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塚崎正子先生のコラム 『ある実務翻訳者のつぶやき』 お茶の水女子大学文教育学部外国文学科英文学(当時)卒業。電気メーカーに入社後、フリーランス翻訳者となる。移動体通信、コンピュータ、医療機器を中心とした分野に関する各種マニュアル、学術論文、契約書などの英日/日英翻訳を手がける。

第9回:イギリス英語とアメリカ英語

今年の夏は、ロンドンオリンピック開催もあって、いつも以上に暑い日々が続きました。開幕式でエリザベス女王が007のジェームズ・ボンドと一緒にスカイダイビングしたり(もちろん、スタントですが)、ミスター・ビーンがロンドンフィルの一員になっていたりと、イギリスらしさ満載で楽しめました。

イギリス英語はラブリー!?

そんなオリンピック中継の合間に映し出されるロンドンやイギリス各都市の街並みを見ていたら、10年ほど前に住んでいたころを思い出しました。アメリカ英語が基本の日本の英語教育で育ってきた私にとって、イギリス英語は不思議なことが一杯でした。例えば1階がFirst floorとGround floor、エレベータがElevatorとLiftといった単語レベルの違いがあるのは知っていましたが、イギリス人たちがここまでLovely!を連発するとは思いもよりませんでした。

お店に入って、これをくださいと言って、Lovely!と言われ、お金をおつりなしにぴったりと渡したらLovely!と言われ、商品を受け取りThank youと言ったら、またまたLovely!と返され…。がっしりとしたおじさんからLovely!と言われると、なんだか複雑な気持ちです。きっと色々な意味を表せる便利な言葉なのでしょうが、滞在中、遂に自分から使うことはできませんでした。

日英翻訳の場での使い分け

イギリス英語とアメリカ英語で多少の差があっても、日常生活で大問題となるようなことはほとんどありません。では、日英翻訳の場ではどうでしょうか。

一般にイギリス英語は同じものを表す場合でも、わざと単語を変えて表現にバリエーションを付けます。いかに同じことを、別な言い方で言い換えられるかというのが、腕の見せ所なのでしょう。一方、アメリカ英語では同じものは、ほとんどの場合、同じ単語で表します。逆に言えば、単語が変われば、別なものを指しているということです。

このことは特に技術英語の分野で顕著にみられます。私が翻訳を始めたとき、「技術系文書で大事なことは、最も効率よく意味を伝えられ、曖昧さのない文章を書くこと」と教わりました。そのためにマニュアルや仕様書作成の折には、MIL規格(米軍の規格)に記載されている動詞の使用が推奨されました。

ここに記載されている動詞は、日本の中高生でも知っているような本当に基本的な単語です。全ての文章がこの動詞で書けるわけではありませんが、できるだけシンプルにという考えが底辺にあります。これは英語の力もバラバラな、多民族が軍隊という集団生活を営んでいく上での生活の知恵のようなものだったのでしょう。

一方で、伝統的にイギリス英語が好まれている分野もあるようです。最近、手掛けたODAがらみの文書はイギリス英語で書かれていました。アメリカ英語の世界では、拘束力の強さを表さすshallが、普通に単純未来のような形で使われていて、ちょっと戸惑いました。

ビジネスの現場では、大部分がアメリカ英語でまわっていますが、実際の翻訳の際は、基本的に対象となる読者を意識しなければなりません。そのため、イギリスで使用される予定の文書を翻訳する際には、最低限、アメリカ式の日付の順番とか綴りを使わないといった心遣いは必要でしょう

普段あまり意識することはないと思いますが、たまにはイギリス英語に触れてみるのも新鮮かもしれません。

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