ホーム  >  Tips/コラム:プロ通訳者・翻訳者コラム  >  津村建一郎先生のコラム 第19回:名詞構文

Tips/コラム

Tips/コラム

USEFUL INFO

プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

津村建一郎先生

津村建一郎先生のコラム 『Every cloud has a silver lining』 東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。

第19回:名詞構文

今回は「名詞構文」について考えてみたいと思います。

「名詞構文」って何だぁ? とあまり聞き覚えのない方もおいでかと思いますが、英語という言語は基本的に名詞を中心にした言語です。一方、我々の日本語は動作を中心にした言語になります。

つまり、英語と日本語は極めて相性の悪い組合わせなので、英語⇔日本語の翻訳の際には「ひと工夫」が必要となってきます。

**********************************

練習問題:いきなりですが、次の英文を和訳して下さい。

英文:Cancer is the uncontrolled growth of abnormal cells anywhere in a body.

ヒント:uncontrolled=無秩序な、 growth=増殖、 abnormal cells=異常(な)細胞。

**********************************

出来ましたか?   では、和訳文の例を以下に示しましょう。

例1:がんとは、身体の至るところでの異常な細胞の無秩序な増殖である。

 

1.名詞構文とは

英語文では必ず、[命令文の様に主語が省略される場合も特例としてありますが・・・]主語(S)と動詞(V)が存在していて、基本的に主語=名詞について「何処で、何を、どの様に、どうした」という記述を動詞(V)がくっつけている形になっています。そして、この「何処で、何を、どの様に、どうした」と言うことも基本的には名詞で表現されます。
例えば、次の英文を見てみましょう。

I hope for your quick recovery.

意味は「(あなたが)早く治ると良いですね。」ですが、この英文でhope forという動詞句以外は、Iもyour quick recovery(名詞句)も名詞です。つまり、I(主語)とyour quick recovery(目的語)という名詞をhope forという動詞句で結び付けている・・・と言う構造になっています。

ちなみに、私たちの使っている日本語は動作を中心にした言語です。例えば、次の和文を見てみましょう。

入り口の自転車が邪魔で入れない。

別段、異常な日本文ではなく、我々日本人には理解できる文です。
この文で最も言いたいことは「入れない」という動作です。そしてこの動作(=入れない)が発生している状況(場、環境)が「入り口の自転車が邪魔で」として説明されています。つまり、日本語では「動作」と「状況」の説明があれば十分で、英文では必須の

●入れないのは誰?・・・主語
●自転車は誰の?・・・所有(冠詞)
●自転車が何台?・・・単数・複数

などの情報は、あっても無くてもかまわないのです(むしろ、無いことの方が多い)。

話を元に戻しまして、この名詞を中心に構成される英語の構造の代表格が・・・

名詞 of 名詞

という表現です。「A of B」の形は通常、「BのA(時としてAのB)」と訳されます。
練習問題1の文で言えば

uncontrolled growth of abnormal cells

の語句がこれに相当し、セオリーどおりに訳すと「異常(な)細胞の無秩序な増殖」となります。
この様に英語は名詞の羅列を基本構造としていますので、それを日本語に逐次翻訳(直訳)してしまうと・・・

身体至るところで異常な細胞無秩序な増殖

という「の」だらけになってしまい、いわゆる「翻訳日本文」になります。これでは自然な表現の日本文とは言いがたいものになります。

 

2.名詞構文(主語)の訳し方

「A of B」の形でAとBが純粋な名詞、即ち、動詞化出来ない名詞の場合はセオリーどおり「BのA(時としてAのB)」と訳しますが、AかBが動詞化出来る=動作の名詞の場合は、動作を主体とする日本文にするためにひと工夫が必要となります。

●手順1.動詞化出来そうな語句をみつける
練習問題1の文で言えば

uncontrolled growth of abnormal cells

abnormalやcellには対応する動詞がありませんので、動詞化は出来そうにありません。
一方、uncontrolledにはcontrolという動詞があり、また、growthにはgrowという動詞がありますので、これらの単語は動詞化出来そうです。

