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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


『LEARN & PERFORM!』 翻訳道(みち)へようこそ 村瀬隆宗

第14回

Resolution:まだまだ夢見る50代のライティング上達への道

不義理を重ねた3年間。コロナ禍に入ってから、「どうせ帰省も旅行もできないから」ということで仕事を受けた結果、年末年始が通常以上に忙しくなり、年賀状を出せず仕舞いになっていました。

  

昨年末は今度こそ出そうと決めていたものの、やっぱり忙しくなって、いつの間にか大晦日。もうしょうがない、せめて年が明けてから、こんな人間にまだ送ってくれる方だけにでも返信しよう。幸い、と言っては失礼極まりないし、決して選別を意図したわけではないものの、その数は少ないはず。愛犬の写真でごまかすのではなく、住所や挨拶も心を込めて手書きでしたためよう。とりあえず届く前に準備しておこう。

  

ということで、A Happy New Yearを筆記体で書く練習を、2022年も残り4時間になってから開始しました。自分には馴染みのない曲が多くなった紅白歌合戦を見ながら。

  

筆記体の練習は少し前から始めていました。YouTubeの動画を「cursive style」で検索し、その中で気に入った字を書く人が手芸品サイトEtsyで販売していた練習用PDFファイルを購入。プリントアウトして、お手本をなぞり、反復して書きます。中学で習った筆記体よりオシャレで、なかなか上手に書けないNやrなどは再印刷します。

  

新年になり、私宛があってほしいような、ほしくないような気持ちで郵便受けを確認し、まあまあ満足のいくA Happy New Yearを十数人の方にお届けしました。New year’s resolution(新年の抱負)も「筆記体の練習を続ける」です。

  

なぜアメリカの学校でさえ必修ではなくなった筆記体を鍛錬するのか?これには3つの狙いがあります。

  

① A Happy New Yearを極める
もっと上手に書いて、心を込めた年賀状を引き続き届けたい。そして、ご無礼したままの方々にも、数年のご無沙汰を経て返信したい。「来なくなったから送る年賀状が1枚減ってよかった」という方には迷惑かもしれませんが。

  

② 喫茶店などでかっこいいと思われたい
学生時代に「電車で読んでいたら勉強できると思われそう、モテそう」という理由でNewsweekを購読し始めた私らしく、浅はかな理由で申し訳ありません。時間ができるとノートとペンだけ持って駅前のドトールコーヒーで英語の文章を書くのですが、流麗な筆記体で書いたら「ただ者ではない」と思われるかと思って。。まだまだ人様にお見せできるレベルではないので披露していませんが。

  

③ ライティング力をもっと上げたい
そもそも喫茶店で英文を書くのは、ライティング力を上げたいから。翻訳には表現力が欠かせません。日英翻訳の質向上を目指すなら、英語を書く力を上げないわけにはいきません。最近50代に突入しましたが、新年より長期的な向こう10年へのresolutionは「(ただのネイティブでなく)文章が上手なネイティブと同等な文章を書けるようになること」。「英文」ではなく、「英語の文章」です。

  

機械翻訳の時代、翻訳者には表現力だけでなく文章構成力が求められると、私は考えています。翻訳学校の受講生にも、お手本になる文章を写す「写経」のトレーニングを通して、上手な組み立て方を自分のものにすることを勧めています。筆記体の練習は、そうした書くトレーニングを楽しむための手段でもあるわけです。

  

書かなければ書けるようにはなりません。何も考えずに読んでいてもアウトプットの力は伸びませんし、新しい表現パターンや展開の仕方を獲得する上では、PCに入力するより自ら手を動かし、自らの筆跡を目にし、体で覚えることが効果的だと考えます。学校で筆記体を教えなくなったことは、文章力低下の象徴であるとともに、一因ではないかと疑っています。

  

せめて文単位でも英文を書く、あるいは気に入った英文を写すことで、表現力を上げたいころです。私はThe New TimesやThe Washington Postを読み、Twitterで内容要約によって記事を紹介することを仕事前の日課にしています。これは多読によるインプットの訓練と思われがちですが、そうではありません。

  

