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気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

藏持未紗先生

藏持未紗先生のコラム 『流れに身を任せて』 高校時代に1年間アメリカに留学。国際基督教大学教養学部を卒業。2008年にアイ・エス・エス・インスティテュートに入学。在学中よりメーカー、製薬会社等で社内通訳者として経験を積む。同時通訳科を経て、現在はフリーランス通訳者として稼働中。

第12回:人と人とをつなぐ仕事

いよいよ今年も残すところ1ヶ月となりました。この1年はどんな年でしたか?目標は達成できたでしょうか?ぜひこの1年の自分の頑張りを振り返って、できるようになったこと、これからさらに伸ばしていきたいことを確認してみてください。

これまで、通訳者にとって必要な素質や、通訳と言う仕事の難しさ、そして実際のお仕事の様子についてお話してきました。ですが、なぜ通訳者になりたいのかという動機の部分が一番大切な気がします。語学が得意だから、何となくかっこいいから。興味を持つきっかけは何でも良いと思いますし、理由も人それぞれだと思います。比較的飽きっぽい私がここまで通訳者という仕事に魅了され、続けている理由を少しご紹介したいと思います。

通訳者を目指すようになったきっかけは、初回でお話した通り、空港で通訳の真似事のようなことをして喜んでもらえたことでした。これは、どの仕事においても一番の動機ではないでしょうか?何かをして人に喜んでもらえるというのは何にも勝る歓びです。実際、お仕事が終わった後に、お客様から「ありがとうございます」と言っていただけると、頑張って良かったと思いますし、中には後日わざわざエージェント宛にお礼のメールを送ってくださるお客様もいらっしゃいます。そして指名は、通訳そのものであれ、通訳以外の対応であれ、お客様に気に入っていただけて、また一緒に仕事をしたいと思っていただけた証でもあるので、嬉しいと同時に、さらに頑張ろうという気になります。

また、会社員として働く場合は、転職をしたとしても、生涯に経験できる業界の数や仕事の内容には限りがありますが、通訳者の場合は、本当に様々な分野の様々な企業を毎日のように垣間見ることができます。また、身近な人から著名な方まで、色々な人のお話を聞き、新しい考えに触れることができます。これは私にとって大きな刺激にもなっています。

そして、私にとって通訳者の一番の魅力というのは、人と人をつなぐ橋渡しができるということです。以前、社内通訳者として働いていた企業で、良く一緒にお仕事をさせていただいた日本人の方がいらっしゃいました。とても頭が良く仕事のできる人格者で、社内でも重要なポジションに就いていた方なのですが、英語はあまり得意ではなく、かつ日本語でお話される際も独特の表現をされたり、頭の回転が速く、2歩、3歩先のことを考えながらお話されるために、話が飛んでいるように聞こえたりする傾向にありました。その方と良くお仕事をされていた、海外の子会社の外国人の方がいて、出張のたびに直接英語や別の通訳者を介してお話されていたそうです。ある時、そのお二人が1年間同じ職場で上司と部下という形でお仕事をされることになり、私も1年間お二人について通訳をするという機会がありました。

そして1年後、その職場を離れることになった時に、その外国人の方が私にこう言ってくれたのです。「今まで何年も一緒にあの上司の人と仕事をしてきたけど、藏持さんがこの1年間通訳してくれて、初めて上司が何を言っているのか、これまで何を言ってきたのか、その意図を本当に理解することができた」と。

もちろん、1年間同じ職場で朝から晩まで一緒に仕事をすることで、理解が深まったのが一番の要因だと思いますが、通訳者としてこれ以上嬉しい誉め言葉はありませんでした。言葉が通じなくても、人間は理解し合えるものですが、言葉が通じればさらに深く理解し合えると私は信じています。そして、その手助けをすることができる通訳者と言う仕事は本当に素敵な仕事だと思っています。

この1年間、このコラムにお付き合いいただき、ありがとうございました。皆さんが少しでも通訳者の仕事に関心を持っていただけたら幸いです。

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