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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム
通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千
第6回
通訳の赤裸々な一日(day in life)と、すき間時間管理
ようやく花粉の時期が終わりましたね。やっと外出時に花粉用メガネとマスクをしなくてもよくなりました。心地よく外へ行ける貴重な季節なので、散歩をたくさんしたいと計画しています。
今日は「通訳の赤裸々な一日(day in life)と、すき間時間管理」と題してお送りします。
コロナ以降、通訳業界には「リモート通訳」という業務形態が定着しています。コロナが第五類に引き下げられるまでは、会議はリモートでという企業が多く、リモート通訳案件がスケジュールの殆どを埋めているという通訳者も多くいました。2024年5月現在では、ほとんどが現場対応という通訳も増えていますが、大半はハイブリッドではないかと思います。現場と自宅リモートの割合はそれぞれ違いますが。
私もハイブリッド型でお仕事を受けていますが、割合は自宅リモート通訳案件の方が圧倒的に多い通訳者です。
自宅リモート通訳案件は現場への移動がないので、案件の間が15分ほど空いていればいくらでも引き受けることができる(理論上)ので、稼働効率はとてもよくなりました。
さて私の赤裸々な一日ということで、包み隠さずお話ししましょう。
① 超多忙な日(すべて自宅リモート通訳)、②リモート通訳と現場とのハイブリッド、③忙しくない日
と3例を挙げて、その時間管理の仕方、どこに勉強時間を入れているのかなど、「勉強術」を読んでくださった皆さんの疑問にお答えしたいと思います。
① まず超多忙な日から行きましょう。
1日最高で6件対応する日もありますが、超多忙日の平均案件数は4件から5件。一件目朝7時~8時(一人で対応)その後9時~11時(二人体制)、昼休憩して14時~17時(二人体制)そして夜20時~21時(一人対応)、これが典型的な超多忙日です。このパターンの日は、全体スケジュールを見て、どこでどう食事をとるのか、家事をするのかなど日常生活の部分も計画します。会議中は中座できませんから、水分摂取のタイミングも計画しておきます。
朝起きて紅茶を飲み、軽くクッキーを食べて一件目の会議対応、その後トーストと卵の本格的な朝食を摂り二件目の11時までのヘビーな会議を担当する(この日は燃料電池会議で化学学会のような話だったので、とても疲れた)。その後ランチを摂りますが、17時までの間にお腹が減ることが予測されるので、軽いランチにして、3時の間食も用意します。そして17時終了と同時にダッシュで夕食の支度をして、お風呂へ入ってしまいます。夕食は会議の始まる1時間前までには終わらせたいので、19時には終了。超多忙な日は、基本的には仕事だけをします。各会議の資料が直前まで送られてくるので、家事をするにしても軽い掃除のみ。この日は健康のためのウォーキングはなし。
このパターンの日は、本当に脳も身体も休む暇なく働きますので、夜の案件が終了したらもう身体にはエネルギーが残っていないような状態で枯渇しています。すべてを終了したら、軽く玄米茶を飲んで、その日の反省をして、その後次の日の会議資料があれば読み、なければベッドでYouTubeを視聴して寝ます。あまりに疲れていたら資料を読んでも頭に入らないので、スパッと寝てしまい、次の朝読むことが多いです。
② パターンその2。リモート通訳と現場通訳とのハイブリッド。
朝7時から8時までリモート通訳の後、片道50分の現場で9時半集合~16時終了の案件があり、その後帰宅してリモート通訳案件が20時から21時まである日です。合計2~3件というのがこの日の平均です。まず、食事プラン。5時半に起床して紅茶とシリアルを食べ、案件対応。その後本格的にトーストとコーヒーの朝食を摂って出勤。お化粧など身支度は朝5時半に起きた時に終えておきます。
