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西山耕司先生のコラム 『なるようになる!』 日本大学文理学部社会学科卒、メーカーでの営業職を経て、現在は社内翻訳・通訳者として外資系企業に勤務。2009年からは、フリーランスとしても稼働開始。翻訳・通訳者として豊富なキャリアを持つ。ISSインスティテュートのレギュラーコースでは「総合翻訳・本科」「ビジネス英訳・本科」など、上級レベルのクラスを担当し、プロ翻訳者の育成に力を注いでいる。

第4回:語彙はあせらず!

初めて英検1級を受けた時、ある程度手ごたえを感じていたのですが、筆記試験の結果は不合格。パートごとに見ると、語彙力のみが基準点に達していないようでした。当然そこを強化すべきでしたが、ひねくれものの私は「あんな誰も一生使わないような難解な単語や成句ばかり覚えてどうする?そんな時間があったら俺は既に持っている実用的な語彙の運用力を強化して自然な英語を話せるようになる。そうして合格するのが本物だ」と息巻いて、その結果、2回目、3回目の受験も同じような成績で不合格とあいなりました。そこでやっと重い腰を上げて語彙力強化に乗り出すと、次の筆記試験にはあっさりと合格(2次の面接を通過して完全合格したのはさらにもう少し後のことですが)できました。Time誌の定期購読を申し込んだのは丁度そのころです。「誰も一生使わない」はずの単語や成句がそこかしこにごく普通に使われていました。

今月は語彙力強化の方法について話してみたいと思います。まずは学習中に出会う未知の単語や成句とその意味を調べて単語帳に書き込んで地道に覚えるというのがやはり基本だと思います。その後、ある程度素地が出来上がってきたら、自分の実力にあった市販の単語・成句集(英検やトーイック対策のもので十分)を活用するのがよいでしょう。その際に、大切なのはその本一冊を一つの固まりとして捉えて取り組むことです。ページごと、あるいは章ごとに完璧に覚えるまで先へ進まない、といったやり方は薦めません。私は単語・成句集といった「覚えてなんぼ」の類のものはまず全体を6つのパートに分けて月曜から土曜日まで1パートずつ毎日順番に取り組むようにしています。英単語・成句を一つずつ見て、その意味が判らなかったものにして、解説や例文を見てなんとか記憶に留めようと心がけますが、それ以上はなにもしません。翌週の同じ曜日にまた同じパートをやって、前週と同じ単語が判らなければをもう1つ加えて「」となります。前週は意味が判ったのに、その週に何故か思い出せなかったものはそこで初めてがつきます。このローテーションを5週ほど繰り返したら、がたくさんついたものを抜き出してオリジナルの単語帳を作ります。この単語帳は自分にとって最も手ごわい単語・成句のみがリストアップされていますので、日曜日用のパートとして使用するほか、常に持ち歩いて暇さえあればチェックします。どうしても覚えられないものも簡単にあきらめずに、即興で例文を考えたり、語呂合わせを試したり、中学生の頃のように何度も書き取ったりしてなんとか覚えるように努力します。が書ききれないくらい多くなったら、様々な色のマーカーを使います。自作の単語帳はもちろん、6つのパートに区切った市販のものも古本屋さんが買い取ってくれそうもないくらいに(売るつもりもありませんが)汚くなります。面白いことにその汚れ具合はどのページでもだいたい同じ感じになります。仮に2ヶ月ほど経過した時点でその本の8割を覚えられたとすると、それはページやパートごとにムラのない8割です。最初の2~30ページは完璧で、その後徐々に落ちて最後の方は6割位・・・といったことにはなりません。その後もこの週ごとのローテーションの回数に比例して全体の完成度もむらなく上がっていくはずです。

ただ、こうして機械的な暗記作業によって覚えたものは、何らかの形で(読み、書き、会話、あるいは思考に)使用しなければ割と簡単に忘れてしまいます。仕事で英語を使う機会があまりない方は、読書を通して自然で良質な英語に触れられる機会を自分から積極的に作りだすべきだと思います。「語学の勉強に終わりはない」とよく言います。一生ずっとこんな調子で単語帳をアップデートし続けるのかと考えて気が重くなる方もいらっしゃるかもしれませんが、語彙力が上がるにつれ、かかる負荷は軽くなりますのでどうぞ安心してください。そのためにも、どこかのポイントで語彙をある程度まとめてやっつけてしまうことが必要なのです。そしてそれが無駄にならないように読書を続ける。というのが理想だと思います。語彙力が上がれば読むことも楽しくなります。楽しくなると読書量も自然と増えるので、まとめて暗記した単語・成句に生きたフレーズの中で出会う頻度が上がり、記憶がますます安定します。この好循環に入ることができればしめたものです。

最小の努力で最大の効果を得ようと、近道ばかり探して路地を何本も試しに入って、結局もとの場所に戻ってしまうなどというのはよくあることです。スマートフォンや電子辞書のようにチップやアプリを入れると一瞬にして収納データ量が飛躍的に増えるような仕組みが人間の脳には備わっていません。いろいろやって見た上で、ここに紹介した方法が実は最も効率の高い方法だというのが私の結論です。口幅ったい言い方になりますが、こうして強化した自分の英語の語彙力にはそれなりの自信があり、今はイタリア語の語彙力強化にも同じ方法で取り組んでいます。日々のルーティンは地味でとても根気のいる作業かもしれませんが、英語での成功体験も助けになって、なんとか続けられています。どこかの段階でイタリア語での読書がさらに楽しくなってこういった暗記作業の負担もいずれ軽くなってくると信じています。それでもたまに苦しくなって「今日は、まあやらなくていいかな?」などと思えてきたら、手帳に張り付けたこの言葉を眺めるようにしています。

We must all suffer one of two things: the pain of discipline or the pain of regret or disappointment. Jim Rohn

私は、先に苦しんでおく方がいいです。
では、また。

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