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プロの視点 ー 通訳者・翻訳者コラム


通訳キャリア33年の
今とこれから
〜英語の強み〜
相田倫千

第9回

通訳者の流儀

 

皆様こんにちは。もう9月ですね。今年の4分の3が終ってしまいました。
今月からは通訳の繫忙期に入ります。夏の休暇はリラックスできましたか?
今月は予定していた内容を変えて、「通訳者の流儀」を取り上げたいと思います。

まえがき:2024年夏のアメリカで感じたこと

その前に、今これを書いているのは朝の5時半です。昨日の夕方、20日間の休暇から帰国し、只今絶賛時差ボケ中ということで、目が覚めたので気持ちを切りかえて書いています。
余談になりますが、少しお付き合いください。
前にも書いたように、アメリカ西海岸と東海岸には、二人の息子と留学時代からの友人が住んでおり、今回は皆を訪ねる大陸横断でした。
そこで気づいたことを書きます。

お盆を挟んでいたにも関わらず、日本人観光客にはほとんど出会いませんでした。私が留学していた1980年代後半はティファニーのニューヨーク本店には日本人が大挙して高価な銀の製品を購入していたり、ハイエンドのレストランは日本語が通じるほどでした。街角のいたるところで豊かそうな観光客(留学生として現地化していた私にはそう見えた)日本人がいました。
主要な空港には、JALやANAの専用常設カウンターがあり、いつ行っても用を足すことができました。
私と日本から遊びに来ている友人がNYを歩いていると、若い日本人の駐在員に誘われて、とても高価なランチをご馳走になりました。
現地化していた私は、日本はお金持ちだと肌で感じました。

そして2024年夏。
まずカリフォルニア州パサデナ、ここにはカリフォルニア工科大があります。昔は日本人の研究者や製薬会社の駐在員がコミュニティを作っていましたが、今年は日本人を見かけませんでした。
シアトルのSEA-TAC国際空港には、JALとANAの常設カウンターはありません。撤退したようです。日本への便がある時だけ、職員がカウンターに出てきてチェックインを行います。
その代わりに海外出張者対象の、「マイクロソフト」「アマゾン」の常設カウンターができています。

そして東海岸。
ニューヨークにあふれているのは、中国系と中東、欧州からの観光客で、お店の表示には、昔あった日本語表記はありません。代わりに中国語、韓国語(移民が多いのも理由)、アラビア語などです。マンハッタンでは日本語を話す人には出会いませんでした。メトロポリタン博物館でも、主要なのは中国語などです。
ボストンでは、数組の日本人に会いました。ボストン美術館でした。昔お盆の時期には、行列を作るほど多かった日本人観光客がほとんどいません。マサチューセッツ工科大学とハーバード大学にも行きましたが、日本人らしき留学生には出会いませんでした。

ここで感じたのは、マスコミでも言われている「国力の低下」です。
バブルを経験した私には、ショックなことです。
また日本は暮らしやすいので、敢えて海外へ出なくともいいという考えの日本人も多いのでしょう。
でも海外のことを知らずにいると、この先ますます取り残されてしまう。
若い人達(中年層も!)、外へ関心を持ってください。
そのためには、英語英語です(笑)。

通訳者のマナー

ここで本題の「通訳者の流儀」に入りましょう。
9月から繁忙期が始まります。コロナも収まり、現場で複数の通訳と組んでブースで通訳をする機会も戻ってきました。ここ数年リモートが主流だったので、マナーなどを知る機会がなかった人も多いのではなでしょうか?
私も新人の頃は、先輩通訳者に失礼なことをたくさんしてしまったと、今は穴があったら入りたいくらいです。そして迷惑をおかけした先輩に謝りたいと思っています。
私も最初からマナーがあったわけではありません。通訳は基本的に個人事業なので、皆でそろって研修を受ける機会はありません。「背中を見て学ぶ」世界ともいえるでしょう。以下、現場での通訳案件の際のマナーを、いくつかに分けてご紹介します。