まず、今まで見聞きしても自分では使っていなかった言葉をできるだけ用いることで、日本語表現力を上げること。そして、記事を読む中で使えそうな表現を探し、盗むこと。アウトプット向上の訓練なのです。

  

気に入った表現は文単位でノートに万年筆で写します。ただし、見ながら書くのではなく、覚えてから見ずに書きます。それを自ら添削し、インク色の違うペンでもう一度書きます。さらにインク色を変えてもう一度。万年筆を使うのは、日常的に使っていないと目詰まりを起こして書けなくなるから。あえて、それを複数本用意して毎日どれも使うようにし、旅にも持って行きます。

  

上手に筆記体で書けるようになれば、書くことがますます楽しくなってmy resolution for the next ten yearsの実現に近づけるのではないか。筆記体もさまざまですので、Spencerianなどもっと装飾的な書体にも挑戦するつもりです。その先には「夢」と言ってもいい、さらに長期的なresolutionがあります。それは「英文コラムニスト」になること。60代でも、70代になってからでもいいので、できればThe Timesなどの一流紙に1本でも寄稿し、日本を語りたいと思っています。

  

ところでresolutionには決議の意味もあります。よく聞く国連総会のresolutionは、語感とは裏腹に法的拘束力がないため、実質的には勧告です。翻訳で使いがちなのは取締役会等、企業の意思決定の文脈。特に英国企業では株主総会の「決議案」(米国企業の場合proposal)の意味でも使います。

村瀬隆宗 慶応義塾大学商学部卒業。フリーランス翻訳者、アイ・エス・エス・インスティテュート 英語翻訳コース講師。 経済・金融とスポーツを中心に活躍中。金融・経済では、各業界の証券銘柄レポート、投資情報サイト、金融雑誌やマーケティング資料、 IRなどの翻訳に長年携わっている。スポーツは特にサッカーが得意分野。さらに、映画・ドラマ、ドキュメンタリーなどの映像コンテンツ、 出版へと翻訳分野の垣根を超えてマルチに対応力を発揮。また、通訳ガイドも守備範囲。家族4人と1匹のワンちゃんを支える大黒柱としてのプロ翻訳者生活は既に20年以上。

村瀬隆宗のプロの視点のアーカイブ

第30回:Another Version of Me:違う「世界線」の自分

第29回:Inflection Point:いつか翻訳が通訳に繋がると信じて

第28回:Hallucination:生成AIとの付き合い方

第27回:opportunity:ただの「機会」ではない

第26回:Insight:洞察?インサイト?訳し方を考える

第25回:Share:provideやgiveより使われがちな理由

第24回:Vocabulary:翻訳者は通訳者ほど語彙力を求められない?

第23回:Relive:「追体験」ってなに?

第22回:Invoice:なぜ「インボイス制度」というのか

第21回:Excuseflation:値上げの理由は単なる口実か

第20回:ChatGPTその2:翻訳者の生成AI活用法(翻訳以外)

第19回:ChatGPTその1:AIに「真の翻訳」ができない理由

第18回:Serendipity:英語を書き続けるために偶然の出会いを

第17回:SatisfactionとGratification:翻訳業の「タイパ」を考える

第16回:No one knows me:翻訳と通訳ガイド、二刀流の苦悩

第15回:Middle out:トップダウンでもボトムアップでもなく

第14回:Resolution:まだまだ夢見る50代のライティング上達への道

第13回:Bird’s eye view:翻訳者はピクシーを目指すべき

第12回:2つのquit:働き方改革と責任追及

第11回:Freelance と “Freeter”:違いを改めて考えてみる

第10回:BetrayとBelie:エリザベス女王の裏切り?

第9回:Super solo culture:おひとりさま文化と翻訳者のme time

第8回:Commitment:行動の約束

第7回:Mis/Dis/Mal-information:情報を知識にするために

第6回:Anecdote:「逸話」ではニュアンスを出せません

第5回:Meta:メタ選手権で優勝しちゃいました

第4回:For〜木を見るために森を見よう〜

第3回:Trade-off〜満点の訳文は存在しない〜

第2回:Translate〜翻訳者は翻訳するべからず?〜

第1回:Principle〜翻訳の三原則とは〜

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