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津村建一郎先生

津村建一郎先生のコラム 『Every cloud has a silver lining』 東京理科大学工学部修士課程修了(経営工学修士)後、およそ30年にわたり外資系製薬メーカーにて新薬の臨床開発業務(統計解析を含む)に携わる。2009年にフリーランスとして独立し、医薬翻訳業務や、Medical writing(治験関連、承認申請関連、医学論文、WEB記事等)、翻訳スクール講師、医薬品開発に関するコンサルタント等の実務経験を多数有する。

第24回:新型コロナ感染に対するワクチン【NEW】

- その有効性と問題点 -

この「翻訳者コラム」は2020年末をもって終了となるのだそうで、今回が私としても最後のコラムになります。長期のご愛読、有り難うございました。

そこで今回は、最新の医学トピックスとして新型コロナ感染に対する「ワクチン」の有効性と問題点について考えてみたいと思います。

1.プロトコール(試験実施計画書)の比較

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの開発は日本国内でも行われていますが、海外が先行しており主に外資系4社の製薬会社が臨床試験の最終段階である第3相(Phase III)の試験を実施中もしくは試験を終了して承認申請の準備段階にあります。
2020年10月に、医学雑誌BMJ(British Medical Journal)の共同編集者であるPeter Doshi氏※1がこの4社が実施している第3相臨床試験のプロトコール(試験実施計画書)を比較検討して報告しています(表1)。

表1.covid-19ワクチンの公表された第3相臨床試験プロトコールの比較※2

メーカ名 モデルナ ファイザー アストラゼネカ ヤンセン
試験登録ID NCT04470427 NCT04368728 NCT04516746 NCT04516746
主要な評価症状
+PCR陽性
咽喉炎
+PCR陽性
咳、発熱
+PCR陽性
咳、頭痛
+PCR陽性
対照薬 プラセボ プラセボ プラセボ プラセボ
必要症例数を計算する際に想定したプラセボ群での発症率 6ヶ月間で0.75% 年間1.3% 約0.8% 10月~11月(2019年)の期間における1.4%
主要解析の対象集団 ベースライン時(試験開始時)での血清反応陽性者*を除く対象被験者 ベースライン時(試験開始時)での血清反応陽性者*を除く対象被験者 ベースライン時(試験開始時)での血清反応陽性者*を除く対象被験者 ベースライン時(試験開始時)での血清反応陽性者*を除く対象被験者
ベースライン時での血清反応陽性者の推定割合 15% 20% 不明 10%
目標登録症例数 約3万人 約4.4万人 約3万人 約6万人
中間報告及び最終報告の時期(発症例数) 中間:53例、106例
最終:151例
中間:32例、62例、92例、120例
最終:164例
中間:75例
最終:150例
中間:20例
最終:登録症例数が目標に達した時点

以上の様に、各社の試験計画はだいたい似通っていますが、ベースとなる無接種*(プラセボ群)での発症率の推定値が0.75%~1.4%とほぼ2倍違っています。また、試験開始時のベースラインでの血清反応陽性者(血清検査で新型コロナウイルスの存在が陽性)の割合の推定値も10%~20%とほぼ2倍違っています。このあたりの違いが結果にどの様に影響しているのかも注意しなければなりません。*:ワクチンの場合、製剤を投与することを「接種(inoculation)」と言います。

2.ワクチン開発の試験方法

ワクチンは、ある病原体(ここでは新型コロナウイルス)への感染を防ぐ予防薬ですので、治療薬とは違って、試験の対象は過去に感染したことがなく、現在発病していない人になります。
そして、ワクチンの効果は、ワクチンを接種した後の観察期間中に発症した人数を、同じ期間だけ観察した無投与(プラセボ接種)群で発症した人数と比較して評価します(図1)。

ワクチン開発の試験方法
図1.グレー:新型コロナウイルスに感染していない被験者。 黒:試験薬(ワクチンまたはプラセボ)接種後に新型コロナウイルスに感染した被験者

一般に、ワクチンの効果(有効率)は次の式で計算します。

ワクチンの効果(有効率)

