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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

塚崎正子先生のコラム 『ある実務翻訳者のつぶやき』 お茶の水女子大学文教育学部外国文学科英文学(当時)卒業。電気メーカーに入社後、フリーランス翻訳者となる。移動体通信、コンピュータ、医療機器を中心とした分野に関する各種マニュアル、学術論文、契約書などの英日/日英翻訳を手がける。

第12回(最終回):翻訳を一生の仕事、いや、友として

翻訳の仕事もご多分にもれず、直接的、間接的に社会の変化の影響を受けます。

景気の浮き沈みに左右されて

私の中で最も印象深いのは、フリーランスで翻訳の仕事を始めたばかりのころ、ある外資系企業の大掛かりなプロジェクトの一環として、数人のグループで翻訳を担当することになり、その打ち合わせに行った日のことでした。何やら、社内が騒がしいなと思っていたら、なんと多国籍軍がイラクを空爆し、湾岸戦争が開戦したとのニュース(年齢が分かりますが…苦笑)。そのせいかどうかわかりませんが、このプロジェクトは無期延期となりました(涙)。

バブルの頃は、お客様(クライアントの企業)も太っ腹で、こんな些細なものまで翻訳に出すとは、と感心していましたが、バブルがはじけると一転、社外に出す翻訳を絞ってきました。その後、景気の回復とともに徐々に仕事が増えたと思っていたら、今度は、リーマンショック。一息ついたら、今度は東日本大震災。

こう書いてくると、景気の変動に振り回されて悪いことの方が多いように思いますが、一方で、この間の技術革新により翻訳者は多大な恩恵を受けることになりました。

翻訳の仕事にとっての技術革新の恩恵

20年ほど前、翻訳の仕事は紙ベース、よくてフロッピーディスクベースでした。翻訳対象の書類や参考文書がファックス、宅配便により送られてきました。翻訳者は「紙」の辞書で調べ、何かわからないことがあると「紙」の参考文献を頼りにしました。従って、地方で在宅翻訳をしたいと思っても、大きな困難を伴いました。

しかしWindows95 の登場とともに様相は一変し、翻訳の仕事も一気にインターネットベースへと移行しました。原稿は電子データの形でネット上をやりとりされ、電子版の辞書が登場し、調べ物も検索サイトなどを駆使すれば、なんとかできるようになりました。

技術革新は翻訳者のあり方も変えています。日本、いや世界のどこにいても、通信環境さえ整っていれば、在宅で翻訳ができる世界になっています。また以前の翻訳者は、どちらかというと各専門別に特化されていて、狭いけれど、深い範囲を扱っていましたが、現在ではインターネットの力を得て、広く浅い範囲に対応する翻訳者というものが存在できるようになりました。私自身を振り返っても、本来は技術関連だったはずですが、気が付けばビジネス関連や、ファッション関連さえ担当することがあります。

また、インターネットの普及は、翻訳を勉強する皆さんにとっても多大な恩恵をもたらしています。地方や海外に住んでいても、育児に忙しくても、仕事で出張がちでも、今やネットにより翻訳クラスの受講が可能です。もちろん、インターネットがなければ、このコラムを読んでいただくことすらできませんね(笑)。

翻訳を長く続けていくということ

翻訳を長く続けていくと、このように自分の実力のみでは解決できないことが、数多く起こります。悪いこともあるし、良いこともあります。ただ、皆さんよりちょっとだけ(!?)先輩の私の経験からいうと、どんな状況も永遠に続くことはありません

大事なのは、翻訳者としての芯をしっかり保ちながらも、周囲の状況に柔軟に対応していくことだと思います。例えば、仕事の減っているときに、少しハードルが高いかなと感じる仕事の依頼がきたら、頑張ってチャレンジしてみましょう。きっと、数年後に、財産になっていくことでしょう。

翻訳を単なる「仕事」としてだけではなく、つかず離れずの「友」だと思ってもらえたら、翻訳をこよなく愛する先輩の私としてはうれしい限りです

さて、早いもので、このコラム連載のお話をいただいてから1年が経ち、ついに今月で最終回を迎えることとなりました。年月だけはそれなりに経験してきている翻訳者として、愛すべき後輩の皆さんへ、少しでもお役に立てるアドバイスができればと心がけてきましたが、いかがでしたか。

いつの日か、翻訳コースのレッスンの場で、翻訳の仕事の場で、皆さんと再会できるのを楽しみにしております。

1年間、読んでいただき、どうもありがとうございました。

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