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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

西山耕司先生のコラム 『なるようになる!』 日本大学文理学部社会学科卒、メーカーでの営業職を経て、現在は社内翻訳・通訳者として外資系企業に勤務。2009年からは、フリーランスとしても稼働開始。翻訳・通訳者として豊富なキャリアを持つ。ISSインスティテュートのレギュラーコースでは「総合翻訳・本科」「ビジネス英訳・本科」など、上級レベルのクラスを担当し、プロ翻訳者の育成に力を注いでいる。

第2回:まあ待て。書かせりゃわかる。(問答無用?)

もう6年程前のことです。当時の派遣先では通訳の機会が連日ありました。同じく通翻訳スタッフであったSさんと組んで大事な電話会議に出席した時のことです。相手側(US)は南部なまりでとても早口です。広すぎて音があちこち反響する部屋で国際弁護士同席の下(逐次ですので全員に聞こえるよう)大きな声でやってくれとのこと。私の通訳は頼りないものでしたが、Sさんのパートでは、隣で聞いている私が取れなかった英語の情報も漏れることなく正確に訳出に反映されていることが参加者の反応からも明らかでした。自分の英語ヒアリング能力の限界をあらためて思い知らされた瞬間でした。

このままではまずい、と以前にも増して英語脳と耳を鍛えるため様々な努力を始めました。AFNで午前4時から6時まで放送している米国ナショナルパブリックラジオ(NPR)制作の時事や科学を掘り下げるプログラムを毎日自動録音し朝晩の通勤時に小さな声でシャドーイング、新聞コラムをサイト・トランスレーション(日英)し、英字新聞の経済面と国際時事面を音読しました。ドラマ「フレンズ」とそのスピンオフ「ジョーイ」は1日1話(正味20分)を3回ずつ(字幕なし→英字幕有り→字幕なし)見て全シーズン制覇(レンタル)です。日英に限っては通訳パフォーマンスもかなり改善され、翻訳(双方向)の精度とスピードも上がりました。

ただ、そこまでやってもどうしても生の英語が、極端に言うと、「雑音にしか聞こえない」瞬間がいまだにあるのです。会議中なら特定の話者によってトピックからはずれた議論が繰り広げられた時にそうしたことは起こります。学校で教えられたとおり、異なる分野の基礎知識に浅くてもなるべく広く触れるようにしていますが、例えば映画の中の子供同士の会話や電車の中で盛り上がる観光客の話でさえリプロダクションできない不明瞭な音の連続のように聞こえることがあるのです。

藁をも掴む思いで、英語音声特有の周波数に耳を慣れさせるという触れ込みの通販教材も購入しました。これは自分には合っていなかった(効果には個人差があるとのこと)ようですが、こうしておよそ考えられる対策を全てやりきることで、落ち着いて自分のスキルセットを把握できました。申告したスキルセット仕分け結果を基に依頼される目の前の仕事に(たまに「今回はお前でいいよ」という感じでお願いされる通訳も含めて)全力で取り組めばよいのです。

申請したスペックを超えたスキルが必要な案件のオファーはフリーランスなら辞退するのが筋でしょうが、派遣先企業との契約範囲でどうしてもやれと言われれば断れません。結果、満足の行くパフォーマンスが出来なかったとしても自分を必要以上に責めないようにしています。派遣スタッフへの契約更新オファーは必要とされていることの証明です。相手の真意を疑ったり、評判を気にしすぎたりする必要もないでしょう。今では先方も小生の得意分野(翻訳全般)をよく分かってくれていますし、そこでの貢献で総合的な期待に十分応えていると自負しています。

ところで、SさんはISSI東京校で通訳コースに通う傍ら同校の講師でもあり、小生もその縁で翻訳コースを担当させていただくことになりました。「彼のような耳があればなあ」といまでもたまに思いますが、ないものねだりをしていても前進はできません。得意分野のさらなる強化のほうがより大事です。どこそこの部署の気難しいエクスパットが私の英訳した書類のクオリティーを褒めていたと人づてに聞いたりするととてもうれしいものです。「書かせりゃその人の力が判る」とはSさんの口癖です。口は立つけど書かせたら「あれ?」というのでは困ります。良いものを書く為には良いものをたくさん読む。これに限ります。ある英字新聞社の新人記者はまず一年で本を床から平積みにして自分の身長に届くまでの量の英文を読むよう諭されるそうです。

私の場合はメーカー営業時代にTime誌を1年間購読してfine print(当然毎号同じ)と広告も含めて隅から隅まで読みました。大好きなシドニー・シェルダンの全ての小説と自伝はそれより少し前に2年ほどかけて読破しています。表現のクセや展開のパターンに一度慣れると同じ作家の本はどれもとても読みやすく感じます。挿絵や写真のないペーパーバックの英語活字だけを追って様々なシーンを思い浮かべては興奮し、笑い、時には感動の涙を流しました。書く方では「こいつは出来るな」と思った英国の仕事相手がファックスやEメールで実際に用いる表現を徹底的に模倣して使いまくりました。「全ての創造は模倣から始まる」のだから許されてもいいでしょう。

最後にもう少しだけ。
「俺の耳でも楽に聞き取れる外国語はないか?」そう考えてある国の言葉を勉強し始めて4年半になります。話者の数は日本の人口の半分程度で通訳・翻訳のニーズもそう多くありませんが、勉強はとても楽しいです。まず聞き取りがとても楽なのです(意味がわからなくても音声として鸚鵡返しできます)。その一方で動詞の活用等は複雑で、「英語は簡単でいいな」とも思わせてくれます。レッスンがドタキャンされることも多いのですが・・・慣れればそれもご愛嬌です(言い訳がまたおもしろい)。 この話は長くなるので、またいつか別の機会にでも・・・
Ciao!

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