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プロ通訳者・翻訳者コラム

気になる外資系企業の動向、通訳・翻訳業界の最新情報、これからの派遣のお仕事など、各業界のトレンドや旬の話題をお伝えします。

加藤早和子先生

加藤早和子先生のコラム 『いつもPresent Progressive』 南山大学卒業。特許文書翻訳、調査会社勤務を経て、アイ・エス・エス・インスティテュート同時通訳科で訓練。
現在はフリーランスの会議通訳者として、医学・獣医学、薬学、バイオテクノロジー、自動車、情報通信、環境、知財、財務、デザインなど幅広い分野で活躍中。

第12回:コラム最終回

こんにちは。

一年間続けたコラムも今回が最後です。
これから通訳者になろうと努力されている読者の方々に筆者の拙い経験が少しでもお役に立てれば幸いに思います。

また、毎月コラムを書きながら筆者も多くを学びました。締め切りに合わせて執筆するという事が結構大変だということ、また、ものを書くにはそれなりのスキルとトレーニングが必要だということです。
どんな仕事でもプロフェッショナルと言える職業には学習・経験・継続による技能の裏づけがあるという事でしょう。

「継続は力なり」という言葉は使いふるされたフレーズですが、改めて含蓄のある言葉に感じます。
長いキャリアの間には当然様々な事態が発生します。家族や私生活の事情もあるでしょうし、仕事の中で行き詰まったり、自分の思い通りに進まない事態に直面したり、メンタルに支障が生じたり、継続する力をくじく理由になりそうなことはいくらでも見つかるでしょう。それでも縁があって与えられた案件をひとつひとつ地道にこなしてゆける忍耐強さが必要です。続ける能力そのものが力なり、だとも言えます。
それに、どんな職業でもそうでしょうが、通訳者も一旦クライアントの現場に入れば、どんな場であれ、そこで自分の能力を最大限に活用し、お客様に役立てていただくのが肝要です。その積み重ねが結果につながります。

振り返れば、スクールに通っていた頃に受けた講師からの指導で印象に残っていることがいくつかあります。どの点もその通りだといま納得できる事です。
その一つは、地道に訓練を続けているとどこかである時にスッと階段を上るように上達するものだという事。「化ける」タイミングがあると教えていただきました。学習と経験を重ねて技能が向上してくると、急にできなかった事ができるようになったり楽になったりする事がありますが、そのためには継続が大前提です。
通訳者の道も、華道や茶道のような芸事に似たところがあります。先輩から後輩を眺めるときは大体相手の力量レベルはわかるものですが、逆に後輩から上位の先輩を見ても容易に判断できるものではないように思います。知識にしても仕事のやり方にしても、必ず何か自分の未熟ゆえに理解できていないポイントがあるかもしれない、と思う余地を残す姿勢を持ちたいと思います。

また、「言葉ではなくて意味を訳して」と繰り返し指導をされました。表向きの言葉だけにとらわれすぎず全体の意味や文脈を失わないようにすること。
言葉だけを縦横に置き換えるだけの仕事でしたらコンピューターの方が速くて正確でしょう。深い理解のために日頃から感性を豊かにしておくことも大切な要素です。

通訳者のキャリアは自身の「全人的な成長」につながると、体験を交えて話してくださった講師もいらっしゃいました。筆者も僭越ながら本当にそうだと思います。たまに自分には過ぎた器量の人物にお会いして通訳をする機会に恵まれれば、多くのことを吸収でき、自分自身の成長の機会にもなります。
海のものとも山のものともつかない若者であった筆者も、クライアントに恵まれて様々なレベルの体験させていただくうちに少しは成長したかなと思うことにしています。まだまだ自分の知らない世界もたくさんありますし、苦手も克服できませんから、いつも成長の途上にいる気分ですが・・。

また、「自分の足で歩き、自分の頭で考え、自分で判断できるように」と指導してくださった講師もいらっしゃいました。
通訳の業務の中では、自分で選んだ表現を使って責任を持って伝えることをしなければなりません。それを可能にする自立・自律の心も大切なことです。逐次通訳であっても同時通訳であっても、仕事の最中は誰も助けてくれる人はいない中、時には緊迫した会議の中で時間に追われながら責任を持ってアウトプットを続けていかないといけません。
自分自身で感じ、考える事、その方が人生も楽しくなります!

以上は筆者の学んできた全てではないですが、そういった気持ちをもちつつ、変化の多い現代においてどんな姿勢で仕事に関わっていけば良いのでしょうか。

ここしばらくの間で、グローバル化により通訳案件が格段に増えました。異なった文化や言語をベースにする他者と共に考え、協力・共創をする場面が一般人のレベルでも飛躍的に増えました。
簡単な会話であれば、アプリやAIも使用できるようになりつつあります。
道順を尋ねるとか、買い物をするとか、日常生活を助けるツールが普及して便利になるのはいいことでしょう。
最近ではAIの発達によって淘汰される職業リストなども発表されて、これからの職業として何が適当なのかを一考する方もいるかもしれません。通訳に限らず他の職業であっても不確実な世の中になりました。

どんな未来が来るのか、当然筆者にもわかりません。
AIを使った言葉の変換も、インプットしたデータ量にアウトプットの精度は比例するでしょう。また、AIの学習アルゴリズムにも鍵がありそうです。
設計者が意図を持っているか否かにはかかわらず、アルゴリズムの設計が何らかの取捨選択や編集を取り入れて行うものだとすると、そこに人間の一定の価値観や文化が反映されるものになるのではと思われます。アルゴリズムがブラックボックス化してしまうと批評的なレビューができなくなり、結果としてシステムを利用する人間が依存的になり想像力が奪われ、誤解や無理解の遠因になってしまかもしれません。ワイルドな妄想がどんどん膨らんでしまいますが、悲観や楽観の極端に走らず、常に落ち着いて地に足をつけていたいものです。

どんな展開になるにしても、個人レベルでできる事は、まず目の前の他者と効果的なコミュニケーションを成立させる事です。
通訳者でなくとも、その他者とのやり取りを通じて異言語間・異文化間の境界に立ち会う経験をする機会が頻繁にあるでしょう。能動的に関われば、互いにわかりあう関係の楽しさも味わえるでしょうし、逆に相互理解の微妙な難しさも体験できるでしょう。
しかし、自分で語学を学習して意思疎通を図るのと、機械に頼って会話をしようとするのでは根本的に異なると思います。外国語を学習する事によって自分自身の知的・心理的境界線を押し広げる事ができますし、常に言葉のニュアンスの違い・ズレを体感することで想像・創造力がかきたてられます。「自分で感じて考える」ことはとても大切なことです。
その意味で、筆者は通訳の仕事は醍醐味に溢れていると思います。
通訳を目指して日々勉強を続けていらっしゃる皆さま、良い仕事ができることを目指して努力を怠らない同僚の皆さま、また、語学学習に尽きない興味のある皆さまに連帯とエールを送りたいと思います。

一年間、拙文にお付き合いいただき、どうもありがとうございました。

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