ワクチンに効果がなければ、右側の分数の分母と分子が同じ値になりますので、この式は1-1となって、ワクチンの有効率は0%(効果なし)となります。

図1で言いますと、例えば、各群1万人の新型コロナウイルスに感染していない被験者に、ワクチンまたはプラセボを接種して、一定の観察期間中にプラセボ群で発症した人が100人、ワクチン群で発症した人が10人だったとします。つまり、合計で110人の発症者がいたことになります。
この場合、全体の発症者に占めるプラセボ群の割合は・・・100/110となり、ワクチン群の割合は・・・10/110ですので、上の式で計算しますと、ワクチンの効果は1-0.1=0.9となり、有効率に換算すると90%になります。

ちなみに、2020年4月にWHO(世界保健機関)は新型コロナワクチンに期待する有効率として、「70%以上」が好ましく、少なくとも「50%」は確保したいと発表しました。同様に米国FDAも、新型コロナワクチンの製造指針で、50%以上の有効率を求めています。

仮に、プラセボ群(未接種)の発症率を1%(100人につき1人)と想定しますと、プラセボ群での発症者を100人にするためには、健康者(非感染者)を1万人以上集める必要があります。ワクチン群でも同数の健康者が必要ですので、試験全体では2万人以上の健康者を集めることになります。

3.各社のワクチンの効果(中間解析結果)

各社の第3相試験の中間報告が公表されています。その要旨を以下に示します。

● モデルナ社(NCT04470427)1回目の中間解析:2回目のワクチン接種から二週間以内に発症した人数は、プラセボ群で90例、ワクチン(mRNA-1273)群で5例であり、有効率は94.5%でした。(2020年11月26日、プレスリリースより)
本試験は、米国で実施され、18歳以上の健康者3万人が登録されました。この中には高齢者(65歳以上)が7000人以上、慢性疾患(糖尿病、重度の肥満、⼼臓病など)を有する患者が5000人以上含まれています。また、モデルナ社のワクチン(mRNA-1273)は2℃~8℃で30日間保存可能とのこと。

● ファイザー社(NCT04368728)1回目の中間解析:2回目のワクチン接種から7日間以内に発症した人数は、全体で94例、ワクチン(BNT162b2)群で8例(?)であり、プラセボ群で86例(?)、有効率は90%以上でした。(2020年11月9日、プレスリリースより) ← プレスリリースには総発症例数(94例)と有効率90%以上(一説では95%)としか報告されていませんでした。
また、ファイザー社のワクチン(BNT162b2)は超低温での管理が必要となり、−60℃~−80℃の条件で輸送したり、保存したりすることが必要になるとのことです。(通常の冷凍保存の医薬品は−20℃程度で管理します。)

● アストラゼネカ社(NCT04516746)1回目の中間解析:2種類の摂取量が検討され、1回目が計画の半量、2回目が計画量を接種した2741例での有効率は90%、一方、2回とも計画量を接種した8895例では62%であり、合計した有効率は70%とのことでした。(2020年11月3日、プレスリリースより) ← プレスリリースには有効率しか報告されておらず、各群の具体的な発症例数は不明です。
本試験は多国籍で実施されましたが、英国で実施した症例の中に間違って1回目を計画の半量しか接種しなかった症例が混ざっていました。偶然の産物ですが、アストラゼネカ社はそのまま試験を継続しているそうです。どうも、1回目を半量にした方が効果が良さそうですね。また、アストラゼネカ社のワクチン(AZD1222)は2℃~8℃で保管管理が可能だそうです。

● ヤンセン社(NCT04505722)まだ中間解析なし:3大陸で最大6万人のボランティアを登録し、コロナワクチンとプラセボの比較で有効性を検証する第3相試験(ENSEMBLE試験)を2020年9月に開始したばかりで、まだ第1回目の中間解析には至っていません。(2020年10月14日、プレスリリースより)
ヤンセン社のワクチン(Ad26 COV2.S)は、他社のワクチンが2回接種(1ヶ月間隔で2回)であるのに対して、1回接種での有効性を検討しているとのことです。また、2℃~8℃で保管管理が可能だそうです。

これらの中間報告を見ますと、どれも期待が持てそうですが、検討しなければならないいくつかの問題点が残っています。

4.問題点1:ワクチンの効果は何時まで続くのか?

