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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

豊田実紗先生

豊田実紗先生のコラム 『一歩ずつ、丁寧に』 青山学院大学大学院法学研究科(フランス法専攻)修士課程修了。法律関連の資格を複数取得した後、それらの知識を活かしつつ語学に関する仕事に就きたいと決意し、翻訳学校にて実務翻訳の講座を受講。その後、在宅チェッカーとして業務を開始。現在は、在宅フリーランスの翻訳者として、おもに法律分野・行政分野の文書を中心に、その他、観光・文化芸術分野などの翻訳に携わっている。

第7回:念願の翻訳者登録

今回のコラムでは、複数の翻訳会社からチェッカーの仕事を頂戴しながら、いよいよ翻訳者登録のためのトライアルに挑戦しつつも、とても苦戦・・・という日々についてお話しいたします。

在宅チェッカーとしてお仕事を頂戴することが増え、少しずつチェック作業にも慣れてきました。そのため、様々な翻訳会社のチェッカーのトライアルにも挑戦するようになり、合格することも増えてきました。研修などをおこなう翻訳会社もあったので、チェック作業のノウハウについて色々と教えていただきながら、様々な分野(たとえば機械製品の説明書のような技術分野の文書など)に関するチェックの仕事も数多くやらせていただきました。

チェックの仕事を通じて、たくさんの原文と訳文を対訳の形で読むことができたので、チェック作業のみならず、翻訳そのものの勉強になりました。やはりプロの翻訳者さんが訳した訳文なのでとても完成度が高く、実務翻訳らしい簡潔で正確な分かり易い訳文なので翻訳そのものの勉強になり、私としては貴重な体験ができたと感謝しています。たとえば、原文「条件に適合する本製品」について、「the Products which conform to the terms and conditions」のようにwhichなどの関係代名詞を用いて英訳するのではなく、関係代名詞のwhichを省略する代わりに、動詞(conform)の現在分詞(conforming)を用いたうえで「the Products conforming to the terms and conditions」のように英訳することによって、名詞(Products「本製品」)を直接的に修飾することで、より簡潔で分かり易い訳文になるノウハウなどを知りました。

このように充実したチェッカーとしての日々を過ごせていた私ですが、やはり何と言っても最終目標は「翻訳者」としての仕事を獲得することです。そのため、翻訳会社の翻訳者登録のトライアルに挑戦するようになりましたが、合格できない日々が続きました。というのは、あらゆる分野の翻訳者トライアルに挑戦しすぎて、そもそも自分自身が原文そのものを理解できず、やみくもに訳文を作成したうえで翻訳会社に提出・・そして不合格、という状態だったからです。

翻訳の勉強を始めた当時は法律分野の翻訳を強く希望していたにもかかわらず、契約書などの法律分野に関する翻訳者の求人応募の場合、3年から5年ほどの翻訳者としての実績が必要とされることが多く、そもそもトライアルすら受けられませんでした。しかし、やはり法律分野のほうが翻訳者トライアルに合格できるかもしれないと思い直し、改めて求人募集を検索してみたところ、未経験者であってもチェッカーとしての実績があれば応募が可能な求人募集を見つけることができました。

また、翻訳を勉強した当時に魅力を感じていたにもかかわらず、すっかり忘れてしまった日英翻訳の存在について思い出しました。それまで不合格だったトライアルは、よく考えてみるとすべて英日翻訳の翻訳者トライアルだったのです。日英翻訳については自信がなかった私ですが、思考をガラリと変えて、思い切って日英翻訳のトライアルに挑戦しようと覚悟を決めました。

とある翻訳会社の法律分野の翻訳者募集に狙いを定めた私は、千載一遇のチャンスだと思い、過去のチェッカーとしての実績を応募フォームに記載して自己アピールしたうえで日英翻訳のトライアルを受けました。その際、「原文を何度も丁寧に熟読したうえで、原文の意図を正しく把握すること」を心がけました。また、「より原文に忠実に訳すこと(たとえば、原文「いかなる義務を負担することなく」について、単に「without any obligation」(「いかなる義務もなく」のような意味)と訳すのではなく、「without any burden of obligation」のように「を負担すること(burden of)」という用語もあえて省略せずに訳出することなど)」も心がけました。その結果、合格することができました。そして、翻訳者登録した直後に、少量の案件でしたが日英翻訳の仕事をやらせていただきました(たしか所得税の源泉徴収票に記載されている数行程度の注釈の英訳だったと記憶しています)。その後、別の翻訳会社の法律分野に関する翻訳者募集に応募し、やはり日英翻訳のトライアルを受けました。上記の翻訳会社で駆け出しながらも日英翻訳者として仕事をしていたおかげで、翻訳者としての実績を応募フォームに記載できたので、徐々に複数の翻訳会社の翻訳者トライアルに合格できるようになりました。そして、合格できた各々の翻訳会社から少量ながらも契約書関連の日英翻訳の仕事を頂戴できるようになったのです。

今振り返ってみると、得意で自信のある分野の翻訳者トライアルに狙いを絞ったうえで開き直って日英翻訳に挑戦してみたことが良かったのだと思います。自分自身の向き・不向きについて、思い込みをいったん振り払ってみることも大切なのだと思います。

次回のコラムでは、「翻訳者」としての仕事に関する様々な体験談についてお話しいたします。

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