しかし、ここで注意が必要です。growthは「成長、発展、増殖・・・」という意味の名詞ですが、uncontrolledは「制御されない、非管理下の、無秩序な・・・」という意味の形容詞です。
名詞構文はあくまで名詞が主体ですから、ここではgrowth(=grow)の方を選びます。

●手順2.もう一方の動詞化出来ない語句を主語にした文(S+V)を作る
動詞化出来る名詞を動詞とし、もう一方の動詞化出来ない名詞を主語として文(S+Vの形)を作ります。

Abnormal cells grow uncontrollably.

growthの時は名詞ですからそれを修飾するuncontrolledは形容詞で良かったのですが、growthをgrowという動詞にしましたので、uncontrolled(形容詞)ではなく、動詞を修飾できる副詞=uncontrollablyに変換しましょう。

●手順3.作成した英文(S+V)を和訳する
と言うことで、手順2で作成した英文(S+Vの形)を和訳すると・・・

異常(な)細胞が無秩序に増殖する

となります。

この様に、名詞構文の代表形である「A of B」で、AかBが動詞化出来る語句である場合は、動作の語句として和訳して・・・

名詞構文:uncontrolled growth of abnormal cells

動作和文:異常(な)細胞が無秩序に増殖する[こと]

としますと、自然な日本語表現になります。

「A of B」が主語である場合は、この手順3の和訳文をそのまま主語として使用出来ますが、「A of B」が目的格である場合は、さらにもうひと工夫が必要となります。

 

3.名詞構文(目的格)の訳し方

練習問題1の文では「A of B」が目的格、即ち、別に主語(名詞)がある形です。この様な場合は手順2の文で動詞(=grow)を分詞化(-ingあるいは-edの形)して目的格とします。

手順2:Abnormal cells grow uncontrollably.

分詞化(目的格):uncontrollably growing abnormal cells.

和訳文(目的格):無秩序に増殖する異常(な)細胞

以上の事から、練習問題1の標準和訳は次の様になります。

**********************************

練習問題1:次の英文を和訳して下さい。

英文: Cancer is the uncontrolled growth of abnormal cells anywhere in a body.

標準和訳:がんは、身体の至るところで無秩序に増殖する異常な細胞(群)である。
⇒「の」重なりが気になる時は、この様に「動作」の文に書き換えましょう!

**********************************

 

4.名詞構文の訳し方-応用編

以上のことを踏まえて、次の英文(名詞構文)を和訳して下さい。

**********************************

練習問題2:次の英文を和訳して下さい。

英文: Do you know the reason of his resignation?

ヒント:resignation=[仕事の]退職

**********************************

もう一度手順を追って翻訳してみましょう。

●手順1.動詞化出来そうな語句をみつける
練習問題2の文で言えば

the reason of his resignation

reasonにはそれ自体で「判断する、論じる」という動詞の意味があり、また、resignationにはresign(辞職する)という動詞がありますので、これらの単語は動詞化出来そうです。

●手順2.もう一方の動詞化出来ない語句を主語にした文(S+V)を作る
ここではA(reason)、B(resignation)の両方とも動詞化出来る名詞ですので、それぞれを動詞とし、もう一方の名詞を使った文(S+Vの形)を作ってみましょう。

文1:He reasoned the resignation. ⇒ 彼は退職を論じた。

文2:He resigned for the reason. ⇒ 彼はその理由で退職した。

文法的にはどちらの文もなり立ちますが、練習問題2の文意からは文2の方が妥当そうです。つまり、resignationを「退職する(した)」と動詞化したことになります。

●手順3.作成した英文(S+V)を和訳(目的格)する
と言うことで、手順2で作成した英文(S+Vの形)を和訳すると・・・

手順2:He resigned for the reason.

分詞化(目的格):resigning for his reason.

和訳文(目的格):彼の理由で退職する ⇒ 彼の(が)退職する理由

となります。

以上の事から、練習問題1の標準和訳は次の様になります。

**********************************

練習問題2:次の英文を和訳して下さい。

英文: Do you know the reason of his resignation?

標準和訳:彼の退職する理由を知っていますか。
⇒ 自然な日本語表現にするには、この様に名詞を「動作」に書き換えましょう!

**********************************

お解りいただけましたでしょうか。
色々と試して、コツを習得して下さい。

Copyright(C) ISS, INC. All Rights Reserved.