ホーム  >  Tips/コラム:プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム  >  村瀬隆宗のプロの視点 第9回:Super solo culture:おひとりさま文化と翻訳者のme time

Tips/コラム

Tips/コラム

USEFUL INFO

プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『LEARN & PERFORM!』 翻訳道(みち)へようこそ 村瀬隆宗

第9回

Super solo culture:おひとりさま文化と翻訳者のme time

2020年にBBCのサイトで日本のおひとりさま文化が取り上げられました。タイトルは“The rise of Japan's 'super solo' culture”。「おひとりさま文化」はsolo cultureだけでなく、superが付いていました。

  

その最たる理由は、人口動態と世帯構成の変化に伴う1人世帯の急増、すなわちsuper solo societyとの関連性を示すためでしょう。増加するひとりニーズに応えるサービスの拡大が、おひとりさま傾向に拍車をかけているというわけです。

  

もうひとつ、solo cultureだったら英米ではごく普通、というのもあるのでは。individual-oriented、「個」を重視する英語文化圏では個人行動が尊重され、だからこそひとりで何か、たとえばご飯を食べたり映画を観たりするにしても、他人の目は気にならないようです。

  

一方でgroup-oriented、集団を重視する日本では、少し変わったことをすると噂の対象になりがちです。井戸端会議というのは会場をLINEに変えて続いているようですし、直接参加していない私も、そこから漏れ出たゴシップを食卓で聞いて喜んでいます。となると、逆に噂されないかと他人の目を気にしないわけにはいきません。

  

そんな国で、少し前まで「友達がいないと思われるんじゃないか」と気にしていたのが、構わずひとりで食べ、鑑賞し、夢の国のアトラクションに並ぶようになった。その特別な変化をsuperで表したのではないでしょうか。

  

私自身は協調性のなさから会社を辞めて翻訳者になったくらいですから、ソロ行動には昔から慣れていますし、大きな仕事を終えて乾杯したくても相手してくれるのはワンコくらい。いきおい、打ち上げはひとり〇〇が基本です。

  

ですから、ひとりキャンプからひとりプラネタリウムまで、だいたい制覇したつもりでしたが、king of super soloとも言える活動が未経験でした。ひとりカラオケです。

  

日本人にとってカラオケというのは、enjoyすると同時にentertainするものではないでしょうか。かくいう私も、歌いたい曲というよりも、みんなが知っていそうな曲、盛り上がりそうな曲を選んで、踊ってみたりしていました。柄にもなく松田聖子のバラードなんて、とてもとても選べなかったわけです。

  

そこで、おじさん1人のせいでほろ酔い気分の若者グループが入れなかった、という大ひんしゅくを起こさないように、すいていそうな木曜日の夜中、仕事を終えてから駅前のカラオケ店に繰り出しました。super solo cultureが根付いた国だけに、店員さんの対応も手慣れたものです。

  

部屋をあまり明るくしなければ、廊下との照度差でひとり熱唱している姿をドア越しに見られず済むことを確認してから、本当に歌ってみたかった曲を生まれて初めて歌いました。そうか、これが「本音」のカラオケか。そこにもまた、super soloの背景が垣間見えました。

  

個を尊重するアメリカなら、グループでカラオケに行こうが、めいめい歌いたい曲を歌うのではないでしょうか。日本では自分が楽しみつつも仲間を楽しませるという「建前」のカラオケがあるからこそ、本音、すなわちひとりカラオケが必要になる。集団への尊重に対する反動から生まれたのが、おひとりさま文化というわけです。

  

とにかく、大声を出す機会がない翻訳者の皆さんにme timeの「ひとカラ」はおすすめです。そのほか採点機能、さらには全国で同じ曲を歌っている人たちとオンラインでバトルし、ランキングされる機能も。

  

歌はウマくもヘタでもなく普通だと思っていたのですが、「時の過ぎゆくままに」は全国170人中155位。「赤いスイトピー」は250人中220位。あれっ?…これではストレスが発散されるどころか溜まりそうなので、バトルはもうやめておきますね。

  

参考文献
Lufkin, B.(2020, January 15)From cocktails to karaoke, more Japanese people are going it alone. What's causing the huge change in the traditionally group-oriented country? British Broadcasting Corporation.
https://www.bbc.com/worklife/article/20200113-the-rise-of-japans-super-solo-culture

  

村瀬隆宗 慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

村瀬隆宗のプロの視点のアーカイブ

第30回:Another Version of Me:違う「世界線」の自分

第29回:Inflection Point:いつか翻訳が通訳に繋がると信じて

第28回:Hallucination:生成AIとの付き合い方

第27回:opportunity:ただの「機会」ではない

第26回:Insight:洞察?インサイト?訳し方を考える

第25回:Share:provideやgiveより使われがちな理由

第24回:Vocabulary:翻訳者は通訳者ほど語彙力を求められない?

第23回:Relive:「追体験」ってなに?

第22回:Invoice:なぜ「インボイス制度」というのか

第21回:Excuseflation:値上げの理由は単なる口実か

第20回:ChatGPTその2:翻訳者の生成AI活用法(翻訳以外)

第19回:ChatGPTその1:AIに「真の翻訳」ができない理由

第18回:Serendipity:英語を書き続けるために偶然の出会いを

第17回:SatisfactionとGratification:翻訳業の「タイパ」を考える

第16回:No one knows me:翻訳と通訳ガイド、二刀流の苦悩

第15回:Middle out:トップダウンでもボトムアップでもなく

第14回:Resolution:まだまだ夢見る50代のライティング上達への道

第13回:Bird’s eye view:翻訳者はピクシーを目指すべき

第12回:2つのquit:働き方改革と責任追及

第11回:Freelance と “Freeter”:違いを改めて考えてみる

第10回:BetrayとBelie:エリザベス女王の裏切り?

第9回:Super solo culture:おひとりさま文化と翻訳者のme time

第8回:Commitment:行動の約束

第7回:Mis/Dis/Mal-information:情報を知識にするために

第6回:Anecdote:「逸話」ではニュアンスを出せません

第5回:Meta:メタ選手権で優勝しちゃいました

第4回:For〜木を見るために森を見よう〜

第3回:Trade-off〜満点の訳文は存在しない〜

第2回:Translate〜翻訳者は翻訳するべからず?〜

第1回:Principle〜翻訳の三原則とは〜

Copyright(C) ISS, INC. All Rights Reserved.