現場が終了して、自宅へ17時半に戻り、作っておいたサラダと解凍した肉を焼き夕食の支度。その後仕事部屋へ行き夜の案件をして、その後風呂に入り就寝。寝るときにポッドキャストで「人工知能と労働」を聴き、その後「Get Sleepy」というナレーションを聴きつつ寝入ってしまった。「超多忙の5件対応する日」以外のパターンの日は、必ず1時間は英語を聴いて寝ることにしています。聴くものは何でもいいのですが、やはり自分の仕事直結のものを聴きます。
③ その3の、「忙しくない日」。
これはカレンダーの中でも私も待ち望んでいる日です。月のうち数日あります。典型的な日程は、朝7時から8時半までの案件だけとか、夜20時から21時の会議だけ、などです。この日については、前々からいろいろとやりたいことを盛り込んでいます。たまに案件のない日もあります。
案件のある日を例にとります。まず朝起きたら、7時から仕事ですが、終わったら2時間以上はヒアリングの勉強をします。真剣に視聴、その後流し視聴です。題目は「人工知能」または「量子コンピュータ」などです。その間にたまっている家事をして、その後散歩を兼ねて買い物します。一日9000歩を目標としています。途中でいつも寄ってるお家カフェで軽いランチをして読書をして帰宅し、次は報道ものやドラマを英語で視聴します。家事をしつつスピーカーに切り替えて英語のニュースを聴きながら料理をします。この日は一件だけしか仕事がないので、コラムを書いたり、今書いている小説の途中を書いたりします。
この3つのパターンでの時間管理をするために、案件の時間帯がいつでも目の前で見えるようにA3サイズの大きなカレンダーを貼っています。リモート通訳は青色、現場はピンク色にして表示しています。その合間にできることをどんどん入れていきます。今は専門書を読んで机の上での本格的な勉強はしませんが、常に英語の視聴はしています。案件と案件の間の30分でも、その尺で終了するものを選んで聞いています。通訳のパフォーマンス向上のためです。
また健康維持ということで、スクワットとバレエのストレッチを組み合わせて30分、そして散歩をします。スクワットはいつでもできますので、リモート案件の接続待機中やすき間時間にやってしまいます。
結論から言うと、通訳には時間管理はできない、「できません」が実情です。それは、私たちフリーランス通訳は、クライアント様からの依頼が最優先でスケジュールが決まります。リモート案件でしたら、前後30分は他の案件は入れないようにしますが、それが叶わないときもあり、終わったらそのまますぐに次の案件へ移動接続ということもあります。現場への案件は、移動時間+30分は見ておきたいのですが、そういった要素で私たちの一日のスケジュールは決まります。
管理というよりは、その仕事のスケジュールの合間をいかに効率よく活用するか、ということが「時間管理」ということでしょう。通訳は「依頼を待つ」業種です。私たちの都合で、企業様やオーガナイザーに会議やコンファレンスの時間を指定することはできません。
ですから、「時間管理、どうなさってますか?」とよく聞かれる質問では、「クライアント次第」とお答えするしかありません。これが現実です。通訳ができる管理は、ダブルブッキングは絶対にNGという大前提で、すれすれの案件の場合「重ならないように時間のバッファーを確保したいから、エージェントに交渉する」とか、「9時間の会議だけど、私は午後の4時間なら対応できるので、どうでしょう?」ということぐらいでしょう。
時間管理も大切ですが、すべては喉の調子が良くて健康であることが前提です。時間管理=スケジュール管理=健康管理です。無理が生じないように、魅力的な案件が後からきても無理そうなら断る、条件が合わなければ断る、という断る勇気も大切です。
どうしてもと乞われるときもありますが、その時はエージェントに「この時間帯だけならば対応可能」という交渉をすることも時間管理の一部でしょうか。
それと最後にヒアリングの勉強ですが、時短のためにアプリで速度を調整して「1.25倍速か1.5倍速」で聴いています。時短目的だったのですが、これはもうヒアリングの力が躍進します。同時に仕事の会議で話している英語スピーカーの速度が遅くてイライラすることもありますが、それは良い副作用ということで。。。今は何倍速まで行けるか試していますが、これがまた楽しいです。
相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。
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