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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム
通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千
第8回
フリーランス通訳の休暇の取り方
皆様こんにちは。
今年も10年に一度の猛暑と言われています。毎年●年に一度とか●年ぶりの暑さと言われていますね。熱中症には気を付けてくださいね。
対策として、私は外に出るとき、塩分チャージのラムネを3個と氷で冷やした水を保冷できる水筒に入れて持ち歩いています。現場に行く時もそうしています。そして15分ごとに少しでも水を飲むようにしています。
昔、現場が想定以上に遠くて迷ってしまい、炎天下を(日傘はさしていました)30分ほど歩く羽目になったことがありました。足がだるくなった頃やっと到着しました。さて会議が始まったら目の前に星がキラキラし始めました。そして手がしびれ始めました。ブースの中は蒸し暑く、自分の分担が来た時には、頭ががんがん痛くなりました。気持ちも悪くなりました。初期の熱中症です。
熱中症は通訳のパフォーマンスに直接の悪影響があります。頭痛や吐き気がすると、ヒアリングができなくなり訳が荒くなります。その日、私はさんざんなパフォーマンスで、クレームが出なくてホッとしたような出来栄えでした。
皆さん、現場への移動もどうぞ気を付けてくださいね。
さて、前置きはここまでにして、今月のお題目、ギアをシフトして「フリーランス通訳の休暇の取り方」をお話しましょう。ちょうど皆さんも夏休みを取られる頃だと思います。
「フリーランス通訳は自分で自由にスケジュール組めて、自分の都合に合わせて休暇とれるから最高の仕事」と誤解される方も多いように思います。確かに、休暇を好きな時期に好きなだけとったことに対するリスクを承知の上でなら、それは可能です。でも休暇、特に3日以上の休みを取る時には、いくつか留意する点があるのです。
1)最も仕事の依頼を受けているエージェントの繁忙期に重ならないようにする
2)クライアント別にみても、そのクライアントの重要な定期会議に重ならないか
3)海外へ行く場合、フライトがキャンセルになった時や現地でトラブルがあった時に、代わってもらえる通訳はいるのか?
特に私は1)については配慮して休暇をとっています。1)と2)は紐づいていることが多いので、最多依頼のある企業が、長期休暇のある場合は、それにくっつけて前後休むようにしています。そうすると、エージェントや企業から見ると、1週間ほどの休暇をとっただけになります。
そしてこれが大事なのですが、1か月以上前から、エージェント(複数エージェントでもすべて)に、この期間はこういったことで休暇を取りますとアナウンスをすることです。エージェントも多数の通訳を抱えており忙しいので、一度だけではなく、数回メールなど文書で通達します。その際、仕事再開は何月何日からかということも併記します。
これは余談なのですが、お盆休みは、多くの通訳が帰省などで休むため、残った通訳に仕事が行く「お盆バブル」があると聞いたことがあります。外資系や海外拠点の企業には、お盆は関係ありませんものね。ある通訳さんは、お盆の期間中、ずっと案件で忙しく、その年は9月に休みを取ると言っていました。
具体的に私の例を出しましょう。
毎年、家族を訪問するため、アメリカ西海岸と東海岸両方に行きます。8月初旬からお盆明けプラス数日後までです。
7月に入ったらアナウンスを開始します。休暇中はメールの返信も、時差があるので即答できない旨、通知します。
私のメインクライアントは、製造業やIT企業が多いので、全社でのお盆休みが設定されておりしかも長いので、それに合わせます。
休暇中もメールは毎日チェックして(当たり前ですね)返信します。
帰国したら即、元気で無事帰国しましたメールを出します。
これがトラブルのない休暇の流れですが、3)の場合はどうでしょう?
まだ3)は経験していませんが、念のため、帰国便が東京に到着する2日後から仕事再開にしています。アメリカ国内で乗り継ぎをして日本へ帰国する場合、帰国予定日の翌日から仕事を受けるのは危険です。海外はその国の国内便はよく遅延します。その中継地から日本へ行く便は連携されておらず、乗り継ぎ者の遅延に関係なく、日本へのフライトは時刻通り出発するので、乗り損なうこともあります。長男が、一度フランクフルトで天候不順のため足止めを食い、帰国が一日遅れたことがあります。
病気などのトラブルは、即連絡します。できれば電話で。代替の通訳を見つけてもらわなければならないことと、ことの重要性を理解してもらうためです。私はもしこの事象が起こったら電話するつもりです。
そして最後は、休暇を取るリスクです。
え?リスクって何?と思う方も多いでしょう。
1週間ほどの穴あけは問題ないと思いますが、数週間の休暇を取ると、定期会議をその時に代わってやった通訳にその後から依頼が行くこともあるというリスク。新規大型案件がその時期にあったら、そこに初期メンバーとして入れないというリスクもあります。
実際、帰国したらなぜか依頼が減ったということも、ある通訳から聞いたことがあります。その後、案件数が戻ったかどうかはわかりません。
フリーランスとして独立したら、常に自分で管理と判断をしていかないといけないので、全てが自分次第でもあり、その責任も自分でとることになります。思い切って長い休暇を取るかどうかも、本人のキャリアパスでの位置づけや、休暇の理由やいろいろとあるので、一概に「これがベスト」とは言えません。
夏の次に通訳が休暇を取りやすいのは、12月20日以降です。
クリスマスが目前だと、海外の人は早めに仕事は終わらせて休暇に入りたいので、会議などはだいたい20日で終わりとなります。ここからお正月明けまでが、通訳全員、仕事もなくなり安心して休める貴重な2週間だと思います。
温泉に行ったり、忘年会をしたりと楽しんでください。
後は細かいですが、お子さんがいる場合は、参観日や行事など、休むことも多いでしょう。これは小まめにエージェントと連携して、きちんと理由を説明することもいいかもしれません。
フリーランスと休暇の課題は、個人によっても違うし、駆け出し時代と、私のような還暦通訳では、人生ステージが違い、休暇の持つ価値観も違います。
私は健康を鑑みて、元気で12時間飛行機に乗れるうちは、後悔なく家族との時間を過ごしたいので、思い切って長期休みますが、それぞれの事情だと思います。
もちろん、機会遺失のリスクもわかってやっています。
私にとって、次の大きな休暇は「人生の休暇」となりますが、それまでにまだまだ元気で活動できるので、社会のお役に立ちたいと思います。
まとめます。
長い休暇を取る時は、できるだけ早くエージェントに報告する。
海外の場合は、フライト遅延のリスクが高いので、仕事再開日は、帰国日から2日後が安全。
現地でのトラブル対応を自分で決めてシミュレーションすること。
そして、
長い休暇をとることで、リスクもある
ということです。
では、そろそろ私も、今年の渡米の準備を始めなくてはなりません。ボストンも猛暑らしく、洋服は真夏から秋までのワードローブを詰め込みます。
それでは、皆さんも猛暑での体調管理と、熱中症予防とに気を付けて夏を乗り越えてください。
また9月から、分野別勉強法の話題に戻ります。
相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。
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