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プロ通訳者・翻訳者コラム

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豊田実紗先生

豊田実紗先生のコラム 『一歩ずつ、丁寧に』 青山学院大学大学院法学研究科(フランス法専攻)修士課程修了。法律関連の資格を複数取得した後、それらの知識を活かしつつ語学に関する仕事に就きたいと決意し、翻訳学校にて実務翻訳の講座を受講。その後、在宅チェッカーとして業務を開始。現在は、在宅フリーランスの翻訳者として、おもに法律分野・行政分野の文書を中心に、その他、観光・文化芸術分野などの翻訳に携わっている。

第9回:改めて猛特訓

今回のコラムでは、翻訳学校で講師デビュ―をしたことによって、自分自身の翻訳スキルも磨いていく日々についてお話しいたします。

フリーランス翻訳者として仕事に取り組んでいた私ですが、ご縁があって翻訳学校(アイ・エス・エス・インスティテュート)で講師をやらせていただくことになりました。以前から「いつか私も講師になりたい」と思っていたので、講師のお仕事をご依頼いただけて本当に嬉しかったです。

まずは翻訳チェッカーに関する講座を担当しましたが、その後、ありがたいことに「今度は、契約書翻訳に関する講座の講師をしませんか?」とお声をかけていただいて、本当に飛び上がるほど嬉しかったです。と同時に、とてつもない恐怖と不安を感じました。というのは、受講生の皆さんに納得してもらえるように講義をして、皆さんからのご質問に的確に分かり易く答えるには、ただ単に翻訳することができるだけでは実力的に足りず、その裏付けとなる知識や翻訳スキル、そして翻訳者としての膨大な実績・経験が必要だと感じたからです。

しかし、せっかく私に対して期待を寄せてくださったのだから千載一遇のチャンスだと思い、即決でお引き受けしました。それ以降は、自分自身との戦いでした。以前に勉強した契約書翻訳に関する参考書を引っ張り出して、基本的な文書といえる売買契約書(Sales Agreement)の英文すべてを、改めて最初の文章(This Agreement is made and entered into this day of・・.「本契約は、・・〇年△月×日に締結された。」)から、最後の文章(IN WITNESS WHEREOF, the parties have caused this Agreement to be executed・・.「以上の証として、両当事者は・・本契約を締結した。」)まで、全文を丸暗記する勢いで頭に叩き込みました。うろ覚えの状態ではなく、正しい表現や知識をしっかりと覚えている状態にしておきたかったからです。

同時に、契約書の翻訳の仕事を数多く引き受けて実績をさらに増やすことで、契約書に関する翻訳スキルを磨く努力をしました。売買契約書(Sales Agreement)や秘密保持契約書(Confidentiality Agreement)、販売店契約書(Distributorship Agreement)や業務委託契約書(Service Agreement)など、あらゆる種類の契約書について、もはや記憶がないぐらい無我夢中で翻訳作業をしました。その結果、無意識に手がパソコンのキーボードを叩けるようになるほど、それまで以上に翻訳するスピードが速くなりました。また、どんな種類の契約書にも共通して定められている文章(一般条項・雑則と呼ばれるもので、たとえば「契約の解除(Termination of Agreement)」「不可抗力(Force Majeure)」など)も数多く翻訳することで、英語の表現や言い回しなどを自然と脳裏に焼き付けて覚えることができました。

また、用語や表現のより適切な訳し方を探したい場合、以前は特定の法律用語辞典などに頼りきっていました。しかし、「今現在どのような表現が実際には用いられているのか?」を把握して翻訳することの重要性に気づき、色々と試行錯誤した結果、たとえば英訳の際に「義務を履行する」という用語に該当する英訳を見つけたい場合、インターネット上のgoogleなどのネット検索などで「“義務を履行する”“英訳”」のように入力し、検索してヒットした上位のURLサイト(Weblioなどのオンライン辞書のみならず、Linguee(「ランゲ」)などの契約書の英文と日本文が対訳の形で掲載されているサイトや、国際法務がご専門の弁護士さんなどのウェブサイトなど)に掲載されている文章をすべて読み、各々の信憑性や正確性に留意しながら「どの用語・表現を用いて訳すべきなのか?」を総合的に検討したうえで、結果的に「perform the obligation」(「義務を履行する」)のように英訳してみる、といった方法を、この時期になってやっと確立できました。

こうした訓練は、何よりも自分自身の翻訳スキルの向上に役立ちました。やはり翻訳は数多くこなし、頻繁に用いられる表現を覚えて慣れることが一番だなと感じました。その結果、おかげさまで無事に契約書の翻訳講座の講師デビュ―を果たせました。

生徒さんは熱心に授業に取り組んでくださるので、私も励みになります。生徒さんからのご質問に、私もハッと気づかされることが沢山あります。たとえば、日英翻訳全般で共通する話題で「英訳で名詞を用いる際には単数形・複数形のどちらを用いるべきか?」というご質問をよく受けます。正直、あまり深いことを考えずに英訳していた私ですが、「少なくとも、不可算名詞(数えられない名詞)の場合は不定冠詞のa/anや複数形-sを付けてはならないので、注意しましょう。実務翻訳分野では不可算名詞が多く(information「情報」など)、契約書の分野でもapproval「承諾」やdefault「(債務)不履行」などのように、意外と多いですよ」と回答することで、私自身も改めて色々なことに気づかされました。

次回のコラムでは、翻訳会社でのオンサイト業務の経験談についてお話しいたします。

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