基本構造
図1.髪の基本構造(出典:https://www.demi.nicca.co.jp/salonsupport/beauty1_detail_03.html)

毛球部で毛母細胞が髪に変態する際にメラニン色素を取り込む
図2.毛球部で毛母細胞が髪に変態する際にメラニン色素を取り込む(出典:https://www.kao.com/jp/haircare/hair/1-5/)

成長した髪は、主に3種類の組織から出来ています(図3)。髪の成分の殆どはシスチン(cystine)という蛋白質で、その他にMEA(18-メチルエイコサン酸)という脂質、そしてメラニン色素があります。

毛髪の構造
図3.毛髪の構造(出典:https://www.kao.com/jp/haircare/hair/1-3/)

・キューティクル(cuticle)
半透明のうろこ状の組織で、何層にも重なって髪の表面を覆っています。ここには色素は含まれていません。キューティクルとキューティクルの表面は脂質成分MEA(18-メチルエイコサン酸)で覆われています。MEAが減ってくるとキューティクルが剥がれ落ちやすくなります。

コルテックス(cortex)
髪の約90%を占めていて、繊維状の組織が絡み合った構造をしています。メラニン色素は主にこの部分に含まれています。コルテックスのタンパク質量や水分量が髪の太さや柔らかさを決めています。また、ここに含まれるメラニン色素の種類と量によって髪の色が決まってきます。

メデュラ(medulla)
髪の中心にあり、柔らかいタンパク質で出来た網目状の構造をしています。ここには色素は含まれていません。その働きはよく解っていませんが、髪に柔軟性を与えたり、保温や緩衝の役割を果たしているのではないかと言われています。

 

2.髪の色

メラニン色素には、黒色のユーメラニン(eumelanin)と黄色のフェオメラニン(pheomelanin)の2種類があり、この2種類のメラニンが混ざり合うことで、多種多様な色合いの髪になります。
ユーメラニンが多いと暗色~黒色の髪になり、フェオメラニンが多いと明色(赤毛~金髪)の髪になります。日本人を含むアジア人は人種的にユーメラニンが優勢ですので、殆どの人が黒髪です。

注:実は、肌の色(人種)もメラニン色素によって決まってきます。黒い肌が殆どの黒人ではユーメラニンが多く、白い肌の白人ではフェオメラニンが多い(ただし、白人ではメラニン色素の絶対量自体が少ない)ことが解っています。私たち日本人などの黄色人種はフェオメラニンとユウメラニンの混合型となります。

 

3.白髪の原因

出来たばかりの大元の髪は白色、つまり、メラニン色素を含んでいません。それが髪の毛へと成長していく間にメラニン色素が入り込んできて、色が付くのです。ですから、白髪というのは、混ざるはずのメラニン色素がない状態(あるいは、少ない状態)で成長した髪の毛・・・と言うことになります。

上述の様に、メラニン色素はメラノサイトという細胞で作られますが、このメラノサイトが何らかの理由で傷ついたり、必要なホルモンが作用しなくなったりすると、メラニン色素が分泌されなくなってしまいます。

白髪になる最も大きな原因は加齢と言われていますが、その他にもストレスや病気などが知られています。白髪の生え方には大きく3とおりがあると言われています。

・生え換わる際に白髪になる
髪の毛が生え換わる際には、古い髪が毛根ごと抜け落ちて、新たな毛根が活動を始めます。この新たな毛根中のメラノサイトが、加齢などの原因により消失してしまう場合。

注:よく、犯罪捜査などで、現場に落ちていた毛髪から犯人のDNAを検出して、逮捕に繋がった・・・などと報道されますが、毛髪内にはDNAはありません。DNAがあるのは毛根部分の毛母細胞やメラノサイトなどの細胞です。つまり、毛根の付いていない毛髪(抜け落ちたのではない毛髪)からDNAを検出することは出来ないのです。

・成長の段階で徐々に白くなる
髪が成長している段階で、徐々にメラノサイトの活動が弱まっていくために起こる現象です。健康な状態ではあまり見られませんが、時として、先端は黒いのに根元が白い髪の毛が生えていることがあります。

・突然白髪になる
病気などで、毛髪が抜け落ち、代わりに生えてきた髪の毛でメラノサイトが消失していたり、活動に必要なホルモンが減少したりすることで起こります。この場合は、加齢等による白髪とは違って、頭の毛全体が一気に白くなりますので、いわゆる病的な状態を呈します。

ここからが、いよいよ今回のメイントピックスです!

 

4.白髪になるメカニズム

そもそも不思議なのは、白髪の周辺に依然として真っ黒の髪の毛があることです。加齢やストレスによってメラノサイトが働かなくなるのであれば、頭の毛全体が白髪になっていってもおかしくありません。何故、ある毛根では色素が出来ず、そのとなりの髪の毛では色素が出来ているのでしょうか?