ご存じの様に、インフルエンザのワクチンは年1回のペースで接種されます。これは、ワクチンによって活性化した免疫(抗体を含む)の効力が1年ほどしか持たないことを意味しています。一方で、ポリオやおたふく風邪のワクチンは小児期に1回接種するだけで(実際は就学前の2回目接種が推奨されていますが)、免疫の効力が一生涯持続するということです。
では、新型コロナのワクチンで惹起された免疫はどれほどの期間効力があるのでしょうか?この疑問に答えるためには、上記の4種類のワクチンを接種した後、少なくとも3年程度は追跡調査を続ける必要があります。

免疫の常識としては、ある病気に一度罹れば、体内に免疫が出来て二度とはその病気に罹らないか、罹ってもごく軽症で済む・・・と言うことになっています。中世に欧州を中心にパンデミックを起こしたペスト(黒死病とも言われます)では、ペスト患者の介護者としてペストに罹って回復した人を当てたと言われています。これも、ペストに一度罹って回復した人では体内にペストに対する免疫が出来ており、二度とは感染しない・・・と言うことが知られていたからです。
しかし一方で、皆さんも経験があるでしょうが、風邪には日常的に何度も罹ってしまいます。これは、風邪ウイルスに対する免疫が完全には出来ていないことを意味しています。インフルエンザや新型コロナのウイルスは、いわゆる「風邪ウイルス」の仲間です。
最近、新型コロナウイルスへの「再感染」の報告が世界中から上がっています。最初の報告は香港大学の研究チームが8月に公表しました。

● 33歳の男性は、2020年3月に新型コロナウイルスに感染し、一度は回復しましたが4ヶ月後に再び検査で陽性となり症状も再発しました。一度目と二度目のコロナウイルスはウイルス遺伝子の一部が異なっていたことから、1度目のウイルスが体内に残存していた訳ではないことが判明し、再感染が確認されました。

オランダの通信社は世界中の再感染情報を調べ、9月末までに再感染が22例確認されたとしています。さらに、世界的な科学雑誌である「Nature」にも度々再感染の報告が掲載されています。

果たして、新型コロナのワクチンの効力は何時まで続くのでしょうか?再発は防げるのでしょうか・・・?

5.問題点2:発症後の重症化や死亡も防げるのか?

通常、ワクチン接種後の感染では「症状が軽症で済み、罹病期間も短くなる」と言われています。今回の新型コロナウイルス感染では、高齢者ほど重症化(要入院)リスクが高くなり、また、死亡リスクも増えると言われています。

米国のCDC(疾病対策センター:Centers for Disease Control and Prevention)は、18~29歳(若年層)での入院と死亡のリスクを1(基準)としたときの各年齢層の相対リスクをまとめています(図2)。

各年齢層の相対リスク
図2.CDC:Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)より、米国内の新型コロナウイルス感染による入院・死亡例データに基づく

この様に、18~29歳のリスクを1とするとき、65歳以上(高齢者)では入院(重症化)リスクが5倍~13倍に増加し、死亡リスクに至っては90倍~630倍に急増しています。一方、青少年層では入院リスクが1/4~1/9に低下し、死亡リスクも1/9~1/16に激減しています。

果たして、新型コロナのワクチンは特に高齢者での入院・死亡リスクも軽減できるのでしょうか・・・?

米国FDAや日本の厚労省は、これらの新型コロナワクチンを緊急特例承認する方向で動いていますが、各社から提出された臨床データの精査と、使用開始後の継続調査の実施を切に願うところであります。

References:
※1 Doshi, Peter, Covid-19 vaccine trial protocols released, BMJ 2020; 371 (Published 21 October 2020) ※2 Doshi, Peter, Covid-19 vaccine trial protocols released, BMJ 2020; 371 (Published 21 October 2020)

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