ホーム  >  Tips/コラム:プロ通訳者・翻訳者コラム  >  藏持未紗先生のコラム 第6回:英語の多様性

Tips/コラム

Tips/コラム

USEFUL INFO

プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

藏持未紗先生

藏持未紗先生のコラム 『流れに身を任せて』 高校時代に1年間アメリカに留学。国際基督教大学教養学部を卒業。2008年にアイ・エス・エス・インスティテュートに入学。在学中よりメーカー、製薬会社等で社内通訳者として経験を積む。同時通訳科を経て、現在はフリーランス通訳者として稼働中。

第6回:英語の多様性

前回は日本語でも分からない言葉があるという例をご紹介しましたが、今回は英語の難しさについてお話したいと思います。おそらく大部分の日本人はアメリカ英語に一番なじみがあるのではないでしょうか。私も英語を教わった先生方は全員アメリカ人でしたし、発音記号もほとんどがアメリカ英語の発音をベースにしていたように思います。

ところが実際に通訳者となって現場に出てみると、様々な英語があることに気付かされます。最近は特に、英語を母語としないノンネイティブの方の通訳をする機会が増えてきています。それまでネイティブスピーカーの英語、しかもアメリカ英語しかほとんど耳にしてこなかった私は、イギリス英語ですら聞き取りに苦労し、ましてやノンネイティブの英語はもはや現地語にしか聞こえず、私には通訳の仕事は無理かもしれないと思ったこともありました。ただ、諦めずに何度も繰り返し聞くにつれ、出身国ごとに発音の変化にパターンがあることに気付いてからは、だいぶ聞き取れるようになったように思いますので、一部ご紹介したいと思います。

■オーストラリア英語
これは特徴をご存知の方も多くいらっしゃるかと思います。「エイ」の音を「アイ」と発音することが多いです。”I’m going to a hospital today.” が ”I’m going to a hospital to die.” に聞こえてしまうというのは有名な例ですよね。あるメーカーのお仕事で、オーストラリア人の方が日本人の方にどういった商品を作るべきかという説明をしていた際、日本人の方が突然「ねぇ、さっきから出てくるマイクさんって誰?」と聞くのです。私はマイクという名前が出てきた記憶はなかったので混乱しつつも、そのままオーストラリア人の方に質問を通訳すると、彼も「マイクって誰?何の話?」と全員が大混乱。謎が解けないまま会議を再開すると「ほら、今またマイクって言った!」と日本人の方。実はその時に発せられた英語は”make”だったのです。オーストラリアの方が何度も「マイク」と言うのに、私の通訳の中に「マイクさん」が全く出てこないので、そこだけ聞き取れた日本人の方がしびれを切らして質問をしたのでした。ちなみに、この日本人の方によると”IT”と”eighty (80)”も両方「アイティ」に聞こえるとのことでした。

■フランス英語
これも比較的有名ですが、フランス語では”h”の音を発音しません。そのため英語を話す時もその癖が抜けないようで、”h”から始まる単語はほぼ全て”h”の音が消えてしまいます。新しく日本に着任された方と、どこに住むかという話をしていた際、「どのエリアがおすすめ?代官山とか麻布十番とかイロ-も良いって聞いたよ」とおっしゃっていました。正解は「広尾」ですね。”hat”のように”h”の音が抜けても”at”と英語に存在する単語の音になる場合もあるので、文脈から判断する必要があります。

■イタリア英語
イタリア英語もイタリア語の特徴が如実に表れており、”er”の音を舌を巻いて発音します。そのため、電話会議だったこともあり、”vender”(ベンダー)が”bundle”(バンドル)と聞こえてしまい、意味が通らず何度も聞き返したこともありました。また、イタリア人もフランス人同様、単語の冒頭の”h”の音を発音しないことが多いように思います。これはイタリア英語全体の特徴ではなく、その方個人の癖だったのかもしれませんが、”high”を「アイグ」と、冒頭の”h”の音は言わないのに、なぜか英語では発音しない”g”の音を発音されて、理解するまでに数秒固まってしまったこともありました。

■東南アジアの英語
国によってもちろん多少の違いはありますが、シンガポールやベトナムは特に、音が歯切れよく短くなることが多いように思います。仕事でシンガポールに赴任することになり家の内見をした際に、どのマンションに行っても不動産屋さんが「カパはあっちね」と言うのです。3軒目ぐらいでようやく、「カパ」の正体が”car park”であることに気付きました。このように、英語では少し長めに発音する音も全て短くなり、ベトナム英語などは特に、後ろに「ッ」が付きそうなほど歯切れよく発音するので、私の中では聞き取りが難しい英語トップ3に入ります。

他にもインド系やアフリカ系の英語など、音だけで聞き取ろうとすると難しいですが、音の変化の基本的なパターンを知っておけば、文脈と併せて聞き取れる内容が大幅に増えます。また、こうしたパターンを発見するのはパズルを解くようで純粋に楽しいものです。英語ができる方が増える中、こうした日本人になじみの少ない英語を聞き取ることも通訳者に求められる重要なスキルになってきていますので、ぜひ色々な英語に触れてみてくださいね。

Copyright(C) ISS, INC. All Rights Reserved.