驚くことに、メラノサイトはアメーバーの様に身体の中を動き回れるのです。メラノサイトは動き回って、自分が活動できる最適な場所をみつけ、そこで、色素を産生するようになります。逆に言いますと、活動していた場所の居心地が悪くなると、トットと逃げ出してしまう・・・と考えられています。

さらに、毛母細胞やメラノサイトにもその元となる幹細胞(stem cell)がありますが、幹細胞周辺の環境(これを微小環境[microenvironment]とかニッチ[niche]と言います)が整わないと、毛母細胞やメラノサイトに分化しません。

興味深い報告があります。岐阜大学の青木仁美講師(再生医科学)の研究によりますと、白髪が発生する仕組みを研究するために、放射線を毛根に照射して幹細胞にダメージを与えることで、白色ではないマウスに白髪を発生させる実験を行いました[https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/31_aoki.html]

それまでの学説では、放射線に当たることで色素細胞を生み出す幹細胞自体が機能を失って、メラノサイトが出来なくなり、白髪になると考えられていました。ところが、実験の結果では、幹細胞が機能を失う前に、幹細胞を取り巻くニッチ(微小環境)がダメージを受け、幹細胞がメラノサイトに分化出来ないことが解ったのです。(図4)

青木講師が解明した白髪になる仕組み
図4.青木講師が解明した白髪になる仕組み(出典:https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/g_lec/special/31_aoki.html)

つまり、色素細胞を生み出す幹細胞の回りのニッチを回復させたり維持させることで、メラノサイトが再稼働を始め、白髪を再び黒髪に戻すことが出来る様になるのでは・・・ということです。青木先生の研究では、すでに動物実験のレベルで白髪の発生をある程度防げるものができつつあるとのことです。

 

5.ストレスが白髪を生み出すメカニズム

上述の青木先生の研究は白髪が発生する基本的なメカニズムについてでしたが、もうひとつ興味深い研究結果が2020年の1月のNATUREに掲載されました。タイトルはHow the stress of fight or flight turns hair white(闘争や逃走のストレスがどの様に髪を白く変えるか:https://www.nature.com/articles/d41586-019-03949-8)というもので、ストレスによって白髪が発生するメカニズムを明らかにしました。

アメリカのハーバード大学とブラジルのサンパウロ大学の合同研究チームは、マウスにストレスを与えて、体毛がどの様に変化するかを観察しました。
マウスに3種類の苦痛(①薬物で痛覚を人工的に長時間発生させる、②ケージを傾けたり光を長時間点滅させたり、寝床を濡らして熟睡させない、③1日4時間、体を固定して拘束する)を与えたところ、図5の下のように、体毛が白くなってしまいました(図5の上はストレスを与えていないマウス)。

ストレスによる体毛の白髪化
図5.ストレスによる体毛の白髪化。上:ストレスを与えていない対照マウス、下:ストレスを与えた実験マウス。実験マウスでは体毛に白毛が混じっている。

紆余曲折の末、研究チームがたどり着いた結論は、「ストレスを受けると交感神経系がノルアドレナリンを放出するが、それがメラニン細胞に影響を与えている」というものでした。

 

体毛を作り出す毛根の中には、上述の要に毛母細胞やメラノサイトなどの細胞を生み出す幹細胞が存在しています。ところが、ストレスによりノルアドレナリンが毛根に流れ込むと膨大な数の幹細胞が一気にメラニン細胞に変換され、大量の色素が産生・放出されます。しかし、ホメオスターシスが働いて、余剰の色素は分解されてしまいます。その一方で、メラノサイトになるべき幹細胞は激減し(幹細胞はその性質上、簡単には補充されません)、メラノサイトが枯渇してしまい、次に生えてくる体毛は色素のない白毛になる・・・というメカニズムだそうです。
マウスと人間のメラニン細胞の生成反応や交感神経系は似通っていることから、人間においてもストレスと白髪はノルアドレナリンで関連付けられていると、この研究チームは主張しています。

バージニア大学でストレスと体毛変色の関係を研究しているクリストファー・デップマン氏は、「体毛が白変した個体は、その群において通常よりも高い社会的地位を与えられています」と指摘し、「白髪は多くの場合年齢に関連しているため、白髪ならば経験が多く、リーダーシップを持ち、信頼できると思われる傾向があります。今回の研究は、白髪の動物が他の個体よりも『より大きいストレスを経験した』ということを意味するもので、その様なシンボルである白毛があることで、社会的地位が高まった可能性がある」とコメントしています。

以上の様に、白髪になるメカニズムがかなり解明されてきました。しかし、まだ元の黒髪に戻すところまでは行っていない様です。

しかし、白髪はある意味で、経験が多く、リーダーシップを持ち、信頼できる人物であることの象徴とも認識されていることから、当面はキレイに手入れされた白髪を目指すことに専念したいと思います。

 

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