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『LEARN & PERFORM!』 翻訳道(みち)へようこそ 村瀬隆宗

第12回

Freelance と “Freeter”:違いを改めて考えてみる

皆さん覚えていますか?今から20数年前の大型テレビの価格を。当時、翻訳や英語と何の関係もない映像機器メーカーの営業マンだった私は覚えています。家電量販店の店頭価格は40インチで150万円ほどでした。

  

その後「1インチ1万円」の時代となり、今では普通に5万円を割っています。これはもちろんメーカーの努力の賜物でもありますが、需要サイドでのearly adapter様の貢献も忘れてはなりません。新しい物好きの富裕層やマニアの皆さんが発売当初に高値でも買ってくださるからこそ、商品が波に乗って量産可能になり、その効果で原価が下がり、ひいては私でも手の届くところまで価格が下がっていくのです。

  

私はいつでもlate majority、つまり価格曲線が庶民ラインを割り込むのを、のんびり待っている口です(最近ようやくロボット掃除機が気になり始めました)。ただ、一度だけearly adapter役を買って出たことがあります。商品はスマホでした。

  

10年以上前、サイズは最近のスマホより小さいくらいで、縦長ボディーに微細なアルファベットキーがqwerty配列で並んでいました。歯の治療中に電話がかかってきて取り出すと、いつも無口な歯医者さんも「それ、携帯なんですか?」と興味を示してくれたものです。

  

決してマニアではなく、外出中のメール確認などで仕事に役立ちそうだと考えたからでした。その後もiPhoneなど最新機種が出るたびに購入…は、していません。廉価なAndroid機種を壊れるまで使い続けています。

  

というのも、デビューが早すぎた結果、スマホはとうに卒業し、今やすっかりサブの立場。「ガラケー」がメインに返り咲いています。そうなったのは、自分にとってスマホは利点よりも欠点のほうがはるかに大きいから。欠点とは、電池の持ちもそうですが、フリーランスの天敵ともいえるdetractorであり、time thiefであることです。

  

そもそもフリーランスは「フリーター」と何が違うのでしょうか。法律的に言えば契約形態が違いますが(フリーランスは主に業務委託契約、フリーターは雇用契約)、この意味でのフリーターは「パート」と区別されていません。ですから、これはfreelanceとpart-timerの違いにすぎません。

  

そこで注目したいのが、時間への価値観の違いです(決してどちらが良い悪いということではありません)。フリーターは「今を生きる」という感覚ではないでしょうか。「明日は明日の風が吹く、バイトに遅刻しない程度に飲み明かそうぜ!」みたいな。“freeter”はもちろん和製英語ですが、英語で説明するなら
A part-timer with a seize-the-day attitude
という感じになるでしょうか。

  

一方、フリーランスは「時は金なり」の感覚です。たとえばテレビを観るにしても、「この時間で仕事を進めればXX円もらえる」、つまり「機会費用」を頭の片隅で計算してしまいます。

  

私の息子は『ONE PIECE』が大好きで、絶対に面白いから読めとしつこいのですが、私は拒否し続けています。面白いのは間違いないのでしょうが、100巻以上出ているそうで、最近の漫画を読むのに難儀する自分にとって、全巻制覇には「100万円かかる」(その時間で仕事をしていれば得られたはずの報酬)ことになるからです。

  

だからといって漫画を一切読まないというわけではなく、常にその天秤を働かせているということです。手持ちの仕事がなかったとしても、その時間を勉強に費やすことを考えるでしょう。それはフリーランスにとって、将来への投資にほかならないわけですから。

  

time thiefなのはスマホ自体というより、そのコンテンツ、なかでもSNSです。翻訳者と見受けられる方にも天敵であるはずのSNSで絶えずやり取りされている方もいらっしゃいますが、私にはちょっと考えられません。上の定義でいえば、それはフリーランス翻訳者でなく「フリーター翻訳者」です。

  

繰り返しになりますが、それが悪いということではありません。考え方はそれぞれです。でも、もし「本当は絶ちたい」と思われているなら、メールさえdetractor、つまり集中を妨げるものとみなすこのガラケー翻訳者から、アドバイスを差し上げましょう。

 

どうしても用がある時を除いてログアウト状態にし、ログインも2段階認証など、あえて手間がかかるようにしておくこと。これは基本ですが、もうひとつ大事なのは「運営会社との戦い」をイメージすることです。

   

最近、自分がつくったゲームを自分の娘に絶対やらせないというゲームクリエーターのエッセイをThe New York Timesで読みました。

  

That’s the ultimate goal: to build habit-forming games that have players coming back every day. In other words, it takes away the decision-making.

  

これはゲームの話ですが、SNSも同じです。アルゴリズムに基づく「おすすめ」などの仕組みを通してあなたの意思決定能力を奪い、習慣化・常在化を促しているのです。そんな悪魔のような勢力に屈してたまるか!と、反旗を翻してみませんか?

  

ところで、息子の『ONE PIECE』への誘いを断っている理由はもうひとつあります。私にとっては、他人が作った冒険を読むより、敵(仕事)を倒し、スキルを高め、もっと大きな敵に挑むという、まるでRPGゲームのような冒険を自分でするほうが、よっぽど面白い。「フリーランスは日々冒険する」というのもフリーターとの違いと言えるかもしれません。

参考文献

Siu, W (2022, October 2) I Make Video Games. I Won’t Let My Daughters Play Them. The New York Times.
https://www.nytimes.com/2022/10/02/opinion/video-game-addiction.html

村瀬隆宗 慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

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