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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

藏持未紗先生

藏持未紗先生のコラム 『流れに身を任せて』 高校時代に1年間アメリカに留学。国際基督教大学教養学部を卒業。2008年にアイ・エス・エス・インスティテュートに入学。在学中よりメーカー、製薬会社等で社内通訳者として経験を積む。同時通訳科を経て、現在はフリーランス通訳者として稼働中。

第7回:難しさの種類

まずは6月18日の大阪北部の地震で被害にあわれた皆様に心よりお見舞い申し上げます。私も兵庫県出身で、阪神淡路大震災を経験しましたので、ニュースを見て一瞬頭が真っ白になりました。幸い、私の家族や友人は無事でしたが、小学生が犠牲になってしまったというニュースに心を痛めています。また、外国人居住者や観光客の方が、日本語が分からずに状況把握や情報収集に苦心されているという報道もあります。前回の東日本大震災の時もそうでしたが、通訳者・翻訳者として、貢献できることも多くあると思います。ライフラインの復旧も含め、被害にあわれた方が少しでも早く元の生活に戻れますようお祈りいたします。

さて、前回と前々回では、日本語と英語それぞれの言語としての難しさについてお話しましたが、今日は通訳者にとっての内容の難しさについてお話したいと思います。どんな内容でも、それぞれ違う難しさがあることには変わりないのですが、大まかに分けて3種類の難しさがあると思います。

1. 専門知識を必要とする難しさ
内容が難しい、と聞いてまず思い浮かぶのは、この難しさではないでしょうか?医薬、IT、金融など、高度な専門知識を必要とする内容です。日本語であったとしても、専門用語や背景知識を知らなければ、何を言っているのかを理解するのは難しいと思います。ただ、この難しさは勉強によってある程度克服することが可能です。

2. ハイコンテクストなコミュニケーションスタイルによる難しさ
ハイコンテクスト、ローコンテクストという言葉を聞いたことがあるでしょうか?Contextとは文脈や背景という意味で、ハイコンテクストな文化では、一定の背景情報を共有している想定で会話が行われ、言葉以外の状況や文脈でも情報を伝達するコミュニケーション方法です。一方ローコンテクストは、情報は全て言葉で伝達されるので、共有の背景情報があまり必要とされないコミュニケーションスタイルです。一般的に、島国で同じ言語・文化を共有する日本人はハイコンテクスト、アメリカのような様々な言語や文化的背景を持った人が集まる国ではローコンテクストになりやすいといわれています。

たとえ専門的な内容ではなかったとしても、ハイコンテクストな話し方をされると、部外者として突然その場に入った通訳者には何の話をしているのかさっぱり分からないということが良く起こります。特に日本語は主語が省略されることが多いので、トピックすら最後の最後まで分からないということすら起こりかねません。

3. 内容は易しいが、表現力が求められる難しさ
私個人的には、このタイプの難しさが一番難しく感じると同時にやりがいを感じるものでもあります。例えば、上司との面談で同僚や部下の評価、または自分の気持ちについて話す場合や、チーム内外での衝突に関するヒアリング、外国人上司からのリストラ宣告の通訳などが、私が特に難しいと感じた内容です。専門用語であれば、定訳があることが多いので、意味と単語を覚えれば訳出できますが、こういった場面では、似たような意味の単語であったとしても、どれを選ぶかによって相手に与える印象やニュアンスが全く変わってきてしまいます。

また、どれもセンシティブな内容なので、意味やニュアンスを正確に伝えつつも、場合によっては強い表現になり過ぎないように気を付けることも重要です。形容詞やオノマトペ、性格を表す表現など、とっさにぴったりな表現が思いつかないこともありますので、普段から「そういえばこれは何て訳せば良いのだろう」と考える癖をつけておくと、いざという時に役に立つと思います。

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