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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『LEARN & PERFORM!』 翻訳道(みち)へようこそ 村瀬隆宗

第7回

Mis/Dis/Mal-information:情報を知識にするために

コロナ禍に入った頃から続けている読書法があります。日英問わず複数冊をローテーションで読むというもので、どれほどオリジナリティがあるか分かりませんが、うまくいっているので紹介させていただきます。

  

  • ● 読みたい本を複数冊用意する。
  • ● 縦積みする(増えてもスペースをとらない)。
  • ● 一番上の本を好きなだけ読む。気が乗らなければ1ページでやめる。
  • ● 読んだら一番下に入れる。続きを読むのは次に一番上まで浮上したとき。
  • ● 読みたい本が出てきたら追加する。ただし冊数に制限を設ける(私の場合は最大7冊)。
  • ● 追加すると制限をオーバーする場合は、一番つまらない本を退場にする。
  • ● 退場にした本も、また読みたくなったら復帰させる。
    (電子本でも端末内で同様のことができます)

 

面白くて一気に読んでしまった、という本ばかりならいいのですが、だいたいは内容のせいなのか、あるいは気分のせいなのか、中だるみを経験するものです。読み進めるのがおっくうになり、かといって途中で他の本に移る気にもなれないので読書がストップしてしまう、ということもあるのでは。

  

上の方法なら、つまらなくなってきた本は少し読んでやめて、面白くなってきた本をたくさん読む、というローテーションを繰り返しているうちに、退屈パートをくぐり抜けることができます。

  

内容を記憶に定着させるためにも効果的です。せっかく読んでも、しばらくすると内容をさっぱり覚えていない、ということはないでしょうか。私も「この本デジャブ感があるな」と思っていたら途中でようやく既読の本だと気づいた、という経験があります。

  

上の方法だと、1冊を読み切るのに時間がかかる半面、読む順番が回って来たときに自然と前回までの内容を思い出そうとするため、記憶に残りやすいように感じています。

  

この方法に限らず、多様な本を多数読むこと自体に、大きなメリットがあると思っています。それはよく言われているように「知識をたくさん得られる」ことではありません。むしろ、その勘違いに気づき、「情報を知識に変える」習慣をつくることだと考えています。

  

本に含まれているのはknowledge(知識)でなくinformation(情報)です。これを分かっていないと、情報をそのまま知識として取り込む、いわゆる鵜呑みをすることになります。

  

右寄り、左寄りの新聞やニュースが伝える情報があからさまに食い違うことの多いアメリカのほうが一見、情報を鵜呑みにしない姿勢を身に着けやすいように思えます。ところが実際には、多くの人が偏った姿勢で報道に接しています。たとえば民主党支持者ならCNN、共和党支持者ならFox Newsの情報が事実だと決め込みがちです。

  

そして互いに、相手が発信しているのは「fake newsだ」とののしり合います。フェイク情報にもmisinformationとdisinformationがありますが、いずれも大統領選やコロナ禍の初期に特によく目にした言葉です。

  

ジャーナリストを法的に支援する団体・MEDIA DEFENCEのサイトでは、以下のようにまとめられています。

  

Misinformation
Information that is false, but the person who is disseminating it believes that it is true.

Disinformation
Information that is false, and the person who is disseminating it knows it is false. It is a deliberate, intentional lie, and points to people being actively disinformed by malicious actors.

  

misinformationは間違った情報ながら、発信者が正しいと思って伝えたもの、つまり「誤情報」ということです。

  

disinformationは発信者が故意に事実を歪めたもの、つまり「偽情報」または「虚偽」です。

  

なお、mal-informationは事実に基づくものの、他者を害することを目的とした情報、つまり「悪意ある情報」です。

 

何がmisinformationで、どれがdisinformationなのか。そこに注意しながら多様な本を読みつつ、fake news主張合戦が繰り広げられるアメリカを、外部から偏向のない視点でウォッチする。「ほんとうかな?」というcritical thinking(批判的思考)を養いつつ、誤情報や偽情報を見極めながら情報を知識に自ら加工する習慣づけのトレーニングには、これが最適なような気がします。

 

こうして身に着けた「情報リテラシー」が役立つのは、インプットの面だけではありません。アウトプット、つまり発信の面にも生かしたいところです。

 

たとえばTwitterでの何気ないリツイート。何となく正しそうと思えても、クリックひとつでmisinformationをまき散らす結果になりかねませんし、悪意が介在すればdisinformationやmal-informationを拡散していることになります。

 

日英問わず多様な本をたくさん読む習慣、いろんな視点の情報に触れようとする姿勢が、むやみに人を傷つけないことにつながるのではないでしょうか。

村瀬隆宗 慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

村瀬隆宗のプロの視点のアーカイブ

第28回:Hallucination:生成AIとの付き合い方

第27回:opportunity:ただの「機会」ではない

第26回:Insight:洞察?インサイト?訳し方を考える

第25回:Share:provideやgiveより使われがちな理由

第24回:Vocabulary:翻訳者は通訳者ほど語彙力を求められない?

第23回:Relive:「追体験」ってなに?

第22回:Invoice:なぜ「インボイス制度」というのか

第21回:Excuseflation:値上げの理由は単なる口実か

第20回:ChatGPTその2:翻訳者の生成AI活用法(翻訳以外)

第19回:ChatGPTその1:AIに「真の翻訳」ができない理由

第18回:Serendipity:英語を書き続けるために偶然の出会いを

第17回:SatisfactionとGratification:翻訳業の「タイパ」を考える

第16回:No one knows me:翻訳と通訳ガイド、二刀流の苦悩

第15回:Middle out:トップダウンでもボトムアップでもなく

第14回:Resolution:まだまだ夢見る50代のライティング上達への道

第13回:Bird’s eye view:翻訳者はピクシーを目指すべき

第12回:2つのquit:働き方改革と責任追及

第11回:Freelance と “Freeter”:違いを改めて考えてみる

第10回:BetrayとBelie:エリザベス女王の裏切り?

第9回:Super solo culture:おひとりさま文化と翻訳者のme time

第8回:Commitment:行動の約束

第7回:Mis/Dis/Mal-information:情報を知識にするために

第6回:Anecdote:「逸話」ではニュアンスを出せません

第5回:Meta:メタ選手権で優勝しちゃいました

第4回:For〜木を見るために森を見よう〜

第3回:Trade-off〜満点の訳文は存在しない〜

第2回:Translate〜翻訳者は翻訳するべからず?〜

第1回:Principle〜翻訳の三原則とは〜

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