1)メモだし。待機中の通訳者がメモをとって訳出中のパートナーに共有する「メモ出し」については、集中力をそがれるから不要と考える通訳もいます。メモ出しする人とは違った解釈でも、訳している本人なりに文脈をとって、折り合いをつけて訳している場合もあります。開始の前に、メモ出しが必要かどうか、必要ならどの程度必要かをパートナーと確認すると良いでしょう。またメモ出しをする際は、絶対に誤訳をパートナーに渡すということはしないでください。私の経験ですが、そのメモを信用してしまい「私が誤訳をする」羽目になりました。

2)交代のタイミング。これは二つのパターンに分かれます。パターン1はあくまでも交代時間を遵守するタイプ。私はこちらです。10分交代ならば、多少文脈上の区切れとしてまずくても、横で緊張してずっとスタンバっているパートナーを考え、文章が切れたところで交代します。
パターン2は、プレゼンや話題の切れ目で交代するもの。10分交代と決めていても、質疑応答みたいな内容が入ってしまったり、訳している本人が感じる切れ目(訳していない方の通訳には、わからないのが難点)まで訳すもの。私の経験では最長で5分以上オーバータイムということがありました。失敗経験ですが、パターン1の場合、時間を重視してしまった結果、先輩通訳者への受け渡しが話の途中になってしまい、あとで謝ったら「びっくりしましたよ」と少しお怒りでした。今はなるべく文章が終わり、かつオーバータイムとしても30秒以内を心がけています。パターン2の失敗(私が困った側になったのですが)、アクティブ通訳の切れ目がわからず、その間ずっと緊張して待っているのに交代してくれず、交代したころにはもう数分が過ぎており、いつ自分になるのかわからず苦労しました。いずれも、オーバータイムは長くて1分以内にするのが良いでしょう。

3)延長するか否か。会議によっては止むを得ず延長となる時があります。これは3人で組んでいるならば、全員で延長するか否かを統一する方が良いでしょう。理由は、エージェントは例えば9時から17時まで通訳一式で案件を受注するのが慣行なので、一人だけ延長というのは案件の契約として困難になるという理由。また雇用者側からすると、Aさんは延長してくれたけどBさんはしてくれない、などと不公平感が出るからです。もちろん例外はあります。全員で始まる時に「延長はどうるすか」を話し合い、合意をとることが良いでしょう。話しあった結論としてAさんだけ残って延長ということもあります。その後で延長については、その可能性が出た時にエージェントの担当者へ連絡をして許可をとります。もしかして、契約上延長は不可という案件かもしれないからです。やる気を見せたいがために(特に新人は)張り切ってクライアントの要求を全部受け入れる通訳もいますが、その裏の事情もあるので、必ずエージェントの担当者に確認をしてください。

4)レセプションなどのアテンド通訳。ディナーや立食の際の通訳ですが、その場にいる担当者に「通訳さんもお腹すいているでしょう。どうぞどうぞ召し上がってください」の誘惑には乗らないでください。私たちは仕事中です。食べないでください。かつて通訳者Aが、CEOも参加する立食パーティーで、Aさんの既知の担当者からそう言われて食べたことがありました。ワインも飲んだそうです。そのパーティーの主催は人事部だったので、それはもう強いクレームが来たそうです。Aさんから「やっちゃった談」として相談を受けました。謝罪をしたようですが、印象はよくなかったと思います。

さて、ざっと思いつくまま書いてみましたが、いかがでしょうか?
もし皆さんの方でこんなこと知りたいなどありましたら、コメントなどください。

それでは、夏も終わりますので、繁忙期頑張りましょう!!!

相田倫千 大学卒業後、米ニューヨーク州立大学、オレゴン州立大学大学院でジャーナリズム学び、帰国後、ISSインスティテュートに入学。現在はフリーランスの会議通訳・翻訳者として、IT、自動車、航空機、人工知能などのテクノロジー分野と特許など法律のエキスパートとして活躍中。

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