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プロ通訳者・翻訳者コラム

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豊田実紗先生

豊田実紗先生のコラム 『一歩ずつ、丁寧に』 青山学院大学大学院法学研究科(フランス法専攻)修士課程修了。法律関連の資格を複数取得した後、それらの知識を活かしつつ語学に関する仕事に就きたいと決意し、翻訳学校にて実務翻訳の講座を受講。その後、在宅チェッカーとして業務を開始。現在は、在宅フリーランスの翻訳者として、おもに法律分野・行政分野の文書を中心に、その他、観光・文化芸術分野などの翻訳に携わっている。

第10回:はじめてのオンサイト業務【NEW】

今回のコラムでは、翻訳会社でチェッカーとしてオンサイト業務の仕事をした際の経験談についてお話しします。

私は通常、在宅にて翻訳やチェックの仕事をしています。ところが数年前に、すでにチェッカーとしてお仕事をしていた翻訳会社から「こちらのオフィスに出向いて1カ月の間、オンサイト業務をしませんか?」とお声をかけていただきました。それまでは自宅で孤独に翻訳やチェック作業をしており、オンサイト業務は初めてでしたので、何か今まで経験したことのない有意義なことを経験できるような気がして、とても魅力を感じ「是非やらせてください!」と即決でお返事しました。

その仕事は、技術製品の商品カタログの日英チェック業務でした。商品カタログの枚数が大量だったので、私以外にも複数のチェッカーさんがオフィスに出向いてオンサイト業務に従事する、という状況でした。その方々とともに、社内の会議に出席して話し合ったり(たとえば「箇条書きの記載について、今回の訳文では文末にピリオドを挿入することですべて統一しよう」と意見交換するなど)、コーディネーターの方々と直接に意思疎通を図りながら、毎日必死になってチェック作業に明け暮れました。技術製品に関する構造や性能に関する内容だったので、特に、数字や単位の間違い(たとえば「5 kg」を「50 g」のように英訳しているなど)は非常に困るため、何度も確認しながらチェック作業をおこないました。また、商品カタログで使用されている用語の統一(たとえば「機器」の英訳について「device」または「equipment」のうち、どちらの訳を用いるか?など)についても、特に留意しながらチェック作業をおこないました。このオンサイト業務を通じて、大量の日英チェックを集中的におこなうことができたので、日英チェック作業に大いに慣れました。また、技術分野の英訳をチェックする作業によって、より簡潔で明瞭な分かり易い訳文に触れられたので、実務翻訳そのものの勉強になりました。

そして、私にとって何よりも勉強になったのは、はじめて翻訳会社の社内で仕事をしたことで、翻訳に関する作業のプロセス全体を把握できたことでした。以前は、自宅で翻訳作業やチェック作業をたった一人でやっていたので、それ以外の作業に関わる方々の存在を想像すらできなかったのです。実際にオンサイト業務を経験したことで、プロジェクトマネジャーやコーディネーター、レイアウト調整の担当者、社内のチェッカーや翻訳前の準備作業をおこなう方々に加えて、営業の方々や経理の担当者さんまで、本当に沢山の方々が1つの案件に関わっていらっしゃることを初めて知りました。私が普段おこなっている翻訳者やチェッカーとしての作業は、大きな全工程に対して、ほんの1つのプロセスに過ぎないことを認識しました。「みんなが1つのチームとなって力を合わせて頑張っている、私はそのチームのメンバーのひとりなんだ」ということを身に染みて感じました。そのため、たとえ在宅で単独で作業するとはいえ、その案件に携わっている方々に迷惑をかけないように、きちんと責任を持って翻訳作業やチェック作業を素早くスムーズにおこなう必要があることを改めて実感しました。

このように、はじめてのオンサイト業務を通じて、日英チェックのスキルやノウハウを学べただけではなく、翻訳者やチェッカーとしての心構えについても学ぶことができ、有意義な経験をさせていただきました。

その後、同じ翻訳会社から、チェッカーとしてオンサイト業務のご依頼をいただきました。その際には、色々な分野に関する文書の英日チェックや日英チェックのお仕事をしました。私が普段、翻訳作業ではご縁の無い分野の文書(たとえば、医薬分野における申請書や、マーケティング翻訳における化粧品の宣伝文など)のチェック作業ができたので、今まであまり知らなかった分野の表現や用語に触れることができ、新鮮で勉強になりました。特に英日チェック作業を通じて、マーケティング翻訳(広告文や宣伝文などの翻訳)については、場合によっては意訳的で分かり易いインパクトのある表現が訳文で必要なことに気づかされました(たとえば「instruction by experts」という原文に対して、「プロが伝授」と和訳するように、簡潔で分かり易い訳にするなど)。

また、チェッカーとしてのオンサイト業務を経験したことで、チェッカーとしての責任の重大さについても認識できました。特に2回目のオンサイト業務の際、ついつい調子に乗ってしまって、短時間でチェック作業をやり終えようと焦ったために単純ミスを見過ごしてしまい、コーディネーターさんなどにご迷惑をかけてしまった案件もありました。やはり、気のゆるみや慣れは危険ですね。改めて反省しました。

次回のコラムでは、私が普段携わっている契約書などの法律文書の翻訳についてお話しいたします。

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